気管支炎きかんしえん
最終編集日:2023/7/4
概要
気道(空気の通り道)の一部である気管支に、何らかの原因によって炎症が起こる状態を指します。1週間程度で治る「急性気管支炎」、気管支炎症状が数週間つづく「遷延性気管支炎」と、数カ月から年単位で炎症がつづく「慢性気管支炎」があります。慢性気管支炎の症状に、呼吸がしづらくなる呼吸機能障害を伴う場合には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)と総称される病気のひとつに分類されています。
原因
ウイルスや細菌、塵埃(じんあい:花粉、砂ぼこり、農薬、車の排気ガス、工場からの排気、黄砂、PM2.5など文明の発達に伴って生じた空気中のすべての有害物質)、刺激性の気体(たばこ、煙、スプレー缶のガス……)など、気管支に炎症を起こす原因はさまざまですが、多くはインフルエンザなどのウイルスやマイコプラズマなどの細菌が原因となります。
慢性気管支炎は、喫煙が発症に大きく関与しているといわれています。
そのほか、せきぜんそく、胃食道逆流症(GERD)、副鼻腔気管支症候群、アトピー咳嗽(がいそう)などの疾患があると気管支の炎症がつづきやすく、慢性気管支炎と関連が強いと考えられます。また、服薬中の薬剤が原因の場合もあります。例えば、血圧の薬であるACE阻害薬では、副作用として空せき(のどのイガイガ感からのせき)が出やすくなります。
症状
急性気管支炎は、かぜのような症状(のどの痛み、鼻水、悪寒、倦怠感、発熱)から始まり、進行に伴ってせき、たん、発熱の上昇が現れます。熱が下がっても、せきやたんが数日間は残ります。乳幼児では重症化することもあり、喘鳴(ぜんめい:呼吸時にゼイゼイ、ヒューヒューと音がする)や呼吸困難が起こる場合には、ぜんそく様気管支炎と考えて、積極的な治療が必要になります。
遷延性気管支炎は、病原体であるウイルス、細菌は消失しても気道に炎症が残る結果として、気管支炎症状である咳嗽がつづく場合です。
慢性気管支炎は、せきが数カ月以上つづき、たんも粘り気の強いものになります。炎症が長くつづくと気道の内壁が厚く変化して内腔が狭くなり、息苦しさを覚えるようになります。とくに息の吐きづらさを感じる場合はCOPDを考えて治療を受ける必要があります。
ほかの病気が原因の場合は、せきやたんのほかに、それぞれの病気特有の症状もみられます。例えば、GERDでは、胸やけや呑酸(どんさん:胃液の逆流で酸っぱいげっぷが出る)などが、副鼻腔気管支症候群では粘り気のある鼻汁、鼻閉(鼻づまり)、頭痛、頭重感などが起こります。
検査・診断
急性気管支炎は、肺炎にまで至っていない(胸部X線検査で肺炎の陰影なし)場合は、ウイルス性か細菌性かの鑑別がもっとも重要になります。生来健康な人は、確率的にはウイルス性の場合がほとんどです。免疫力低下があると推定される高齢者、持病のある人は細菌性の可能性も考えておく必要があります。咳嗽のみの場合は、ウイルス性(マイコプラズマを含む)であることがほとんどです。ウイルス性か細菌性かを判断することは、抗菌薬を投与したほうが安全かどうか(より確実に治る)につながります。
2019年以降の、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が消滅しない間は、発熱外来を受診すると、インフルエンザやCOVID-19などの可能性を考えて抗原検査が行われます。
慢性気管支炎が疑われる場合には、胸部X線やCT検査で肺の様子をみます。気管支の異常は画像には現れにくいのですが、ほかの呼吸器疾患が長引くせきやたんの原因でないことを鑑別するために行われます。呼吸困難が強い場合は、呼吸機能検査を併用することもあります。せきぜんそく、肺気腫、アトピー咳嗽、気管支拡張症などとの鑑別診断を行い、呼吸器以外の原因疾患の存在も探ります。
治療
ウイルス性の急性気管支炎では、安静を保ちながらの対症療法が中心となります。抗炎症薬のほかに、症状にあわせて、解熱薬、鎮咳薬(せき止め)、鎮痛薬(のどの痛みや頭痛の改善)などが用いられます。炎症の原因となるウイルスや細菌の特定はむずかしいことも多いため、特定された場合のみ、例えば、インフルエンザなら抗ウイルス薬の併用など、原因に対する治療を行います。細菌性の急性気管支炎では、抗菌薬治療をしたほうがより早く治ります。
慢性気管支炎では、COPDに準じた治療が行われます。まずは禁煙し、薬物療法(抗炎症薬や気管支拡張薬の吸入、去たん薬など)と呼吸リハビリテーションなどが行われます。
気管支の炎症を起こす他疾患が認められれば、その治療も並行して行います。
セルフケア
療養中
慢性気管支炎と診断された場合には、禁煙を厳守し、医師の指示に従って薬物療法や呼吸リハビリテーションなどの治療を適切につづけましょう。また、かぜやインフルエンザに感染すると症状が急に悪くなることがあります。感染の時期には十分に気をつけましょう。
予防
かぜなどの後で、せきやたんが長引く(遷延性気管支炎)ようなら、受診しましょう。
家具などに用いる抗菌や防カビのスプレーは、吸い込むと気道に炎症を起こす可能性があります。スプレーなどを用いる際には、必ずマスクをつけましょう。
監修
千葉大学病院 呼吸器内科特任教授
巽浩一郎
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