血管炎けっかんえん
最終編集日:2025/12/8
概要
血管炎は、免疫の異常などによって、全身を走る血管の壁に炎症が起きる病気の総称です。「血管炎症候群」とも呼ばれます。 炎症が起きる血管の太さによって分類されており、大型血管炎では大動脈などの太い血管に起きる「高安動脈炎」「巨細胞性動脈炎」、中型血管炎では中くらいの血管に起きる「結節性多発動脈炎」、小型血管炎では細い血管に起きる「ANCA(アンカ)関連血管炎」などがあります。 血管の炎症によって出血したり、血管が狭くなったり詰まったりすることで、その先の臓器に血液が届かなくなり、全身のさまざまな臓器に障害を引き起こします。
原因
多くは原因不明(原発性)ですが、白血球などの免疫細胞が、誤って自分の血管を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の一つと考えられています。その他、細菌やウイルス感染、特定の薬剤、がんなどがきっかけとなって発症する場合もあり、これらは二次性血管炎と呼ばれます。
症状
全身症状として、医療機関を受診し詳しい検査をする前から発熱、倦怠感、体重減少などが続くことがあります。
●大型血管炎:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎
高安動脈炎では、炎症によって血管が狭くなるため左右の腕の血圧に差が出る、手首の脈が弱くなる(脈が触れにくくなる)、腕が疲れやすくなるといった症状が特徴的です。脳への血流が障害されると、めまいや失神発作、頭痛、視力低下などが起こることがあります。
一方、巨細胞性動脈炎では、こめかみから側頭部にかけてズキズキと脈打つような激しい頭痛や頭皮の痛み、視力の低下や視野が狭くなるといった眼の症状、物を噛んでいると顎(あご)が痛くなり噛み続けられなくなる顎跛行(がくはこう)などの症状が現れます。
●中型血管炎:結節性多発動脈炎
高熱や体重減少などの全身症状に加え、皮膚の紫斑や皮下のしこり(結節)、関節痛、筋肉痛、手足のしびれ(末梢神経障害)などさまざまな症状が現れます。腎臓の血管が炎症で狭くなると血圧が上昇することがあり、消化管や心臓、脳の血管が詰まることで腹痛や胸痛、脳卒中(脳梗塞)など重い合併症を引き起こす場合もあります。
●小型血管炎:ANCA関連血管炎
腎臓の炎症(急速進行性糸球体腎炎)によって尿が赤黒くなる(血尿)、尿の量が減る、足や顔がむくむ、体がだるいといった症状が急速に現れることがあります。また、肺の中で出血(肺胞出血)が起きると、咳をした時に血が混じる(血痰)ことや、息苦しさを感じることがあり、早期の発見が必要です。
検査・診断
血液検査や尿検査で、炎症の強さや腎臓・肝臓などの臓器障害の有無を調べます。特に小型血管炎の診断では、「ANCA(抗好中球細胞質抗体)」という自己抗体の有無を血液検査で確認することが重要です。 また、血管の状態を詳しく見るために、造影CTやMRI、PET-CTなどの画像検査を行うほか、確実な診断のために異常のある組織の一部を採取して顕微鏡で調べる「生検(せいけん)」を行います。
治療
原因がはっきりしている二次性の血管炎は、その原因を取り除きます(感染症の治療や薬剤の中止など)。 原発性血管炎の治療は、炎症を沈静化させる「寛解(かんかい)導入療法」と、その良い状態を長く保つ「寛解維持療法」の2段階で行われます。用いられる薬剤には以下のようなものがあります。
・副腎皮質ホルモン(ステロイド):炎症を抑える基本となる薬です。
・免疫抑制剤:過剰な免疫を抑えるために併用されます。
・生物学的製剤や分子標的薬:特定の免疫物質を標的とする新しい注射薬(例:トシリズマブ)や飲み薬が登場し、治療効果が向上しています。
病気の勢いが強い場合は、ステロイドの点滴(パルス療法)や、血液中の有害物質を取り除く血漿交換療法が行われることもあります。血管の重度の狭窄・閉塞などに対して外科的治療が検討されることもあります。
セルフケア
療養中
治療薬の影響で免疫力が低下しやすいため、感染症対策が非常に重要です。手洗い、うがい、マスク着用を徹底しましょう。また、主治医と相談の上、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなどの予防接種を受けることが推奨されます。その他、処方された薬を自己判断で中断しないこと、十分な睡眠と栄養バランスの良い食事を心がけることが大切です。
監修
東海大学 医学部血液腫瘍内科 教授
川田浩志