一次性ネフローゼ症候群
いちじせいねふろーぜしょうこうぐん

最終編集日:2025/3/4

概要

ネフローゼ症候群とは、尿に大量のたんぱくが排出されてしまうために、血液中のたんぱくが減少する病態を指します。血液中のたんぱくの約50%を占めるアルブミンは肺、腸、皮膚など、各組織から不要な水分を回収して尿として排泄させる働きをもっています。ネフローゼ症候群ではアルブミンの減少によって「低アルブミン血症」となり、からだの各組織に水分過剰な状態をまねき、さまざまな症状が現れます。また、適切な治療を行わないと、腎機能が低下して人工透析が必要になるほか、胸水や腹水の貯留で、呼吸器や循環器、消化器にも影響を及ぼします。

ネフローゼ症候群には、原因となる病気がなく発症する「一次性ネフローゼ症候群」と、特定の病気(糖尿病、腎疾患、自己免疫疾患、がん、感染症など)や薬剤〔抗リウマチ薬、骨粗鬆症薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)など〕が原因になる「二次性ネフローゼ症候群」があります。

一次性ネフローゼ症候群には、微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症、巣状分節性糸球体硬化症など、いくつかのタイプがあります。年間、6000~7000人が新たに発症し、推定患者数は約17000人です。小児の発症は2~6歳に多く、2:1で男児に多いとされています。

一次性ネフローゼ症候群は厚生労働省の指定難病となっています。


原因

原因はまだ明らかになっていません。免疫の異常や遺伝子異常の関与が考えられています。

症状

体内の水分がうまく排出されないために、むくみ(まぶたや顔が腫れぼったい、手足がむくむなど)、体重増加が起こります。重症になると、胸やおなかに水がたまる胸水や腹水が現れ、息切れ、食欲不振、倦怠感、おなかがふくらむ、吐き気・嘔吐などがみられます。

また、腎機能の低下、血液の凝固異常・血栓症、脂質異常症(高LDLコレステロール血症)などを伴います。

尿の異常として、尿が泡立つ、尿量が減る血尿(褐色尿)がみられることもあります。


検査・診断

強いむくみが現れたり、尿の異常がみられたりした場合は、内科あるいは腎臓内科を受診します。

検査は、尿検査、血液検査が行われます。尿検査では、尿量尿たんぱくの測定、血尿の有無、尿沈渣などが、血液検査ではたんぱく、アルブミン値のほかに、腎機能を調べる生化学検査や凝固機能や免疫検査などと、合併しやすい脂質異常症の有無をみるために血清脂質検査も行われます。

①尿たんぱく3.5g/日が持続する、あるいは尿たんぱくとクレアチニン比が3.5g/gCr以上

②低アルブミン血症(血清アルブミン値3.0g/dL以下)

が一次性ネフローゼ症候群の診断には必要条件であり、加えて浮腫や高LDLコレステロール血症を認め、原因疾患がない場合に、一次性ネフローゼ症候群と診断されます。

小児の場合は、

①夜間蓄尿で尿たんぱくが40mg/時/m2以上、あるいは早朝尿で尿たんぱくとクレアチニン比が2.0g/gCr以上

②低アルブミン血症(血清アルブミン値2.5g/dL以下)

を満たし、原因疾患がない場合に診断されます。

そのほかに画像検査として、胸部X線検査腹部超音波検査、腹部CT検査などで胸水や腹水の有無、腎臓の大きさや形の変化などを調べます。そして、どのタイプの一次性ネフローゼ症候群か、また二次性ネフローゼ症候群との鑑別のために、腎臓の組織を採取して調べる腎生検を行います。


治療

治療の目標は、まず尿たんぱくを減少させて、その後、腎機能の保持と完全寛解(尿たんぱくの消失)をめざします。寛解とは完治ではないが、病状が落ち着いてよい状態が保たれていることをいいます。

一次性ネフローゼ症候群に対する治療として、ステロイドの投与が第一選択となります。効果についてはタイプにもよりますが、寛解率の高い微小変化型ネフローゼ症候群の場合は2~4週間で効果がみられ、90%以上が寛解するとされています。寛解後は用量を調節しながら1年から数年間服用し、再発がみられないようなら中止します。尿たんぱくが重度の場合は、ステロイドのパルス療法(短期間に多量を投与する)が行われることもあります。

ステロイドの効果がみられない場合(ステロイド抵抗性)や、ステロイドをやめると悪化する場合(ステロイド依存性)、いったんはよくなっても再発をくり返す場合には、免疫抑制薬を用います。さらに分子標的薬が難治例に適応されるようになりました。

むくみや胸水・腹水の改善のために、塩分の摂取制限を行いながら利尿薬を用いて水分の排出を促します。

そのほか、腎臓を保護するために降圧薬を、高LDLコレステロール血症がある場合にはスタチンなどの脂質異常症改善薬を用います。

タイプによって異なりますが、10年、20年と長期に経過する間に腎機能が低下し、人工透析の導入を検討するケースも少なくありません。


セルフケア

療養中

一次性ネフローゼ症候群の多くは完治がむずかしく、寛解を保つことが重要です。定期的な診察・検査、用法用量を守った適切な薬物療法を継続します。タイプにもよりますが、再発率が30~70%と高いことも念頭に置き、体調に変化があったら速やかに受診します。また、薬を長期に用いることが多いため、副作用の出現にも留意します。とくにステロイドの服用によって、またネフローゼ症候群自体が免疫力を低下させるため、感染症のリスクが上がることがわかっています。かぜやインフルエンザなどにかからないよう、予防に努めます。

食事療法も大切です。病状によりますが、塩分摂取制限(1日3~6g未満)、たんぱく質摂取制限、水分制限などが行われます。寛解期には、肥満症予防やステロイド性骨粗鬆症予防の観点からも、適度な運動がすすめられています。

小児の場合は、食事制限による成長障害が懸念される場合もあります。病状によって学校生活に制限がある場合もあり、主治医とよく相談して治療を続けていきます。思春期以降には再発しなくなるケースもあります。


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監修

しみず巴クリニック

小林顕子