ネフローゼ症候群ねふろーぜしょうこうぐん
最終編集日:2023/8/23
概要
腎臓には、血液をろ過して老廃物を尿の形で排出するしくみがあります。ろ過の過程では、からだに必要な栄養素が含まれている段階もあり、それらの栄養素を再吸収するのも腎臓の役割です。このしくみが何らかの原因でうまく働かなくなり、たんぱく質が尿に漏れ出てしまう病態をネフローゼ症候群と呼びます。ひとつの病気を表すものではなく、病的な状態を指します。尿から大量のたんぱく質が排出されるため、からだはたんぱく質が不足する「低アルブミン血症」になります。
腎臓の機能の異常のほかに原因疾患のないものを「一次性(特発性)」、原因疾患のあるものを「二次性」と分類しています。一次性ネフローゼ症候群は年代を問わず発症し、年間の新規患者数は、約2500人とされています。厚生労働省の指定難病となっています。
腎機能障害のほかに、脂質異常症、易感染性(細菌などに感染しやすい状態)、深部静脈血栓症、免疫不全など、全身にさまざまな合併症が現れます。
●子どものネフローゼ症候群
小児の年間の新規患者数は、約1000人、欧米よりも多いといわれています。男女比は1.2~2対1で、男児に多くみられます。子どものネフローゼ症候群の約90%は一次性といわれます。成人にくらべて、ステロイドによる治療が効果を上げ、約90%が寛解を得られます。ただし、再発しやすく、30~40%は寛解と再発をくり返す「再発頻回型」に移行します。また、成人後はステロイド投与を中断すると悪化する「ステロイド依存性ネフローゼ症候群」を発症することもあるため、長期的な経過観察が不可欠です。
原因
●一次性ネフローゼ症候群……一次性ネフローゼ症候群には、微小変化型ネフローゼ症候群、巣状分節型糸球体硬化症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎などがあります。このうち、中高年に好発する膜性腎症では、糸球体の細胞に異常な抗体(免疫複合体)が沈着することが原因とされています。しかし、なぜそのような状態になるのかはわかっていません。そのほかの一次性ネフローゼ症候群についても、原因は明らかになっていません。
ステロイド治療の効果が上がりにくい「ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群」では、遺伝的な要因が関与することがわかっています。
●二次性ネフローゼ症候群……原因疾患として、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、糖尿病、B型肝炎やC型肝炎などの感染症、薬剤性(NSAIDsや関節リウマチの薬など)、腫瘍(肺がん、前立腺がん、血液のがんなど)などが挙げられます。
症状
低アルブミン血症の状態になると、血管内の水分が血管の外に移動するため、さまざまな症状が現れます。
代表的な症状は、浮腫(むくみ)です。むくみは眼瞼(まぶた)から始まることが多く、下肢、仙骨部(お尻の周辺)、男性では陰嚢などに広がり、重度になると胸水や腹水がたまり、体重が増加します。頭痛、倦怠感、腹部膨満感、呼吸困難などを伴い、むくみが腸管に及ぶと、腹痛、下痢、食欲不振などを訴えます。
また、尿の異常として、尿が泡立つ、尿量が減少する(重症になって急性腎障害を起こした場合)、血尿(糸球体腎炎を伴う場合)などがみられることもあります。
そのほか、ネフローゼ症候群では、血液の凝固異常が起こり凝固亢進状態になるため、血栓をつくりやすくなります。下肢のむくみに熱感や発赤、圧痛(押すと痛む)を伴う場合は、下肢深部静脈血栓症を合併している可能性があります。
検査・診断
問診の後、尿検査、血液検査、腎機能検査を行います。
胸部X線や腹部超音波(エコー)検査、腹部CT検査などの画像診断で、胸水や腹水の有無、腎臓の大きさや形の変化などを調べます。多くは腎臓の組織をとって精査する腎生検で、確定診断と原因疾患の特定が行われます。
ネフローゼ症候群の診断基準は、3.5g/日以上の尿たんぱくがつづく、血清アルブミン値が3.0g/dL以下、のいずれにもあてはまることとされています。また、浮腫がある、脂質異常症(高LDLコレステロール血症)があることも診断には有益な条件です。
浮腫や尿たんぱく・低アルブミン血症を現す、心不全、肝硬変、肝不全、深部静脈血栓症、下肢静脈瘤、甲状腺機能低下症などとの鑑別が重要です。
治療
治療はまず、尿たんぱくの減少を改善して低アルブミン血症を治すこと、次に尿たんぱくを完全になくし、腎機能を維持することを目標にします。
一次性ネフローゼ症候群では、ステロイドを用いた薬物療法が中心になります。必要に応じて免疫抑制薬を、寛解・再発をくり返す難治性の場合は、生物学的製剤(リツキシマブ)を用いることもあります。むくみの改善に利尿薬やアルブミン製剤を使用したり、また合併しやすい高血圧、脂質異常症、血栓症などの改善・予防のためにそれぞれの薬剤が用いられます。
二次性ネフローゼ症候群では、原因疾患の治療が優先的に行われます。
セルフケア
予防
食塩摂取量を減らすと、たんぱく質の排泄が低下することがわかっています。1日6g未満の食塩摂取を心がけましょう。たんぱく質やカロリー摂取については適量を摂取すれば、制限はありません。
ネフローゼ症候群では糖尿病と感染症の合併率が高く、日頃からこれらの疾患を予防する必要があります。とくに難治性ネフローゼ症候群では、難治性ネフローゼ症候群自体が免疫を低下させることがわかっており、加えてステロイドや免疫抑制薬を使用することで感染症のリスクがさらに上がると考えられています。
安静・運動制限については、むくみが強いときには安静がすすめられますが、それ以外ではとくにありません。
監修
しみず巴クリニック 腎臓内科
吉田顕子
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