腎盂腎炎じんうじんえん
最終編集日:2023/3/28
概要
腎盂は、腎臓の出口に位置する臓器で、腎臓でつくられた尿を集めて、尿管へ流す働きをしています。腎盂・尿管・膀胱・尿道をまとめて「尿路」と呼んでいます。
腎盂腎炎は尿道から侵入した細菌が尿路を逆行して腎盂まで達し、症状を起こす感染症で(上行性感染)、急性と慢性に分けられます。また、日本感染症学会の定義では「既往症のない、妊娠していない成人閉経前女性の腎盂腎炎を単純性、それ以外はすべて複雑性」と分類されています。複雑性の場合は基礎疾患をもっていることが多く、尿路結石、前立腺肥大症、尿路がん、糖尿病、尿路カテーテル留置、ステロイドなどの薬剤による免疫抑制状態などが挙げられます。慢性腎盂腎炎は複雑性のことがほとんどです。
女性に好発し、その理由としては、尿道が短いこと、細菌が多く存在する肛門と尿道の距離が短いこと、月経で尿道周辺に細菌が増殖しやすい環境になることなどが考えられます。
原因
ほとんどは細菌によるもので、おもにグラム陰性桿菌(かんきん)の大腸菌や緑膿菌、腸球菌などがありますが、単純性の70~80%は大腸菌が原因です。複雑性では、緑膿菌、ブドウ球菌なども原因になります。また、ウイルスや真菌が原因になることもあります。
上行性感染のほかに、血液を介して感染する血行性感染があります。からだのほかの部位に感染が起こり、原因菌が血流によって腎盂に至り腎盂腎炎を起こすものですが、頻度としてはまれです。
症状
急性腎盂腎炎では、発熱、悪寒、背中や腰、わき腹の痛み、倦怠感、頻尿、排尿痛、残尿感などが現れます。吐き気・嘔吐、食欲不振などの消化器症状を伴うこともあります。また、患側のわき腹から背中にかけて叩打痛(たたくと痛い)がみられます。
慢性腎盂腎炎では、自覚症状は少ないですが、微熱や長引く食欲不振、倦怠感や腰痛などがあります。
検査・診断
尿検査で膿尿(尿中にうみが出ている)と細菌尿(尿中に細菌が存在する)が認められ、血液検査で白血球の上昇などの炎症を現す所見があれば、確定診断となります。
使用する抗菌薬を選択するために、尿培養で原因菌の薬剤感受性検査(検出された原因菌に対する抗菌薬の効果を調べる検査)も行われます。また、腹部超音波(エコー)検査やCT検査などの画像診断で、尿路の閉塞や水腎症(尿路の閉塞で腎臓や尿路に尿がたまった状態)などの有無を調べ、複雑性との鑑別を行います。
治療
抗菌薬投与が行われます。単純性で軽症の場合は、内服薬、あるいは点滴で通院加療が可能です。水分をよくとって、尿を多く出すことが細菌の排出に必要です。軽症では、1~2週間で治癒しますが、再発の有無をみるために、治癒後、数週間後に再度、尿検査を行うのが一般的です。
重症例では、入院加療が基本となり、注射用抗菌薬に加えて、輸液も重要になります。必要に応じて解熱鎮痛薬の投与も行います。複雑性で尿路の閉塞がみられたら、ステントを留置する処置も行います。
なお、内服の抗菌薬は、たとえ症状が治まっていても、処方された量は必ず最後まで飲み切ることが完治のためには必要です。
セルフケア
予防
尿道からの細菌の侵入を防ぐために、陰部は清潔に保ちましょう。シャワーや入浴を欠かさない、女性では月経時のナプキンなどをこまめに取り換える、排便後のお尻の拭き取りは前から後ろ方向に行うことなどを心がけます。また、適度な飲水で尿量を確保し、トイレを我慢しないことも細菌の増殖を防ぐために必要です。
監修
しみず巴クリニック 腎臓内科
吉田顕子
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