新型コロナウイルス感染症しんがたころなういるすかんせんしょう
最終編集日:2024/6/15
概要
2019年12月に中国で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は急速に世界中に広まり、パンデミックを引き起こしました。わが国でも2020年1月に最初の発生が報告されて以来、患者数が急増。多くの死者が出ました。ウイルスの感染力の強さ、治療法・予防法の未確立などから、2類感染症に指定されました。その後、ウイルスは徐々に弱毒化を呈し、またヒトのからだの免疫機構がウイルスに対して働き始めたこと、ワクチンである程度の予防が可能になったこと、治療薬が開発されたことなどを受け、2023年5月から5類感染症に移行されました。また、WHO(世界保健機関)は2023年5月に「国際的に懸念される緊急事態」の終了を宣言しています。しかし、ウイルスの変異が続いており、新しいワクチン開発も続けられています。
※2024年4月9日時点の内容です。
原因
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による呼吸器を中心とした感染症です。ウイルスは発生当初のアルファ株から、デルタ株、オミクロン株と頻繁に変異を繰り返し、株の変異によって、症状や重症化リスク、感染力などが異なり、変異株に対応した対応策(ワクチン・治療薬の開発・製造、感染予防法など)が試行錯誤されています。
ヒトからヒトへは、飛沫・エアロゾル感染と、ウイルスが付着したものに触る接触感染で、潜伏期間は2~7日。ヒトにうつす可能性のある期間は、症状が出る2日前から症状が出てからの7~10日間です。
また、重症化の原因として、免疫の暴走(サイトカインストーム)が考えられています。これはウイルスを排除する免疫機能が過剰に働き、免疫にかかわるサイトカインというたんぱく質を過剰に産生して、さまざまな障害を引き起こす現象です。
症状
かぜやインフルエンザに似た症状から始まります。のどの痛み、鼻水・鼻閉、発熱、筋肉痛、倦怠感などが現れます。アルファ株の頃に多くみられた味覚異常・嗅覚異常、呼吸困難、意識障害は、オミクロン株ではそれほど頻度は高くありません。
重症化すると気管支や肺まで感染が広がり、気管支炎や肺炎を引き起こし、さらに重症になると急性呼吸窮迫症候群や多臓器不全を起こすこともあります。また深刻な合併症として、急性循環器障害、心筋炎、肺塞栓症、脳卒中などが挙げられますが、オミクロン株に置き換わってからはその頻度は低下しています。
重症化リスクが高くなる要因として、基礎疾患がある(悪性腫瘍、糖尿病、肥満、心血管障害、気管支ぜんそく、間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉、肝硬変、脂肪肝、慢性腎臓病〈CKD〉、認知症など)、妊娠中、喫煙歴、特定の薬剤の使用(ステロイドなど)、60歳以上などが挙げられています。
小児の場合、2歳未満や、基礎疾患がある場合に重症リスクが高くなるとされています。
妊娠している場合、妊娠後半期での感染は重症化リスクと早産率が高くなることがわかっています。なお、妊娠初期・中期の感染で胎児が先天異常を起こすリスクは低いとされています。
検査・診断
インフルエンザのような発熱がみられたら、ウイルスの遺伝子の一部を検出する「核酸検出検査」(PCR検査など)、ウイルスがもつ特有のたんぱく質(抗原)の量を測定する「抗原定量検査」、感染の陽性・陰性をみる「抗原定性検査(抗原検査)」などを行って、感染の有無を確定診断します。
症状や合併症にあわせて、血液検査、胸部X線検査、心臓超音波(心エコー)検査、脳血管造影などが行われます。
治療
軽症の場合は、自然に治癒することがほとんどです。人にうつすリスクのある期間は、自宅で待機する必要があります。休養、保温に努め、水分、栄養をとって過ごします。重症化リスクが考えられる場合には、薬物療法を行います。発病からの期間、重症度を勘案して、以下のような薬が用いられています。
●抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビル、エンシトレルビル)……発症早期で重症化のリスクが考えられる場合にまず使用します。
●中和抗体薬(ソトロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ)……重症リスクが高い症例に、重症化を予防するために用います。
●免疫抑制・調整薬(ステロイド〈デキサメタゾン〉、バリシチニブ、トシリズマブ)……中等症以上に用いられます。サイトカインストームを抑制する目的で用いられます。
重症化の症状や合併症によっては、入院して人工呼吸器などでの呼吸管理、血栓症対策などが必要に応じてとられます。
セルフケア
病後
●後遺症(罹患後症状)について
COVID-19では罹患後症状(後遺症)があるケースが多くみられます。WHOでは罹患後症状を「新型コロナ感染症罹患後、少なくとも2カ月以上持続する症状で、ほかの疾患によるものとして説明がつかないもので、COVID-19発症から3カ月経った時点でも持続しているもの」と定義し、COVID-19罹患者の10~20%に罹患後症状がみられるとしています。
わが国では男性よりも女性に多くみられ、患者さんによって症状はさまざまです。頻度の高いものから、倦怠感、息切れ、嗅覚障害、不安、せき、味覚障害、抑うつが挙げられ、そのほか、胸痛、発熱、関節痛、筋肉痛、記憶障害、集中力低下、頭痛、下痢、腹痛、動悸、抜け毛などがあります。記憶障害や集中力の低下など、認知機能にかかわる症状を「ブレイン・フォグ(頭にもやがかかった状態)」と呼ぶこともあります。
症状を軽減する対症療法がとられます。時間の経過とともに、徐々に改善されていきますが、長期にわたることも多くみられます。
軽症例でも後遺症が出ることもあり、罹患後症状の要因はまだはっきりわかっていません。
予防
感染予防と、感染しても重症化させない目的で、ワクチン接種がすすめられています。ワクチン接種はこれまで本人の費用負担はありませんでしたが、2024年4月以降は65歳以上の高齢者、60~64歳で基礎疾患がある人を対象に、自治体による定期接種が行われ、基本的に有料になります。それ以外の人で接種を希望する場合も自費となります。
ワクチン接種には発熱や倦怠感などの副反応があり、さらに重い有害事象などの報告があって、接種に関してはさまざまな意見があります。しかし、国は接種を推奨しています。
また、妊娠中期の感染で流産・死産が発生し、そのほとんどがワクチン未接種であったことから、日本産科婦人科学会、日本産婦人科感染症学会では、すべての妊婦にワクチン接種を推奨しています。
5類感染症に移行されたことから、数々の行動制限はなくなりましたが、感染は完全におさまっているわけではありません。マスクの使用、手洗い・手指の消毒、換気など、引き続き必要に応じて行うことが肝要です。
監修
千葉大学病院 呼吸器内科特任教授
巽浩一郎
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