心的外傷後ストレス障害しんてきがいしょうごすとれすしょうがい
最終編集日:2022/3/10
概要
心的外傷後ストレス障害(PTSD:Post Traumatic Stress Disorder)とは、命にかかわるような強い心的な衝撃を受けたとき、その体験から時間が経過したのちにも精神的な影響が生じる状態を指します。
このような精神的な後遺症を心的なトラウマ(外傷)と呼び、その体験の記憶がフラッシュバックしたり、悪夢をみたり、不安や緊張が高まったりする状態になります。PTSDは決して珍しい症状ではなく、トラウマ体験後に誰にでも生じる反応のひとつです。
原因
PTSDは直接的なトラウマ体験が原因となる場合と、間接的な経験が原因となる場合があります。死の危険に直面したり、強い恐怖やショックを受けたりするような、原因となり得る出来事には次のような例があります。
・震災などの自然災害に遭遇する
・事件や犯罪、事故に巻き込まれる
・戦争、戦闘を経験する
・強制わいせつなど性犯罪被害を受ける
・暴力的ないじめや体罰を経験する
・虐待や育児放棄、家庭内暴力を受ける
・家族や友人などの事故現場に遭遇する など
こころの感じ方は人それぞれであり、同じような経験をしてもPTSDを発症する人と発症しない人がいます。
症状
PTSDの代表的な症状は以下の4つです。
●侵入症状(再体験症状)
トラウマの原因となった体験の記憶が、当時の恐怖や無力感とともに突然フラッシュバックする(鮮明に脳裏によみがえる)ことがあります。また、悪夢をくり返しみたり、もう一度追体験しているような現実感が生じたりすることもあります。
●回避症状
トラウマ体験に関連する状況や場所などを避けることがあります。そのため、行動が制限され、日常生活や社会生活に支障をきたす場合もあります。
●認知と気分の陰性の変化
感情が麻痺したり、自分が他者から孤立しているように感じたりすることがあります。自分に非があると考えたり、罪悪感を抱いたりすることもあります。そのようなネガティブな感情が湧き起こる一方で、幸福感ややさしさ、愛情などポジティブな感情をもちにくくなったりする症状も含まれます。
●覚醒度と反応性の変化
PTSDにより緊張状態が継続するため、ちょっとした物音にひどく驚いたり、恐怖を感じたり、過度に敏感な状態になることがあります。そのことで睡眠障害や集中力の低下、常にいらいらしてしまう、警戒心が強まるなどの症状がつづくことがあります。
検査・診断
問診による診断が行われます。強いストレスを感じる出来事を体験、または目撃した後、その内容と症状の有無、重症度などが確認されます。
1カ月以上たっても強い精神的苦痛や症状が持続し、日常生活や社会生活に大きな支障が出ている場合にPTSDと診断されます。
PTSDは精神医学的な診断基準に基づいて専門医が診断をし、それらの症状が適応障害などのほかの病気や、治療薬を原因としたものである可能性についても慎重に確認されます。
トラウマ体験から1カ月以内であっても、日常生活に支障をきたすほどの症状があれば「急性ストレス障害(ASD:Acute Stress Disorder)」と診断されることがあります。
治療
原因となったトラウマに対する治療と、うつ状態などの症状に対する治療があります。
トラウマに対する治療には認知行動療法があります。代表的なものとして以下のような治療法があります。
●持続エクスポージャー療法
トラウマ体験に関連する記憶をあえて呼び起こし、再び危険にさらされるわけではないことを理解するための訓練です。
●認知処理療法
トラウマ体験を理解し、その体験についてそれまでと違った捉え方ができるように整理して克服する方法です。基本的には「その状況では判断を誤ったが、それ以外の時はだいたいしっかりと判断している」というように、以前からある信念をほどよく変える「調節」ができることを目指します。
●眼球運動脱感作療法
眼球運動を行うことによってトラウマを克服するもので、交互に目を動かす運動によってトラウマの苦痛が減弱することを活用しています。つらいトラウマ体験を細かく思い出したり言葉にする必要がないという特徴があります。
不安感、うつ状態などの症状を改善する治療には、抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬) などの薬剤治療が有効とされています。
治療者との相性に左右される部分もあるので、信頼のできる医師や公認心理師を見つけることも大切です。
セルフケア
病後
強いストレスは精神的・身体的ともに負担がかかります。呼吸やリラクセーションなどのストレス管理法を取り入れたり、適度な運動や十分な睡眠、バランスのよい食事を心がけたりしましょう。無理のない範囲でできることから日常生活を再開していくことが予防にもつながります。
PTSDの症状を誰にも相談できずに悩んでいる人が少なくありません。自分一人で抱え込まずに、医師や保健所など地域の各種機関に相談してください。相談窓口を通じて、信頼できる精神科やカウンセラーを紹介してもらうのもいいでしょう。
監修
赤坂溜池クリニック院長
降矢英成
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