誤嚥性肺炎ごえんせいはいえん
最終編集日:2026/3/13
概要
私たちは普段、無意識に食べ物や飲み物を飲み込んでいます。この動作を「嚥下(えんげ)」といいます。反射的に起こるこの動作は神経反射です。加齢や病気によってこの神経反射が弱まると、食べ物や唾液が誤って気管(空気の通り道)に入ってしまうことがあります。これが「誤嚥(ごえん)」です。このとき、一緒に肺へ入り込んだ細菌が炎症を起こすのが「誤嚥性肺炎」です。
厚生労働省の2024年人口動態統計によると、誤嚥性肺炎による死亡数は年間3万人を超え、日本人の死因の第6位となっています。特に高齢者にとっては、命にかかわる身近な病気です。
原因
おもな原因は、加齢による「神経機能の低下(神経反射の低下)」と「免疫機能の低下」です。
●せきを出す力の低下(反射の鈍化)
健康な人の場合、異物(食事内容を含む)が気管に入れば「むせる」ことで異物を追い出すことができますが、その反射が弱まると、寝ている間に唾液や胃液が少しずつ肺に入り込んでしまいます。「むせる」ことは必ずしも悪いことではありません。
●飲み込む力の低下(嚥下障害)
神経機能の低下により、のどの筋力が落ちたり、脳卒中の後遺症などで、食べ物をスムーズに食道へ送れなくなります。
●口の中の汚れ
口の中が不衛生だと細菌が増殖します。その細菌が唾液と一緒に肺に入ることで肺炎を引き起こします。
●免疫機能の低下
持病や加齢で抵抗力が落ちていると、わずかな細菌でも肺で炎症が広がりやすくなります。

症状
一般的な肺炎のような「激しいせき」や「高熱」が出ないこともあるのが、高齢者の誤嚥性肺炎の特徴です。「なんとなくいつもと違う」という変化を見逃さないことが大切です。
典型的な症状には次のようなものがあります。
・38℃以上の発熱
・せき
・濃い色の痰(通常の肺炎と同じ)
そのほか、気づきにくい誤嚥性肺炎サインとして以下のような変化がみられます。
・なんとなく元気がなく、ぐったりしている
・食欲がない、食事に時間がかかる
・呼吸が浅くて速い
・のどから「ゴロゴロ」と音がする
検査・診断
胸部X線(レントゲン)検査で、肺の陰影を確認する(肺炎があるかどうか)ほか、血液検査で炎症の強さを調べます。また、再発を防ぐために、ゼリーなどを使って「実際に安全に飲み込めているか」を確認する嚥下機能検査を行うこともあります。
治療
まずは抗菌薬(抗生物質)で細菌を除去します。しかし、誤嚥性肺炎は「治っても繰り返しやすい」ことが特徴です。そのため、治療と並行して以下のケアが重要になります。
・口腔ケア:歯ブラシやスポンジブラシで口の中の細菌を減らす
・リハビリ:口周りの体操(嚥下体操)で、口の周囲の筋肉を鍛える
・食事の工夫:その人に合った食事の形態(とろみ付けなど)の調整
セルフケア
予防
日々の習慣を見直すことで、リスクを大きく下げることができます。
・口の体操(嚥下体操)
食事の前に、首や肩を回したり、舌を動かしたりする「嚥下体操」を行いましょう。のどの筋肉がほぐれ、飲み込みがスムーズになります。
・食事の姿勢と工夫
食事は椅子に深く座り、足の裏を床につけ、少しあごを引いた姿勢で食べましょう。
サラサラとした水分は誤嚥しやすいため、市販のとろみ剤を活用しましょう。
食後に横になってしまうと誤嚥を起こしやすくなります。食後30分程度は横になるのを避けましょう。
・口の中を清潔に
毎食後の歯磨きはもちろん、寝る前のケアも徹底しましょう。寝ている間の細菌繁殖を防ぐことが予防に直結します。
・禁煙
たばこはのどの粘膜を傷つけ、異物を追い出す力を弱めてしまいます。禁煙は今日からできる強力な予防策です。
監修
千葉大学病院 呼吸器内科 特任教授
巽浩一郎