大動脈弁膜症だいどうみゃくべんまくしょう
最終編集日:2026/4/17
概要
大動脈弁とは心臓の出口にある弁(バルブ)で、心臓が収縮して大動脈に押し出された血液が、次に心臓が拡張したときに逆流しないようにするための弁です。この弁がなんらかの原因でうまく機能しなくなる病気が大動脈弁膜症です。
大動脈弁が十分に開かなくなる「大動脈弁狭窄症」と、大動脈弁の閉まりが悪くなり血液の逆流が生じる「大動脈弁閉鎖不全症」があります。
大動脈弁狭窄症では、左心室から大動脈への血流が妨げられるため、左心室に大きな圧力の負荷がかかり、心筋が肥大(厚くなる)します。
大動脈弁閉鎖不全症では、左心室から大動脈に押し出された血液が左心室に逆流することで左心室に負担がかかり、心臓が拡張(中身が大きくなる)します。
原因
大動脈弁膜症の原因はさまざまです。生まれつきの弁の形状や開閉に異常がある先天性のものもあれば、加齢や高血圧などによる動脈硬化、リウマチ熱の後遺症、感染症や心疾患などが原因となって発症する場合もあります。いずれの原因でも、経年的変化(加齢に伴う変化)により病状が進行していく病気です。
●大動脈弁狭窄症
加齢による動脈硬化によって大動脈弁が硬化し、発症することが多いとされています。高齢化に伴って増加している病気です。
●大動脈弁閉鎖不全症
通常、大動脈弁は3つの小さい弁尖(扉)で構成されていますが、生まれつき2つしかない場合(2尖弁)や、そのほかの先天性の異常、大動脈瘤(大動脈がこぶのようにふくらんだ状態)や大動脈解離(大動脈が裂けた状態)といった大動脈の疾患などが、おもな原因と考えられています。
症状
●大動脈弁狭窄症
左心室から大動脈への血流が妨げられるため、左心室は過剰な圧をかけて血液を送り出そうとします。そのため、左心室に負担がかかることに加え、全身に送り出される血液の量が減少し、心筋への酸素供給が低下します。動悸、倦怠感、めまい、足のむくみ、呼吸困難(息切れ)などが起こります。重症例では、胸痛や失神を起こし、突然死のリスクもあります。病状が急速に進行する場合があるため注意が必要です。
●大動脈弁閉鎖不全症
弁が正しく閉じないために大動脈へ送り出された血液が左心室へ逆流します。左心室に負担がかかり、心臓が拡張します。初期には症状があまりみられませんが、進行すると胸痛、倦怠感、呼吸困難などが現れます。重症になるとめまいや失神を起こします。どちらかというと、ゆっくりと進行していきます。

検査・診断
大動脈弁狭窄症および大動脈弁閉鎖不全症の検査・診断では、聴診(心音図)、心電図検査、胸部X線検査、心臓超音波検査(心エコー)などが行われます。必要に応じて、心臓カテーテル検査、左心室造影検査、大動脈造影検査などが行われることもあります。
治療
●大動脈弁狭窄症
大動脈と左心室の圧較差(あつかくさ)を計測し、20~50mmHg程度であれば軽症~中等症、50mmHg以上であれば重症とされ、弁の治療を考えます。
薬物療法(薬による治療)は、一時的には効果がありますが、あくまでも対症療法であり、症状が出た場合には手術で弁を取り換える必要があります。
従来は、外科で胸を開く手術が基本でした。手術は、胸部を切開して悪くなった弁を切除し、人工弁(※)に置き替える弁置換術、患者さん自身の心膜から大動脈弁を作成し、弁の周囲に縫い付ける大動脈弁再建術があります。
この病気はおもに老化現象によって生じるため、80歳以上の高齢者でみられることが多いです。高齢者では、カテーテル(医療用の細い管)を血管内に挿入して大動脈弁部に人工弁を留置する「カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)」が行われることがあります。この方法は全身の負担が少ないため、高齢者やほかの病気があって開心術が難しい場合に、良い適応となります。
●大動脈弁閉鎖不全症
中等症以下の場合や、重症であっても無症状で心機能が正常な場合には、薬物療法と定期的な心臓超音波検査による経過観察が行われ、激しい運動や労働を避けるような生活指導が行われます。また、感染性心内膜炎の予防にも注意します。
薬物治療法では、心臓の収縮力を強くする強心薬や、心臓の負担を減らして心不全の症状を改善させる利尿薬などが使用されます。ただし、薬物療法はあくまでも症状を抑えるためのものであり、悪くなってしまった弁を治すことはできません。
重症で自覚症状があり心機能の低下がみられる場合には、薬物療法に加えて、手術が行われます。手術には、胸部を切開して悪くなった弁を切除し、人工弁(※)に置き替える弁置換術、患者さん自身の心膜から大動脈弁を作成して弁の周囲に縫い付ける大動脈弁再建術があります。
※人工弁:カーボンやチタンなどでつくられた機械弁、または牛の心膜や豚の心臓弁でつくられた生体弁
セルフケア
予防
経年的変化(加齢に伴う変化)により進行していく病気のため、弁膜症自体の予防法はありません。手遅れになる前に気づくことが大切です。
大動脈弁膜症などの心臓弁膜症は、からだを動かしたときや夜間の安静時などに、息切れ、胸の痛み、ドキドキする、気を失うなどの症状が現れますが、ふだんあまりからだを動かさない人は運動不足や年齢のせいだと勘違いすることも多く、病気の発見が遅れるおそれがあります。
また、じっとしていると、からだを動かしていればわかるはずの症状に気づくことができない場合もあります。適度な運動をする、外出の頻度を増やす、家のなかでも家事などで動く機会を増やすなど、生活の質を改善していくことが大切です。
息切れや胸の痛みなどの症状を感じた場合には、早めに専門医に相談することが重要です。
監修
神奈川県立循環器呼吸器病センター副院長 循環器内科
福井和樹