非結核性抗酸菌症(肺NTM症)ひけっかくせいこうさんきんしょう
最終編集日:2025/1/31
概要
結核菌、らい菌を除いた抗酸菌(非結核性抗酸菌:NTM)に感染して起こる病気です。
NTMの感染場所として肺が最も多数ですが、皮膚に感染して病巣をつくることもあります。ここでは肺のNTM症について説明します。
国内ではMACと呼ばれる抗酸菌によるものが約90%と、大部分を占めています。そのほか、アブセッサスという抗酸菌が原因のものも増加傾向にあります。MACが原因のものを「肺MAC症」、アブセッサスが原因のものを「肺アブセッサス症」と呼ぶこともあります。一般的に、肺アブセッサス症のほうが治療に難渋しやすいと考えられています。
肺MAC症は男性よりも女性に多くみられます。
非結核性抗酸菌症は人から人に感染することはありません。
原因
NTMに感染して起こります。
NTMは土壌や水、家畜など、身の回りに存在していて、菌を吸い込むことで感染が起こります。庭や浴室経由で感染することが多いといわれています。
症状
せきと膿性のたんが、月単位・年単位と長く続きます。時々、軽度な血痰を伴います。
進行すると喀血、息切れ、発熱、倦怠感、体重減少がみられます。
初期の軽症の段階では無症状なことも多く、健康診断や他疾患での胸部X線検査で異常が指摘されることもめずらしくありません。
症状が認められたら、あるいは健康診断で指摘を受けたら、内科か呼吸器内科を受診してくわしく調べてもらいます。
検査・診断
胸部X線、胸部CTなどの画像検査で異常がみられたら、たんを採取・培養して調べる喀痰抗酸菌検査を2回行います。NTMは身近に存在するため、1回のみの検査では偶然まぎれ込んだ可能性が否定できないためです。たんが出ない場合には、気管支鏡を用いて気管支洗浄液検体を採取し、培養検査を行います。気管支洗浄液検査は1回で確定診断が得られます。
適切な治療のためには、菌の特定が重要です。また、肺結核や肺真菌症、肺がんなどとの鑑別も行われます。
治療
患者によって進行が異なるため、ほぼ無自覚症状で画像上も軽症、75歳以上の高齢、薬物療法による副作用が懸念されるなどの症例では、診断がついてもすぐに治療を開始しない場合がほとんどです。この場合は、3カ月に1度くらいの頻度で胸部X線検査と喀痰検査を行い、経過観察を続けます。
治療は、原因菌に合った抗菌薬を服用します。肺に空洞ができるなどの重症例では、手術が考慮されます。
●薬物療法
抗菌薬は1剤のみの服用を続けると、その薬に対して抗酸菌が耐性をもち、効果が低下することが多いため、3剤療法が一般的です。クラリスロマイシン、エタンブトールを基本として、効果に合わせて、そのほかの抗菌薬を組み合わせて用います。服薬で改善がみられない場合には、筋肉注射や点滴も行われます。また2021年には吸入タイプの新薬も承認され、難治症例に適応されています。
薬物療法は1~2年続ける必要があるとされています。
治療を続けながら定期的に画像検査、血液検査、喀痰検査などを行い、効果や副作用の状態を評価します。薬を長期間服用するため、副作用の出現には注意が必要です。副作用として発疹、肝障害、腎障害、視力低下、耳鳴り、発声障害などが考えられます。
原則として、病気の進行が止まるまで、あるいは喀痰検査による培養陰性(細菌の存在が認められない状態)が12カ月続くまで、服薬を継続します。
●手術
手術で肺の病巣部を切除します。感染が進んで肺に空洞ができている、薬物療法で効果がみられない、再発のリスクが高い、進行が速いなどの症例に考慮されます。術後は薬物療法を続けます。
セルフケア
療養中
治療中は医師の指示に従い、定期検査を欠かさず、薬物療法の際には決められた服用法を守って途中で服薬を止めないことが大切です。また、使用している薬の副作用について理解し、副作用出現のサインを見逃さないことも重要です。
病後
非結核性抗酸菌症は完治しにくい病気です。いったん喀痰検査で菌の存在が陰性になっても再発しやすいため、定期的な経過観察が必要になります。一般的に半年ごとに2年程度続け、その後は変化がなければ1年に1回の検診を行います。
予防
非結核性抗酸菌症は免疫能が低下したときに発症しやすくなります。ふだんから体力維持に努めることが予防のポイントとなります。
監修
千葉大学医学部附属病院 呼吸器内科 真菌医学研究センター 特任教授
巽 浩一郎
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