性別不合・性同一性障害せいべつふごう・せいどういつせいしょうがい
最終編集日:2024/6/10
概要
からだの性(生物学的性:sex)と心の性(性自認=自分が自分の性をどう感じているか:gender)が一致しない状態を指します。MTF(トランス女性:からだの性は男性・心の性は女性)とFTM(トランス男性:からだの性は女性・心の性は男性)に分けられます。
診断・治療には、精神科医、産婦人科医、泌尿器科医、形成外科医など、複数の科の専門医が連携してあたります。専門的な診断・治療は、認定施設を受診して行われます。最近では「ジェンダークリニック」「ジェンダーセンター」「ジェンダー専門外来」などの名称の専門科を設けて、診察・治療を行う医療機関も出てきています。
原因
原因はまだ明らかになっていません。胎生期のからだや脳の性分化に何らかの異常が生じたことが誘因ではないかとされています。
症状
おもに次のような3つの症状が現れます。
●自分の生物学的性を嫌悪・否定する
とくに思春期には男らしいからだ、女らしいからだになることに嫌悪感をもちます。
●心の性(反対の性)への強い同一感をもつ
自分と反対の性の装いをしたり、遊びや趣味を反対の性が選びがちなものにしたりします。
●心の性(反対の性)としてのふるまい、役割を果たそうとする
反対の性らしい行動をしたり、反対の性として人間関係をもったりします。
検査・診断
超音波(エコー)検査やMRI検査などで、外性器と内性器の検査、染色体検査、ホルモン検査などを行い、生物学的な性を確認します。
心の性の診断には問診が重要になります。自身の性別に対する気持ち、生育歴、職歴、家族歴、人間関係、病歴などを聞き取ります。
また、性分化疾患(性別にかかわる性染色体や遺伝子、性ホルモンなどが先天的に非定型的である状態)がないこと、精神的な疾患ではないことなどの確認も行われます。
治療
本人の気持ちが揺れている間は、治療に進まず、経過を長期にみていきます。
治療には精神療法とホルモン療法、手術があります。ホルモン療法と手術は心の性にからだの性を合わせていく治療で、18歳以上で受けることができます。20歳未満の場合は親権者の同意が必要です。
●精神療法
性別不合のためにそれまでに受けてきた精神的・身体的・社会的な苦痛についてカウンセリングなどを行います。また、治療についての迷いや治療後の生活への不安などについても話を聞き、精神的な支援を行います。日本精神神経学会のガイドラインでは、精神科領域の治療として次の5つを想定しています。①精神的サポート(現病歴の聴取と共感および支持)、②カムアウト(公表・告白すること)の検討、③実生活経験(リアルライフテスト:RLE〈反対の性での社会生活を一定期間行ってみて治療上の効果や障害を経験する〉)、④精神的安定の確認、⑤前記の①~④を満たすことができるまで観察すること。
●ホルモン療法
精神療法の後、本人の希望が変わらなければ、医療チームで評価を行い、ホルモン療法に進みます。
FTMではアンドロゲン・デポ製剤の注射を行います。月経の停止、筋肉量・ひげ・体毛の増加、声が低音になるなどの変化が生じます。
MTFではエストロゲン製剤(内服、注射、貼付薬)を用いて、血清テストステロン値(男性ホルモン)を60ng/dL未満を目標とします。抗アンドロゲン製剤を併用することもあります。性欲減退、陰茎勃起の減少、精子減少などが起こりますが、乳房の発達は治療開始から2~3年後になるため、豊胸術を行うこともあります。
FTM、MTF、いずれもホルモン療法は長期にわたるため、副作用に留意しながら、禁煙、体重管理、血圧のコントロールなどが必要になります。
●手術療法
ホルモン療法を1年以上継続し、本人の性別を変えたいという希望が変わらない場合に手術を検討します。医療チームによって「性別適合手術適応判定会議」がもたれ、一定の認定を得た後に実施されます。
FTMでは乳房切除術、子宮・卵巣摘出術が行われます。本人が希望すれば尿道の延長術、陰茎の形成術も行います。
MTFでは精巣・陰茎切除、腟の形成術が行われます。
セルフケア
療養中
性別不合・性同一性障害はまだ社会での認識や理解度が低く、本人のうつ病などの精神疾患の発症率は高くなっています。周囲からの精神的な支援や社会の無理解への対応が不可欠です。社会的にみると、戸籍上の氏名や性別の変更は認められるようになりました。
しかし、治療に関しては保険適用になっているのは精神療法と手術のみで、ホルモン療法は自費診療になります。そのため、手術を受ける際にも「混合診療」扱いになる問題があるなど、医療の面では、まだ態勢が整備されていないといえるでしょう。
監修
赤坂溜池クリニック院長
降矢英成
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