肝臓がん
かんぞうがん

最終編集日:2024/3/27

概要

肝臓原発(最初に発生すること)のがんの90%以上は「肝細胞がん」で、約5%を肝内胆管がんなどの胆管がんが占めるとされています(以下、肝細胞がん)。1年間の患者数は約3万8000人。50代から患者数が増加しはじめ、もっとも多いのは80代です。男女比は2対1で男性に多くなっています。

原因

B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)によるウイルス性肝炎の罹患が原因となる頻度が高く、HBVが肝細胞がんの約15%、HCVが約60%を占めるといわれています。そのほか、非ウイルス性の肝細胞がんとして、アルコール性肝硬変非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、自己免疫性肝炎などが原因となります。非ウイルス性の肝細胞がんの発症には肥満や糖尿病などの生活習慣病も関与すると考えられています。ウイルス性肝炎の新規感染者数の減少や治療法の進歩によって、ウイルス性の肝細胞がんの患者数は減少傾向にあります。しかし、非ウイルス性の肝細胞がんは増加傾向にあるとされています。

肝臓がん
肝臓がん

症状

肝臓は「沈黙の臓器」といわれるように、ある程度がんが進行しないと症状が現れません。健康診断やほかの病気での腹部超音波(エコー)検査などで見つかることが多いようです。

肝細胞がんは、ウイルス性肝炎やアルコール性・非アルコール性肝障害など、肝臓の慢性疾患の罹患を背景にして発症する場合がほとんどです。これらの病気の症状として、倦怠感、皮膚のかゆみ、黄疸(おうだん)、食欲不振、むくみなどが現れることがあります。

がんが増大すると、右側の上腹部のしこりや痛み、圧迫感などの症状が起きてきます。

検査・診断

腹部超音波検査は病変を見つけるには有効な検査です。基本的な検査として、血液検査を行って肝機能を調べ、腫瘍マーカー検査(AFP、AFP-L3、PIVKA-Ⅱ)も行います。その結果、がんが疑われたら、造影剤を用いる造影超音波検査、造影CTやMRI検査などでがんの大きさ、場所、広がり、性質(悪性か良性か)、リンパ節転移の有無などを精査し、周囲の組織や血管などの評価も行われます。さらに、入院して血管造影検査も行われます。

画像検査だけで悪性か良性かの判断がむずかしい場合は組織をとって行う生検が考慮されますが、がん細胞が播種する(周囲にばらまかれる)危険性がある場合には行われません。

転移性肝臓がん、肝膿瘍など、ほかの肝臓の病気との鑑別も重要です。

治療

治療として、肝切除、焼灼療法(アブレーション)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、経皮的エタノール注入療法(PEIT)、全身化学療法、肝動注化学療法、肝移植など、複数の治療法があります。治療法の選択に際しては、①肝予備能(肝臓の機能がどれくらい残っているか)、②肝外転移の有無、③脈管侵襲(がん細胞が血管やリンパ管に広がっているか)、④腫瘍数、⑤腫瘍径の5つの要素を検討して判断されます。

近年では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬と手術、あるいは焼灼療法、TACEと組みあわせることで、より高い治療効果が見込める場合が増えています。


●肝切除

肝機能が良好で、腫瘍が3個以内の場合に適応されます。切除する部位や範囲によって、がん核出術、肝部分切除、肝亜区域切除、肝区域切除、肝葉切除などの術式から選択されます。腹腔鏡で行われる場合も増えてきています。手術支援ロボットを用いるロボット支援下肝切除も2022年に保険適用となり、今後、実施する施設の増加が見込まれます。


●焼灼療法(RFA、MWA)

皮膚から肝臓に向かって電極針を刺し、がんにラジオ波やマイクロ波を当てて焼灼(焼く)治療法です。ラジオ波焼灼療法(RFA)に加えて、一度により広範囲を焼灼できるマイクロ波焼灼療法(MWA)も普及してきています。肝機能がよく、腫瘍径3cm以内、腫瘍が3個以内の場合に適応されます。肝切除にくらべてからだへの負担が少なく、再発時も行えるというメリットがあります。


●動脈塞栓療法(TACE)

がん細胞に栄養を送る動脈を塞栓し(詰まらせて)、がんを縮小・壊死させる治療法です。太ももの付け根やひじ、手首の動脈からカテーテルという細い管を通して肝臓の肝動脈まで到達させます。造影剤と抗がん剤を注入し、ゼラチンスポンジなどで塞栓します。

腫瘍が4個以上で、手術と焼灼療法、経皮的エタノール局注療法(PEIT)の対象とならない場合に適応されます。


●経皮的エタノール局注療法(PEIT)

超音波でガイドしながら、細い針を外からがんに刺し、エタノールを直接注入してがん細胞を凝固・壊死させる治療法です。腫瘍径3cm以内、腫瘍数3個以下に適応されます。ある程度の再発がみられるため、近年では実施数は減少傾向で、RFAを選ぶケースが増えています。


●全身化学療法、肝動注化学療法

上記の治療法が適応されない進行肝細胞がんで、全身状態がよい場合に適応されます。全身化学療法には分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬が用いられます。肝動注化学療法では、肝動脈に直接抗がん剤を注入します。


●肝移植

一定の条件を満たした場合に考慮されます。わが国では近親者から肝臓の一部の提供を受ける「生体肝移植」が主流になっています。

セルフケア

予防

予防のためにはまず、肝細胞がんの原因となるウイルス性肝炎に罹患しているかどうかの検査を受け、罹患していたら必ず抗ウイルス治療を受けることが肝要です。すでに肝硬変まで進行している場合「肝細胞がんの超高危険群」とみなされ、3~4カ月に1度の腹部超音波検査と腫瘍マーカー検査、6~12カ月に1度の造影CT検査、あるいはMRI検査が推奨されています。

また、増加傾向にある非ウイルス性の肝細胞がんの予防には、肥満や糖尿病などの生活習慣病の改善・予防が大切です。栄養バランスのとれた食事、規則正しい生活、適度な運動、十分な睡眠・休養、ストレス解消、禁煙、節酒などを心がけましょう。

監修

鳥居内科クリニック 院長

鳥居明

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