心筋症
しんきんしょう

最終編集日:2025/1/29

概要

心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしています。この働きが弱くなり、息切れむくみ(浮腫)をきたす疾患を「心不全」と総称します。心不全には原因となる疾患が存在し、心筋梗塞心臓弁膜症などがありますが、心筋症も心不全の原因になる疾患の一つです。

心筋症は心臓の筋肉(心筋)の細胞自体に異常が生じてポンプの力が弱くなる病気です。心筋細胞に異常を生じる原因として、ウイルスによる感染や、心アミロイドーシス(心筋に特定の異常たんぱく質が沈着する)など、ほかの病気がある場合を「二次性心筋症(特定心筋症)」と呼びます。一方、外的な原因がなく遺伝子の異常が関与していると考えられるものを「特発性心筋症」と呼びます。ここでは特発性心筋症について説明します。

心筋症のガイドラインでは、特発性心筋症をおもに以下のような4つのタイプに分類しています。


●肥大型心筋症(HCM)……心臓は4つの部屋(右心房・右心室・左心房・左心室)に分かれていますが、そのうちの左心室(全身に血液を送るポンプの働きをする)の一部の心筋が極端に厚くなる病気です。5つのタイプに分類され、心臓の下方の先端だけ厚くなる心尖部型肥大型心筋症、左心室の出口の心筋が肥大して内腔狭窄を生じることで起きる心室内の圧力差によって息切れや失神などをひきおこす閉塞性肥大型心筋症、さらに収縮力も低下してくる拡張相肥大型心筋症などがあり、タイプによって病態は大きく異なります。発症率は約500人に1人で、男女比は2.3対1とやや男性に多く、60歳代に好発するといわれます。


●(特発性)拡張型心筋症(DCM)……おもに左心室の心筋の収縮力が低下し、拡張する病気です。発症頻度は約2000人に1人と考えられています。


●拘束型心筋症(RCM)……心筋の肥大や拡張がないにもかかわらず、左心室の心筋が拡張しにくく、広がったときの容積が小さいため、心機能の低下を現す病気です。心筋症のなかではまれなタイプで、多くは小児期に発症します。


●不整脈原性右室心筋症(ARVC)……右心室の心筋が変性、線維化(硬くなる)して右心室の拡大、収縮機能の低下、不整脈を現す病気です。発症頻度は約5000人に1人、20~30歳代に多いとされています。


拡張型心筋症をはじめ、肥大型心筋症、拘束型心筋症はいずれも厚生労働省の指定難病となっています。


なお、二次性心筋症の原因疾患としては、次のようなものが挙げられます。

心筋炎などの心臓の病気/高血圧症甲状腺機能低下症糖尿病などの内分泌疾患/膠原病筋ジストロフィー/アルコール性心筋症/心アミロイドーシス/サルコイドーシス/産褥期心筋疾患/ファブリー病/ウイルス感染症など


原因

肥大型心筋症は、血縁者に同じ病気の人がいるケースが多いため、遺伝的要因が考えられます。拡張型心筋症ははっきりとした原因は解明されていませんが、ウイルス感染による心筋炎後遺症、遺伝子の異常、自己免疫性疾患などが関与していると考えられています。

症状

どのタイプの心筋症でも、初期の軽症の場合には無症状のことも少なくないため、健康診断などの心電図検査や画像検査で見つかるケースもめずらしくありません。

病状が進行するにつれて、全身に血液の滞留(うっ血)が起こり、息切れ、呼吸困難、倦怠感、むくみ、疲れやすさなどの「心不全様症状」が現れます。胸水や腹水がたまることもあり、1週間で2kg以上体重が増加した場合は、速やかに受診する必要があります。

不整脈も起こりやすく、動悸、ふらつき、めまい、失神などがみられ、なかには突然死に至る不整脈発作を起こすこともあります。不整脈の一つである心房細動が続くと、塞栓症(脳塞栓症や腎塞栓症)のリスクが高くなります。

自覚症状に乏しくても、心筋症が疑われるという指摘を受けたら、早めに循環器内科を受診しましょう。小児の場合は、小児科、小児循環器外来などが適切です。

検査・診断

胸部X線検査、心電図検査、血液検査、心臓超音波検査(心エコー)、心臓MRI検査、心臓カテーテル検査などが行われます。とくに心エコーと心臓MRIは心筋症の診断に有効とされています。心臓カテーテル検査では、心筋の一部を採取して精査します(心内膜心筋生検)。そのほか、診断および二次性心筋症を否定する目的で、冠動脈CT検査やPET検査などが行われる場合もあります。

二次性心筋症との鑑別は重要です。

治療

いずれのタイプでも、心筋症そのものを改善する治療法は確立されていません。心不全様症状に対する薬物療法(アンジオテンシン変換酵素阻害薬、ベータ遮断薬、利尿薬など)、不整脈に対する抗不整脈薬などが治療の中心になります。

不整脈のなかでも心房細動を頻発するケースでは、塞栓症のリスクが高くなるため、抗凝固薬を用いる、あるいは心筋焼灼術(肺静脈隔離術)を行って、塞栓症の予防を行うこともあります。また、突然死につながるような不整脈(心室性不整脈)が懸念される場合は、植込み型除細動器(ICD)の導入を考慮します。

病状の進行によっては、とくに若年層の患者では、心臓移植を検討することもあります。

セルフケア

療養中

心筋症は、症状が強く現れる急性期と、比較的落ち着いた慢性期に分けられます。慢性期でも、心筋の収縮力が低下した「慢性心不全」の状態が続いています。

生活のなかでは、禁煙、塩分制限、体重管理などに努め、用法・用量を守った薬物療法を続けます。また、症状が増悪したときの対処法を理解し、受診が必要なサインを押さえておくことが大切です。

治療は長期にわたるため、医師とよく連携して、治療のタイミングを見逃さないことも重要です。

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監修

神奈川県立循環器呼吸器病センター 循環器内科 部長

福井和樹