対人恐怖症
たいじんきょうふしょう

最終編集日:2023/6/29

概要

対人恐怖症は「社交不安症(社交不安障害)」「社会不安障害(社会恐怖)」とも呼ばれます。

小学生から20代半ばまでの若年者に多くみられ、患者さんの75%は、8~15歳での発症とされています。また、自己臭恐怖(自分のにおいがもとで嫌われるのではないか)、醜形恐怖(自分の醜さが人を遠ざけているのではないか)なども、対人恐怖症のひとつの形態とすることがあります。対人恐怖症は、不登校・出社拒否・引きこもりなどにつながって、学業や仕事などの社会生活に支障をきたしたり、うつ病や、成人後ではアルコール依存症を併発するリスクが高く、社会的にも深刻な病気といえるでしょう。

原因

原因は明らかになっていません。遺伝的要素、脳の扁桃体(恐怖や不安を感じる部位)の異常などが発症にかかわるのではないかと考えられています。多くのケースで、失敗するような場面に追い込まれた、苦しい立場に立たされた、恥ずかしい思いをした、強く自己を否定されたといった体験があり「くり返したくない」という思いが背後にあるようです。

症状

人前に出ること、他者の注目を浴びることに対して強い不安や恐怖を感じます。人前で顔が赤くなる、きちんとしゃべれない、手が震えるなどはだれでも体験するようなことですが、対人恐怖症では、過呼吸や動悸、悪心、発汗、悪寒、息苦しさ、腹痛などの強い不安と緊張の身体症状が現れます。

重症になると、また同じようなことが起こるのではないかという「予期不安」のため、そのような場面を思い浮かべるだけでも症状が起こるようになります。そのため、人前に出るような状況を回避するようになり、さらに進行すると、人にまったく会わないようにする、学校や仕事を休むなど、人を避ける行為が顕著になっていきます。

検査・診断

問診をくわしく行うことで、おおよその診断はつけられます。確定診断、さらに重症度をみる検査として、臨床症状評価尺度(LSAS-J)やSIAS(social interaction anxiety scale)、SPS(social phobia scale)などの自己記入式スケールなどが用いられます。LSAS-Jは国際的に用いられているLSASという社会不安症尺度の日本語版で、対人恐怖症の評価に有効とされています。診断基準には「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」が用いられます。DSM-5は米国精神医学会による、精神疾患に関する国際的な診断基準のひとつです。

全身の状態をみるための血液検査や、てんかんやパニック障害、うつ病などとの鑑別診断に必要な検査が併用されます。

治療

薬物療法と精神療法が行われます。

薬物療法の第一選択薬は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。そのほか、抗不安薬が処方される場合もあります。薬は数カ月の服用では再発することが多いため、1年程度の服用が好ましいとされています。

精神療法としては、認知行動療法や森田療法が有効と考えられています。不安や緊張を抱える自分を見つめ直し、症状をコントロールする方法を身につけていきます。

セルフケア

予防

対人恐怖症では、受診までに時間がかかることが知られています。病状がある程度進行して、うつ病を併発してから受診し、対人恐怖症の診断が遅れることも少なくありません。

また、治療を受けずに放置した場合、半数以上が数十年にわたって症状がつづくことがわかっています。日常生活に支障が出るようになったら、受診を考えましょう。心療内科や精神科への受診がためらわれるようなら、まずはかかりつけ医や学校保健師、職場の産業保健スタッフに相談してみましょう。

監修

赤坂溜池クリニック 院長

降矢英成

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