常位胎盤早期剥離
じょういたいばんそうきはくり

最終編集日:2022/7/26

概要

胎児の成育に不可欠な胎盤が、正常な位置(子宮体部の上方)に形成されているにもかかわらず、分娩よりも前に子宮壁(子宮内膜)から剥がれてしまう(剥離)状態です。妊娠32週以降に好発します。

胎盤は、通常ならば、胎児が生まれた後に剥がれ落ちて排出されるもの(いわゆる「後産」)です。胎盤が剥がれると、胎児は酸素と栄養を得ることができなくなり、処置が遅れると命にかかわる事態となります。この疾患では、血液の凝固機能が正常に働かなくなります。産科領域での出血による妊産婦死亡原因の第2位(約11%)であり、また脳性小児麻痺の約50%は常位胎盤早期剥離による脳への酸素不足が原因となるなど、発症すれば母体・胎児いずれも重篤な状態に陥る深刻な疾患です。

おおよそ200分娩に1例の割合で起こるとされています。

原因

なぜ突然、胎盤が剥離してしまうのかは明らかになっていません。何らかの原因で起きた子宮壁や胎盤の血行不良が、胎盤の癒着面である子宮内膜と、胎盤側の脱落膜の組織を障害し、出血を起こして剥がれてしまうと考えられています。

リスクファクターとして、常位胎盤早期剥離の既往、高年齢、妊娠高血圧症候群、絨毛膜羊膜炎(子宮の感染症)、前期破水、腹部打撲(外傷)、羊水過多などが挙げられています。

症状

腹痛、性器出血、子宮の圧痛(過緊張)が三大徴候といわれています。

胎盤が剥離した場所によっては、性器出血がみられない場合もあります。性器出血を伴わないケースでは、胎児が死亡するリスクが高くなるため、出血がなくても腹痛や腹部膨満感、または胎動がなくなったと感じたら、早急に受診する必要があります。

(左)性器出血がみられるケースと(右)性器出血がみられないケース
(左)性器出血がみられるケースと(右)性器出血がみられないケース

検査・診断

好発週数で三大徴候がみられたら、この病気を疑います。超音波検査、胎児心拍数モニタリング(分娩監視装置)などを行います。触診では子宮が過緊張になって、板のように硬くなっているのが確認されます。これらを総合的に判断して、確定診断を行います。

治療

治療は迅速に行われます。胎児が生きている場合、すぐに分娩させます。通常、緊急帝王切開を行います。母体は血が止まりにくくなっているため、血漿製剤(新鮮凍結血漿:FFP)の輸血が必要になります。

胎児が死亡している場合は、性器出血などの外部への出血を伴わないことが多いのですが、子宮内では大量に出血しています。輸血などの処置を行って状態を安定させてから、経腟分娩、あるいは帝王切開を行います。胎児死亡例では、後述するDICを併発することが多いため、分娩後も含めて、厳重な管理が必要になります。


●合併症

胎児が死亡した場合、母体は母体播種性血管内凝固症候群(DIC)を高頻度に併発します。DICは、細い血管のなかで、本来固まらないはずの血液が凝固して血栓をつくり、急速に肺、腎臓、脳などに障害を起こします。常位胎盤早期剥離に伴うDICは、胎盤剥離で大量出血を起こした(とくに胎児が死亡している場合)ことで凝固因子が不足して起こると考えられています。

セルフケア

予防

常位胎盤早期剥離は原因がわからないため、予測や予防ができません。妊娠後期になって出血、腹痛、おなかの張り、胎動の減少など、いつもと異なる症状が感じられたら、早めに受診することが肝要です。




監修

小山嵩夫クリニック 院長

小山嵩夫

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