認知症にんちしょう
最終編集日:2023/5/30
概要
認知症は、脳の病気や外傷による神経細胞の障害が原因となり、判断力や記憶などの認知機能が徐々に低下して、生活に支障をきたした状態を指します。65歳以上の高齢者に多く発症しますが、65歳未満での発症を「若年性認知症」と呼んでいます。また、正常と認知症の境界例を軽度認知障害(MCI)として区別しています。
2012年には患者数462万人で65歳以上の7人に1人の罹患率でしたが、内閣府は2025年には患者数が約700万人、5人に1人の割合になると予測しています。
高齢者の認知症の原因別の割合は、アルツハイマー型67.6%、血管性認知症19.5%、レビー小体型認知症(DLB)4.3%、前頭側頭型認知症(ピック病:FTD) 1.0%、アルコール性認知症0.4%、混合型認知症3.3%となっています(厚生労働省・2013年)。
原因
もっとも患者数の多いアルツハイマー型認知症は、アミロイドβたんぱくや過剰リン酸化タウたんぱくが脳に蓄積して起こります。DLBは異常たんぱくα-シヌクレインの蓄積・凝集からなるレビー小体が脳に蓄積して起こり、FTDはタウたんぱくやTDP-43の変性・蓄積が脳に生じて発症します。これらは神経変性による認知症といわれ、なぜ過剰に異常なたんぱくが蓄積するのか、原因はまだ明らかになっていません。
血管性認知症は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳血管障害で脳細胞がダメージを受けることが原因になります。そのほか、脳腫瘍や頭部外傷、慢性硬膜下血腫などによって、脳細胞が障害されることが原因になるもの、ウイルス(ヘルペスウイルスなど)や細菌(結核菌など)などに感染して髄膜が炎症を起こし、後遺症として認知症の症状が現れるもの、肝性脳症、腎不全、ビタミン欠乏、アルコール・薬物中毒など、他疾患から脳の機能障害が起こり、認知症のような症状を現すものなどがあります。
症状
認知症の症状は「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD:周辺症状ともいう)」に分けられます。
中核症状は、神経細胞が障害を受けることで起こる認知機能障害で、以下のような症状が現れます。①記憶障害、②見当識障害(いつ、どこ、だれなど、自分が現在置かれている状況や、周囲との関係を把握できなくなる)、③理解・判断力の低下、④遂行機能障害(計画を立ててそれに沿って効率よく実行することができなくなる)、⑤言語障害(失語など)、⑥失行・失認(服を着るなどの日常的な動作ができない、見たものが何かわからない、自分のからだの状態がわからないなど)
一方、BPSDは、中核症状が基盤となって環境、人間関係などが関与してひきおこされる症状です。妄想、うつ状態、幻覚(幻視など)、徘徊、興奮、暴言・暴力、睡眠障害、せん妄、意欲の低下などが現れます。
これらの症状は多くの認知症に共通してみられるものですが、認知症のなかには以下のような特徴的な症状を現すものもあります。
●レビー小体型認知症(DLB)……認知機能低下の変動(まだら認知症のような状態)、くり返す幻視、妄想、パーキンソン症状、悪夢、失神など
●前頭側頭型認知症(FTD)……人格が変わる、異常な非常識な行動がみられる、共感の欠如、感情鈍麻、同じ時間に同じ行動を同じ手順でくり返す・同じ話や行動をくり返すなどの「常同行動」がみられるなど
検査・診断
問診や家族・周囲の人からの聞き取りを行い、CT検査やMRI検査で脳の萎縮などの変化、脳室の形態などを検査します。さらに脳血流シンチグラフィ(脳血流SPECT検査)で、CTやMRI画像で捉えきれない脳内の血流の状態を精査することもあります。このほか、現時点で保険適用になっていませんが、異常たんぱくのアミロイドβ、あるいはタウたんぱくの蓄積や分布が見られるPET検査もあります。
画像検査で、脳のどの部位に障害が起きているかをみることで、どのタイプの認知症かを鑑別することができます。
神経心理学的検査(HDS-R、MMSE、FAB、ADAS、CDRなど)では、症状の進行度の評価や、認知症のタイプの鑑別が行われます。
アルツハイマー型認知症の確定診断として、髄液検査でアミロイドβ42、リン酸化タウたんぱくの増加を調べることもあります。
そのほか、血液検査でリン酸化タウたんぱくを測定する方法もありますが、現時点で保険適用にはなっていません。
治療
神経変性による認知症は進行性の病気で、根治療法はまだ確立されていません。症状の進行の抑制が治療の目的となります。
アルツハイマー型認知症では、3種類のコリンエステラーゼ(ChE)阻害薬(アリセプトなど)、1種類のNMDA受容体拮抗薬(メマリー)が保険適用となっており、有効性が認められています。軽症ではChE阻害薬単剤、重症ではNMDA受容体拮抗薬との併用が一般的です。
血管性認知症では、脳梗塞などの原因疾患の再発を防ぐ治療に並行して、BPSDに対するリハビリテーション、NMDA受容体拮抗薬、漢方薬の抑肝散などの薬物療法が行われます。
DLBでは、ChE阻害薬が第一選択になります。パーキンソニズムを現す場合はレボドパを用いるなど、症状にあわせて薬が選択されます。また、リハビリテーションやケアも重要です。
FTDでは、有効な治療法は現時点で確立されていません。症状のひとつである常同行動を利用して、デイケアに通う、料理や作業などを日課に組み入れるなどの「ルーティン化療法」の有効性が報告されています。SSRIなどの抗うつ薬、抗てんかん薬、抑肝散などを用いる場合もあります。
なお、認知症の生命予後についてはさまざまな報告がなされていますが、数年から10年程度と考えられています。
一方、血管性認知症や脳腫瘍、他疾患が原因の認知症では、原因になった病気の治療や適切なリハビリテーションで、認知機能がある程度回復する場合があります。
セルフケア
療養中
認知症の原因療法はいまだになく、もっとも治療薬の開発が進められているアルツハイマー型認知症でも、その進行を遅らせる効果しか望めないのが現状です。一方で、脳には機能を高める可塑性(かそせい)が備わっており、生活習慣病を改善させ、前向きで共感的な生活をすることで脳が大いに活性化されることが明らかになっています。それゆえ、最近は認知症の患者さんに寄り添い、共生をめざしたさまざまな取り組みが実行されています。また、患者さんからの発信の機会を増やすなど、認知症であっても、できるかぎり社会的な活動をつづけられるようにすることが症状の抑制につながることがわかっています。
認知症と診断されたら、要支援・要介護認定を受けてデイケアなどのサービスを利用し、活動的に過ごすことも大事なことと考えられます。介護サービスの利用は、介護する家族の負担を減らすことにもつながるため、上手に利用しましょう。
予防
認知症には確実な予防法はありませんが、脳の予備力を高めるためには、次のような点に気をつけて生活を送ることが重要です。
●生活習慣病を予防する食生活、運動、習慣を継続する
●人とよく話す、ふれあう
●外に出かける機会を増やす
●持病の改善に努める
●聴力が低下したら改善に取り組む
監修
昭和大学医学部脳神経外科 名誉教授
藤本司
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