心膜炎
しんまくえん

最終編集日:2024/6/20

概要

心臓を包む袋を心嚢といいます。心嚢は心膜と呼ばれる2枚の膜からなっています。2枚の心膜のすき間(心膜腔)は、摩擦防止などの役割をもつ心膜液という液体で満たされています。この心膜が炎症を起こした病気が心膜炎です。炎症が起こると心膜液が過剰に貯留したり、炎症が長期化することで心膜が厚くなったりします。急に発症して症状が現れる「急性心膜炎」と、急性心膜炎が改善されず6カ月以上経過した「慢性心膜炎」があります。慢性心膜炎には、心膜液がゆっくり貯留する「滲出性心膜炎」と、心膜が徐々に肥厚する「収縮性心膜炎」があります。

多くはかぜやインフルエンザなどの上気道(鼻からのど)感染症に続いて発症します。年齢・性別を問わずリスクがあり、救急外来での胸痛の訴えの約5%を占めるといわれています。

原因

細菌やウイルスによる上気道感染症が発症の誘因となります。80~90%はウイルス感染とされますが、通常、ウイルスの特定にまでは至りません。細菌が原因の場合は重症化しやすいと考えられています。

感染のほかに、膠原病関節リウマチなどの自己免疫疾患、悪性腫瘍、心筋梗塞、心臓外科手術、放射線治療、特定の薬などが原因となります。

症状

発熱、せき、のどの痛み、鼻の症状などの上気道感染症の症状が先行したのち、特徴的な激しい胸痛が現れます。安静にしていても痛み、とくに吸気時(息を吸うとき)、仰臥位で痛みが増強し、前傾姿勢では軽減します。

過剰に貯留した心膜液が心臓を圧迫し、胸部圧迫感や呼吸困難、起坐呼吸(上半身を起こした状態・座った状態で呼吸が楽になる)などがみられます。また、急速な心膜液の貯留によって「心タンポナーデ」を起こすと、低血圧やショック状態に陥ることもあります。

まれに炎症が心筋に及んで「心筋炎」を起こすと、動悸、呼吸困難、倦怠感を伴います。

慢性心膜炎では、せき、息切れ、倦怠感、足のむくみなどが現れます。収縮性心膜炎ではさらに胸水、腹水、肝機能障害などが起きてきます。吸気時に血圧が低下する「奇脈」が約30%にみられ、そのほか、クスマウル徴候(吸気時に右心房圧が上昇し頸静脈が怒張する)があるのも特徴的です。

検査・診断

問診で心膜炎が疑われたら、聴診、血液検査、心電図検査、心臓超音波(心エコー)検査、胸部X線検査などで心臓の様子を精査します。必要に応じて、心臓カテーテル検査や心臓MRI検査、心膜の組織を採取して行う心膜生検なども行います。

胸痛を伴う急性心筋梗塞、大動脈解離、呼吸困難を伴う気胸や肺血栓塞栓症などとの鑑別診断も重要です。

治療

急性心膜炎の多くは数週間で完治に向かいます。安静を保ち、抗炎症薬、鎮痛薬などで症状の軽減を図ります。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアスピリンなどの効果がみられなければ、ステロイドを用いることもあります。細菌感染が疑われたら抗菌薬を用います。

上気道感染症のほかに原因があるケースでは、あわせて原因となる疾患の治療も行います。

薬物療法で改善がみられない場合には、心膜腔に針を刺して(穿刺)心嚢液を排出させる「心嚢ドレナージ(心嚢穿刺)」を行います。

慢性心膜炎は安静を保ち、塩分の摂取制限や利尿薬の服用で貯留液の排出やむくみの改善を図ります。収縮性心膜炎では、根治療法として、肥厚して硬くなった心膜を切除する手術が行われることがあります。

セルフケア

予防

上気道感染症に続いて発症することが多いため、かぜやインフルエンザにかからないように留意し、かかったときは油断せず、治るまで養生するようにしましょう。

監修

神奈川県立循環器呼吸器病センター 循環器内科 部長

福井和樹

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