妊娠糖尿病にんしんとうにょうびょう
最終編集日:2022/1/11
概要
妊娠糖尿病は、妊娠がきっかけとなって発症する糖尿病です。それまでは糖代謝異常がなく、初めて糖尿病と診断された場合を妊娠糖尿病、妊娠前から糖尿病と診断されている場合を糖尿病合併妊娠と呼んで区別しています。
妊娠糖尿病は通常の糖尿病にくらべると血糖値はそれほど高くないケースがほとんどです。ただし糖代謝異常による妊娠高血圧症候群の合併、巨大児、流産、早産、新生児の低血糖や黄疸などをひきおこすリスクが高くなるため、軽症でも治療を行う必要があります。
妊婦の7~9%にみられ、とくに肥満、高齢妊娠(35歳以上の初産)、4000g以上の大きな赤ちゃんを出産した経験がある場合などは、発症のリスクが高くなります。
原因
胎盤から出るホルモンがインスリンの働きを阻害するため、血糖を下げるホルモンであるインスリンの効果が低くなることや、胎盤から出る酵素でインスリンが分解されてしまうことで、妊娠前とくらべて血糖値が上がりやすくなります。これをインスリン抵抗性といいます。
とくに妊娠20週以降の妊娠後半期には、胎盤からインスリンの働きを阻害するホルモンが分泌されるため血糖値が高くなり、妊娠糖尿病を発症しやすくなります。
症状
妊娠糖尿病では、血糖値はそれほど高くならないため、糖尿病特有の症状はほとんど現れません。ただし妊娠高血圧症候群の発症、羊水量の異常、肩甲難産、腎臓疾患など、妊娠に伴う異常が症状として現れることがあります。また胎児の形態異常や心肥大、低血糖、黄疸など、生まれてくる赤ちゃんに影響が出る場合もあります。血糖コントロールが不良な場合、32週以降の子宮内胎児死亡のリスクが高まることが知られています。
検査・診断
妊婦健診における血液検査で診断されるケースがほとんどです。妊娠初期または妊娠中期の血液検査で、随時血糖値が基準値以上である場合に精密検査を行います。随時血糖値が≧200㎎/dL、HbA1c≧6.5%の場合は妊娠中の明らかな糖尿病と診断されます。
精密検査の基準値は75gブドウ糖負荷試験をした際の空腹時血糖値が92mg/dL以上、食後1時間値が180mg/dL以上、2時間値が153mg/dL以上で、いずれか1項目以上を満たした場合とされています。
治療
妊娠糖尿病では、胎児に影響が出ない範囲で血糖値をコントロールする治療が行われます。カロリーや塩分を制限する食事療法、適度にからだを動かす運動療法、血糖自己測定、必要に応じてインスリン療法などを行います。
目標となる血糖値は食前値100mg/dL未満、食後2時間値120mg/dL未満です。インスリン療法に使用されるインスリン製剤は、膵臓から分泌され血糖値をコントロールするインスリンと同じ働きのある物質で、不足分を補う必要がある場合に選択されます。患者自らが皮下注射を行う必要があるためさまざまな指導が行われます。
セルフケア
療養中
妊娠糖尿病の改善には、ウォーキングやヨガなどの有酸素運動が効果的です。ただし病状によっては安静にしているほうがよい場合もあるので、自分だけで判断せず、主治医に相談してから行うようにしましょう。
病後
妊娠糖尿病は出産すれば改善するケースがほとんどですが、妊娠糖尿病の罹患者はその後に2型糖尿病や生活習慣病を発症するリスクが高いといわれています。
こうしたリスクを回避するためにも食事や運動などの生活習慣に気をつけ、出産後も長期的なケアをつづけることが大切です。
予防
妊娠中の過体重や急激な体重増加は、妊娠糖尿病を発症しやすくします。バランスのよい食事や適度な運動を心がけ、適正体重を保つことが重要です。
監修
JR東京総合病院 産婦人科医長
松浦宏美
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