骨粗鬆症こつそしょうしょう
最終編集日:2023/5/25
概要
骨粗鬆症は、骨密度の低下と骨の質の劣化によって、骨の強度が低下する病気です。
骨は骨芽細胞によってつくられ(骨形成)、破骨細胞によって壊される(骨吸収)という新陳代謝をくり返しています。骨形成と骨吸収のバランスは一定に保たれていますが、何らかの原因でバランスが崩れた状態がつづくと、骨吸収が骨形成を上回り、骨密度の低下と骨質の劣化が起こり、骨粗鬆症につながります。最近の知見では、骨代謝とは別に、骨を形成するコラーゲンの繊維の異常が骨質劣化に大きく影響していると考えられています。コラーゲンの繊維の異常は、加齢や生活習慣病などが原因になります。
推定患者数は約1200万人、男女比は約1対3で女性が多いとされています。とくに閉経後の女性の発症リスクが高くなっています。
高齢者では骨粗鬆症があると、ちょっとした転倒での骨折や、背骨の椎体(ついたい)が潰れる「圧迫骨折」などを起こしやすくなります。これらの治療のための安静や行動の制限がその後の寝たきりや認知症につながり、生命予後の悪化やQOL(生活の質)の低下を招くケースが珍しくありません。
原因
骨粗鬆症には、骨の大きさや形(先天性の素因)、性ホルモンなどの内分泌代謝の異常、栄養、運動などの生活習慣・環境、加齢が関与しています。
閉経後の女性では、破骨細胞の活性化を抑制する女性ホルモンのエストロゲンの分泌が激減するために骨吸収が増加することによって骨形成が低下し、骨粗鬆症を発症しやすくなります。
栄養面では、骨の材料となるカルシウムやその吸収を助けるビタミンD、マグネシウム、骨を強化するビタミンK2などが不足することが原因となります。
また、骨はある程度負荷をかけると骨芽細胞が活性化して、カルシウムが骨に沈着しやすくなることがわかっています。そのため、運動不足も骨粗鬆症の原因になります。
加齢による発症リスクの上昇は、消化管の機能低下や筋肉量の減少などで、骨形成にプラスになる栄養素を十分に摂取できないことや、運動不足などが関係しています。
また、ほかの病気や薬物によってもひきおこされ「二次性骨粗鬆症」と呼ばれます。甲状腺機能亢進症、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、関節リウマチ、過度の喫煙・アルコールの摂取、ステロイド剤の服用などが挙げられます。
症状
骨の強度が下がることによって、背中や腰が曲がる、腰痛、背部痛、身長が縮む、ちょっとしたつまづきや転倒で骨折する、などが起きてきます。椎体骨折の場合は60~70%が無症状であるため、本人が気づかないこともあります。
検査・診断
問診で転倒や骨折の既往、糖尿病などの持病、身長の減少などの有無を確認した後、骨量検査のDEXA(デキサ)法で腰椎と大腿骨頸部(股関節)の骨密度の測定を行います。DEXA法はX線を用いる測定法で、検査台に横になってX線撮影を行う負荷の少ない方法です。DEXA装置がない場合は、手にX線をあてて調べるMD法が、検診では超音波(エコー)を用いてかかとやすねの骨で測るQUS法が用いられます。
骨密度が若年成人の平均値(YAM)の70%未満、または測定の標準偏差を表すSD値を用いて-2.5SD以下の場合に、骨粗鬆症と診断されます。すでに脆弱性骨折が起きている場合には、測定値にかかわらず骨粗鬆症と診断されます。
また、椎体骨折が疑われる場合には、胸椎、腰椎のX線検査が行われます。必要に応じて、MRI検査が行われることもあります。
骨粗鬆症の進行具合の精査、治療薬の選択、効果の評価には骨代謝マーカー(血液や尿検査)が用いられます。
治療
治療は薬物療法と、セルフケアが中心になります。
薬物療法では、骨吸収を抑制し、骨を強化する作用をもつビスホスホネート製剤が第一選択になります。そのほか、骨に対してはエストロゲンと同様に作用して骨量の低下を抑えるSERM(選択的エストロゲン受容体調整薬)、骨吸収を抑制するRANKL阻害薬(デノスマブ)、骨形成を高度に活性化するhPTH(ヒト副甲状腺ホルモン)製剤(テリパラチド)、骨吸収抑制と骨形成促進の両方の作用をもつ坑スクレロスチン抗体(ロモソズマブ)、カルシウムの吸収を助ける活性型ビタミンD3薬、カルシウム製剤などから、年齢、脆弱性骨折の有無や骨密度低下の程度、血清ビタミンD値のほか、骨代謝マーカーの値、持病の有無などにあわせて選択されます。薬剤には内服(錠剤、ゼリー剤)と注射(点滴静注、静注、自己注射)があり、用法も1日1回、1週間に1回、1カ月に1回、半年に1回、1年に1回とさまざまで、患者さんの服薬能力やライフスタイルにあわせた薬剤を選ぶことができます。服薬によって骨量の改善がみられても、薬を中断すると再度、低下するため、薬を飲みつづける必要があります。
副作用として、胃痛などの消化器症状(ビスホスホネート製剤)、血栓の形成(SERM)、湿疹、消化器症状(RANKL阻害薬)、吐き気などの消化器症状(hPTH製剤)、気分不快や胸部痛などの心血管疾患(坑スクレロスチン抗体)などがあるため、副作用が現れたら主治医に相談することが大切です。また、骨吸収抑制剤ではまれに顎骨の骨髄炎や壊死を起こす可能性があり、使用開始にあたっては歯科医による診断がすすめられています。
圧迫骨折などによる痛みがある場合は、並行して痛みを抑える治療を行います。
セルフケア
予防
骨密度は40代後半から徐々に低下し始めます。40代のときに十分な骨密度があれば、その後に低下しても、骨粗鬆症リスクを低く抑えることができます。そのため、青年期から「骨の貯金」をすることが推奨されています。骨量を増やし、骨を強化するには、次のようなことを実践する必要があります。
●骨に負荷をかける運動を行う
衝撃や強い刺激を与えると、骨形成が促進されることがわかっています。ジャンプ、縄跳び、バレーボール、バスケットボール、ジョギングなどが骨を丈夫にするといわれますが、年齢や全身状態にあわせて、片足立ち、スクワット、かかと落とし、ウォーキングなども継続すれば効果が期待できます。けがや転倒に注意して行いましょう。
●骨量を増やす食材をとる
骨に必要な栄養素は、おもにカルシウム、ビタミンD、ビタミンK、ビタミンB群、たんぱく質、マグネシウムです。とくにカルシウムの摂取は大切で、1日700~800mgが骨粗鬆症の予防の目安とされています。乳製品、大豆製品、魚、海藻、ごま、緑黄色野菜、きのこ類、納豆、卵、肉などをバランスよく食事にとり入れましょう。
●日光にあたる
ビタミンDは太陽光を浴びることで、皮膚でもつくられます。手や顔にトータルで1日に1時間程度、紫外線の強い夏場などは、日陰で30分程度行えば十分です。
●転倒防止の工夫を実践する
外出時は動きやすい服装、安定した靴にする、また両手に荷物を持たない、階段は手すりを使う、必要ならば杖を使うなどで転倒のリスクを減らします。また、家のなかにもリスクはあります。浴室や脱衣所、トイレに手すりをつける、階段に手すり、滑り止めをつける、夜は足元灯を使う、足元のマットは固定するなど、住環境の見直しも行いましょう。
●骨粗鬆症検診を利用する
自治体などによって条件は異なりますが、骨粗鬆症検診を実施している場合があります。骨折などがないかぎり、骨密度が低下していても症状は現れません。検診ではYAM90%以上で骨粗鬆症の危険因子がない場合は「異常なし」、90%未満80%以上あるいは90%以上でも危険因子がある場合は「要指導」、80%未満は「要精検」となります。たとえ検診で正常と判定されても将来に備えて、骨の貯金に努めることをおすすめします。
●歯科で定期的な確認やクリーニングをする
歯と骨の健康は密接な関係があります。定期的に歯科でクリーニングを受けましょう。
監修
東馬込しば整形外科 院長
柴伸昌
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