血液型不適合妊娠けつえきがたふてきごうにんしん
最終編集日:2022/7/26
概要
血液型は赤血球の表面に存在する「抗原」の型によって分類されます。よく知られているA、B、O、ABの4つに分けられる分類(ABO型分類)のほかに、Rh式血液型というものがあります。Rh式血液型は、C、c、D、E、eなど、ABO型とはまったく異なった抗原による分類で、このなかのD抗原があるものをRh(D)陽性(Rhプラス)、ないものをRh(D)陰性(Rhマイナス)と呼びます。日本人ではRh(D)陰性の頻度は0.5%(200人に1人)です。
妊娠・分娩の際にリスクが生じるのは、このRhが不適合の場合で、多くは母親がRh(D)陰性、父親がRh(D)陽性で、胎児もRh(D)陽性のケースです。
一方、ABO不適合は、母体がO型で胎児がA型あるいはB型の場合に起こることがあります。
原因
母体と胎児間の酸素や栄養などのやりとりは胎盤で行われ、そこでは母体と胎児の血液が混ざることはありません。しかし、分娩や手術(中絶や流産も含む)などによって胎盤のなかに出血が起こり、胎児の血液が母体に入り込むことがあります。
例えばRh(D)陽性の胎児からRh(D)陰性の母体に血液が入ると、母体は自分のからだにないD抗原に対する抗体(抗D抗体)をつくります。このときつくられる抗D抗体は少量のことが多いため、胎児に戻っても異常をひきおこすほどではありません。しかし、次の妊娠時には抗D抗体が胎児により多く移行します。胎児がRh(D)陽性であれば抗D抗体と赤血球が結合して胎児の赤血球を壊し、胎児に重症の黄疸や流産をひきおこします。
ABO不適合の場合も同じように、母体から抗A抗体や抗B抗体が胎児の血液に移行して、胎児の黄疸が起こります。しかしRh(D)不適合のように重症化することはまれです。
症状
母体が症状を感じることはありません。
Rh(D)不適合では胎児や新生児に貧血や黄疸がみられます。重症化すると胎児水腫(胸水や腹水がたまり、全身がむくむ)が起こることがあります。そのため、胎児・新生児の死亡や流産のリスクが高くなります。また、黄疸によって神経細胞が障害されると、脳性麻痺などの後遺症が残ることもあります。
検査・診断
妊娠時の血液検査で母親の血液型、抗D抗体、抗A抗体、抗B抗体の有無を調べます(クームステスト)。母親がRh(D)陰性あるいはA抗原陰性、B抗原陰性と確認された場合には、父親も血液検査をします。父親が陽性であれば胎児も陽性と予測し、不適合妊娠の可能性を視野に入れて管理を行います。父親も陰性であれば胎児も陰性になって不適合は起こらないため、通常の妊娠と変わらない管理が行われます。
●母親がRh(D)陰性の場合の経過観察
妊娠28週頃に抗D抗体がつくられていないかを検査します。羊水検査を行うこともあります。同時に抗D免疫グロブリンを投与して、D抗原に感作する(免疫機能が働いて抗原に対して抗体をつくること)のを予防する処置を行います。
感作が成立して抗D抗体がつくられていた場合、4週ごとに抗D抗体価を測定し、高くなっていたら1~2週ごとに超音波検査を行い、胎児に貧血や水腫の徴候が出ていないか慎重にみていきます。
●そのほかの不適合
ABO型、Rh型以外の抗原・抗体についても不適合妊娠が起こりえます。抗M抗体、抗P抗体などがあり、総称して不規則抗体による血液型不適合妊娠と呼んでいます。頻度はそれほど高くなく、胎児へのリスクが低いものもあり、不規則抗体の検査は限られた病院でしか行われていません。
治療
分娩後72時間以内に、母親に感作予防の目的で、抗D免疫グロブリンを投与します。投与すると母体内に抗体がつくられないため、次の妊娠の際に抗D抗体の陽性率が抑えられ、Rh(D)不適合による胎児・新生児への影響を前の妊娠のときのように軽くできる可能性があります。
また、抗D免疫グロブリンの投与は、自然流産(妊娠7週以降まで胎児の生存が確認できた場合)、妊娠7週以降の中絶や流産、異所性妊娠、腹部打撲などに伴う検査や処置の場合にも行われます。
●新生児の治療
胎児に強い貧血や水腫がみられる場合、子宮内胎児輸血や、早期分娩を行い交換輸血(全血液の置換。血液を瀉血〈しゃけつ〉しながら輸血する)、血漿交換療法(母体の血漿中の抗体を除去する)が行われます。
分娩後は新生児にもクームステストや血液検査(血清ビリルビン値、赤血球の形態)を行います。新生児の貧血や黄疸の程度、全身状態をみて、輸血や交換輸血などが行われます。
監修
小山嵩夫クリニック 院長
小山嵩夫
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