肝膿瘍
かんのうよう

最終編集日:2025/3/11

概要

肝臓に細菌などが感染して肝臓内で増殖し、うみがたまって組織が壊死を起こし、膿瘍をつくる病気です。感染源は細菌、原虫(赤痢アメーバ)、まれに真菌などが挙げられ、大きく細菌性肝膿瘍とアメーバ性肝膿瘍に分けられています。

細菌性は女性よりも男性に多く、60歳代に発症のピークがあるとされています。近年増加傾向にあるアメーバ性の潜伏期間は数カ月~数年で、個人差が大きいようです。


原因

●細菌性肝膿瘍

肺炎桿菌や大腸菌などが原因となります。クラブシエラ・ニューモニエという細菌が最も頻度が高いといわれます。感染経路として、①ほかの消化管(胆管、大腸、虫垂、腹膜など)の炎症から感染が波及する、②血管を通して、心膜炎菌血症などから感染する、③外傷性、ほかの医療的処置が原因(医原性:肝臓がんに対するラジオ波焼灼術や肝動脈塞栓術など)、などが挙げられます。とくに胆管炎などから胆道を経由した感染が多く、約50%を占めるとされています。

糖尿病肝硬変などの肝臓疾患、がんなどがあると、感染のリスクが高くなり、発症すると重症化しやすいといわれます。


●アメーバ性肝膿瘍

原虫である赤痢アメーバの嚢子(一時的に休眠状態になったもの)に感染して起こります。アメーバに汚染された食物や飲料水の摂取による経口感染、赤痢アメーバ保因者(キャリア)との性行為などが感染経路となります。


症状

発熱倦怠感、右上腹部痛・圧痛(押すと痛む)、食欲不振、吐き気・嘔吐などが現れます。診察では肝腫大(肝臓の腫れ)を指摘されます。細菌性で胆管炎が原因の場合は黄疸もみられます。アメーバ性で腸炎を伴う場合は、下痢腹痛血便がみられることもあります。

肝膿瘍が疑われたら、内科あるいは消化器内科、肝胆膵内科を受診します。



検査・診断

問診で肝膿瘍が疑われたら血液検査を行い、炎症反応の有無や肝機能の低下を調べます。また血液や膿瘍穿刺液(肝臓の病巣に外から針を刺してうみを採取する)を培養して、原因菌やアメーバを特定します。

腹部超音波検査、CT検査などの画像検査で病巣や肝臓全体の状態を確認します。画像検査だけでは細菌性かアメーバ性かの判断はむずかしいため、血液検査の結果とともに総合的に診断されます。アメーバ性肝膿瘍では赤痢アメーバの既往に注意が必要です。

肝腫瘍などとの鑑別が必要です。


治療

●細菌性肝膿瘍

まず、初期治療に多く用いられる抗菌薬を投与します。細菌が特定されたら、原因菌に合った抗菌薬への変更を検討します。多くは、1~2カ月継続して投与するようです。

同時に「経皮経肝膿瘍穿刺ドレナージ」を行います。超音波やCTで見ながら膿瘍に外から針を刺し、チューブを挿入・留置してたまったうみや体液を排出する治療です。

抗菌薬は決められた期間、用法・用量を守って服薬することが第一です。症状は軽快しても菌は完全に排出されておらず、再発する可能性もあるからです。

細菌性は敗血症や播種性血管内凝固症候群などを起こしやすいため、早期に診断・治療を開始することが重要です。


●アメーバ性肝膿瘍

抗原虫薬であるメトロニダゾールが第一選択薬となります。経皮経肝膿瘍穿刺ドレナージを行うこともあります。


セルフケア

予防

細菌性肝膿瘍の原因となる胆管炎などの胆道や胆嚢の病気は早期に治療するようにします。糖尿病などの持病の改善・コントロールも必要です。

アメーバ性肝膿瘍の国内感染のほとんどが性行為による感染であると報告されています。感染を予防するためには、口腔・肛門性交を避けるようにします。衛生環境の整備が遅れている発展途上国に行く際には、生水・生野菜・生肉などを口にしないようにして、経口感染を予防することも大切です。


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監修

鳥居内科クリニック 院長

鳥居 明