顕微鏡的多発血管炎けんびきょうてきたはつけっかんえん
最終編集日:2025/3/21
概要
顕微鏡的多発血管炎(MPA)は血管に炎症が起こる病気で、とくに毛細血管や小動脈、小静脈などの細い血管に炎症が生じます。炎症が起こると血管の損傷が進み、出血や血栓の形成、血流障害、血管の壁の壊死が引き起こされるため、腎臓、肺、皮膚、神経系など、さまざまな臓器に障害が及ぶことがあります。
MPAは自己免疫疾患の一つで、発症には自己抗体(自分の細胞や組織を攻撃する抗体)のMPO-ANCA(抗ミエロペルオキシダーゼ抗体)の関与が考えられています。そのことから、MPAは「ANCA関連血管炎」の一型に分類されます。ANCA関連血管炎にはそのほかに、多発血管炎性肉芽腫症や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症があります。
MPAは血管炎のなかでは比較的頻度が高く、年間発症率は100万人あたり約18.2人と推定されています。男女比に大きな差はなく、発症のピークは55~74歳です。厚生労働省の指定難病となっていて、専門的な診療が必要です。
原因
正確な原因はわかっていませんが、免疫系の異常が発症に関与すると考えられています。
とくに自己免疫の関与が示唆されていて、血液検査ではMPO-ANCAが高い頻度で検出されます。MPO-ANCAが血管の細胞を攻撃することで血管炎を引き起こす可能性が指摘されていますが、発症のメカニズムは完全には解明されていません。
症状
初期症状として、約70%の患者に、発熱、体重の減少、倦怠感などの全身症状が現れます。さらに筋肉痛や関節痛、しびれ、消化管からの出血、皮下出血が生じることがあります。
血管の炎症によって、とくに腎臓と肺が障害を受けやすいとされています。腎臓の炎症が進行すると血尿やたんぱく尿がみられ、倦怠感やむくみ(浮腫)が生じることがあります。重症例では、急速進行性糸球体腎炎を発症し、腎不全へと進行する可能性もあります。一方、肺に病変がある場合は、せきやたん、血痰、喀血、息切れなどが起こります。とくに肺胞出血を伴う場合は、生命にかかわる深刻な事態に陥ることもあります。
MPAを専門的に診る診療科は膠原病内科など自己免疫疾患を扱う診療科ですが、症状の現れ方によって、腎臓内科、呼吸器内科、神経内科、皮膚科などを受診してもいいでしょう。
検査・診断
MPAの診断には、血液検査、尿検査、画像検査、病理検査などが行われます。
血液検査ではMPO-ANCAや炎症を反映するCRPや赤血球沈降速度(ESR)を測定します。尿検査では血尿やたんぱく尿をみることが腎障害の評価に役立ちます。
画像検査として胸部X線検査や胸部CTを行い、肺病変の有無を確認します。さらに気管支鏡検査が行われることもあります。
腎臓や肺の病変の確定診断には、組織を採取して調べる病理検査が有用で、血管壁の壊死性血管炎が確認されることが診断の決め手となります。
確定診断には、急速進行性糸球体腎炎、肺出血または間質性肺炎、皮下出血、消化管出血、神経炎などの所見に加え、MPO-ANCA陽性や病理学的な所見を総合的に評価する必要があります。
他の血管炎や膠原病との鑑別も重要です。
治療
血管の炎症を抑える「寛解導入療法」から開始し、ステロイド(プレドニゾロン)や免疫抑制薬(シクロホスファミド、リツキシマブなど)を用います。重症例ではステロイドのパルス療法(短期間に大量投与する)や、免疫抑制薬の併用療法が必要となることがあります。
一般的に3~6カ月程度で症状が改善されて寛解(完治には至らないものの病状がコントロールされた状態)を得るケースが多く、その後は再燃(症状がぶり返すこと)のリスクを抑えることを目的とする「寛解維持療法」に移行します。
寛解維持療法ではステロイドの投与量を徐々に減らしながら、免疫抑制薬を継続します。寛解維持療法は、通常1~2年継続して行われ、再燃リスクが高い場合は、より長期間の維持療法が必要になります。
MPAの治療では、早期に寛解を達成することが重要です。血管の炎症が長引くと、腎不全を招いて人工透析が必要になったり、末梢神経障害による痛みやしびれが残ったり、間質性肺炎の進行で呼吸不全に陥ったりなど、深刻な合併症が残る可能性があります。
セルフケア
療養中
MPAは寛解が得られた後も再燃することがあるため、医師の指導により、継続的な治療を行うことが大切です。
ステロイドや免疫抑制薬の使用により感染症にかかりやすくなりますので、外出時のマスク着用、帰宅時の手洗い・うがい、感染症の流行期には人混みを避けることが推奨されます。ワクチン接種についても、医師と相談しながら適切に実施するこが重要です。
また、ステロイドの長期使用により、生活習慣病(高血圧症、糖尿病、脂質異常症)が進行することもあります。バランスのとれた食事、規則正しい生活、適度な運動などを心がけることが必要です。また、骨粗鬆症や白内障などのリスクも上がるため、骨密度の測定や眼科での定期検査を受けて予防に努めることがすすめられます。
なお、MPA発症の数週間前にかぜやインフルエンザなどの上気道感染症にかかっていたという症例が多く報告されていることから、上気道感染症の予防も重要視されています。
監修
東海大学 医学部血液腫瘍内科 教授
川田浩志