心臓弁膜症

しんぞうべんまくしょう

最終編集日:2023/3/28

概要

心臓は右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋に分かれていて、血液が流れる順番は決まっており、逆流を防ぐためにそれぞれの部屋の出口には弁がついています。右心房と右心室の間の弁は「三尖弁」、右心室と肺動脈の間の弁は「肺動脈弁」、左心房と左心室の間の弁は「僧帽弁」、左心室と大動脈の間の弁は「大動脈弁」と呼ばれています。

心臓弁膜症は弁の働きが十分でなくなって、弁が血流を妨げる(狭窄)、逆流を起こす(閉鎖不全、あるいは逆流)などが起きてくる病気です。

高齢化に伴い、とくに患者数が増えているのが、大動脈弁狭窄(きょうさく)症です。大動脈弁狭窄症は弁の老化・劣化で生じるため、経年的に進行し、80歳以上では7%程度の罹患率といわれています。

原因

心臓弁膜症は、先天性のものと後天性のものがあり、先天性の場合は、弁の形状などに異常があることが原因になります。とくに大動脈弁が本来3尖なのが、生まれつき2尖しかなく、その後、加齢とともに弁膜症に進行する場合がよくみられます。


後天性の場合でもっとも多いのが、加齢による動脈硬化や弁の変性(石灰化など)が原因となるものです。また、リウマチ熱が心臓の弁の変性を招くことから、原因疾患として頻度が高かったのですが、近年ではリウマチ熱の治療法の進歩により、頻度は低下しています。そのほか原因疾患として、心不全、心房細動や心房中隔欠損症などの心臓の病気(三尖弁閉鎖不全症、肺動脈弁狭窄症)、肺高血圧症(肺動脈弁閉鎖不全症)などが挙げられます。


症例数は多くありませんが、複数の弁に異常をきたす場合もあります。

症状

●大動脈弁狭窄症(AS)

左心室から大動脈への血流が妨げられることから、左心室は過剰に圧をかけて血液を送り出そうとします。そのため左心室に負担がかかり、また、全身に送り出される血液の量が減少し、心筋も酸素が低下します。動悸、倦怠感、めまい、足のむくみ、呼吸困難(息切れ)などが起こります。重症例では、胸痛や失神を起こし、突然死のリスクもあります。急速に進行する場合があり注意が必要です。


●大動脈弁閉鎖不全症(AR)

弁が正しく閉じないために大動脈へ送り出された血液が左心室へ逆流してきます。左心室に負担がかかり、心臓が肥大します。初期には症状があまりみられません。進行してから、胸痛、倦怠感、呼吸困難などが現れます。重症になるとめまいや失神を起こします。どちらかというとゆっくり進行していきます。


●僧帽弁狭窄症(MS)

左心房から左心室への血流が妨げられ、左心房に血液がたまってしまいます。左心房に負担がかかり、心臓が肥大し、全身の血流が低下します。不整脈が出やすくなり、動悸、呼吸困難、めまい、足のむくみ、食欲不振などが起こります。また、左心房のよどんだ血液には血栓ができやすくなり、血栓が血流にのって脳に到達して脳梗塞を起こすことがあります。


●僧帽弁閉鎖不全症(MR)

左心室から左心房へ血液が逆流して、左心房の圧が上昇し、左心房に負担がかかります。心不全を伴うものが多く、呼吸困難、不整脈、動悸、めまいなどが起こります。


●三尖弁狭窄症(TS)・閉鎖不全症(TR)

右心房から右心室への血流が妨げられ、逆流症では血流が逆流します。倦怠感、頸静脈部位(首のわき、耳の下辺り)の不快感などが現れますが、後天性のものの多くは良性で、手術が必要になることは少ないです。


●肺動脈弁狭窄症(PS)・閉鎖不全症(PR)

多くは先天性で、成人にはまれです。狭窄症は初期には症状は現れにくく、多くは他疾患での診察時に心臓の雑音で指摘されます。狭窄の程度が強いと動悸、胸痛、呼吸困難、失神などが起こります。逆流症の多くは中等度の逆流になっても症状がありません。

心臓弁膜症
心臓弁膜症

検査・診断

心臓弁膜症の診断のきっかけは検診や診察時の聴診で心雑音があることです。ただし最近、聴診の機会が減って、さらに雑音が小さく気づきにくい場合もあります。

病状が進行すると胸部X線、心電図の異常が出てきます。もっとも有効な検査は、心臓超音波検査(心エコー)で、弁の動きの様子、心臓の状態、血流の状態などをみて、重症度も評価します。心臓CT検査では弁の周囲の石灰化の評価などを行います。

また、胃カメラのような内視鏡を使う経食道心エコーで、心臓のより近くからの画像診断を行うこともあります。心臓弁膜症とほかの心疾患の鑑別はむずかしくありませんが、原因疾患の特定は慎重に行われます。

治療

軽いものは、薬も処置も不要です。中等度以上になると定期的に心臓超音波検査などで経過観察を行います。弁膜症は、弁の構造的異常なので薬で治すことはできません。一時的に対症療法としての投薬治療はありますが、重度で症状が出てきた場合は、外科治療を検討することになります。

感染性心内膜炎といって弁に細菌が付着することがあり、歯科治療等で細菌感染しないように予防することが大切です。


●薬物療法

症状は、心不全によるものなので心不全の治療が中心となります。

利尿薬:体内にたまった過剰な水分を排出させて、浮腫や呼吸困難を改善、心臓の負担を軽くします。

弁膜症が進行すると心房細動という頻脈性の不整脈が起きやすくなります。心房細動は心不全の原因にもなりますが、血栓ができやすく脳梗塞のリスクにもなります。このため、抗凝固薬で血栓ができるのを防ぎます。


●手術

症状が出た場合や、症状がなくても程度が重度と判断された場合は、根治的に弁を治す必要があります。このためには開胸して、弁を置き換える(弁置換術)、あるいは弁を残して修復する手術(弁形成術)が行われます。弁置換術にも、耐久性の高い機械弁と牛や豚の弁を安全に加工した生体弁があります。機械弁は血栓ができやすく、ワーファリンという抗凝固薬を一生の飲みつづける必要があります。

・大動脈弁狭窄症・閉鎖不全症:弁置換術

・僧帽弁狭窄症:弁置換術

・僧帽弁閉鎖不全症:弁形成術

・三尖弁狭窄症:弁置換術

・三尖弁閉鎖不全症:弁形成術

上記の手術が一般的です。

近年、からだへの負担の小さい「低侵襲心臓外科手術」なども行われています。


●カテーテル治療

保存療法での効果が見込めない場合には、低侵襲な外科治療として、カテーテル治療が検討されます。現時点では、大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症が対象になります。

・経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)

大動脈弁狭窄症に行われます。太ももの付け根の血管から、生体弁(人工の弁)を装着したカテーテルを挿入して心臓まで到達させ、大動脈弁の場所に留置します。太もも以外の場所からアプローチする方法もあります。開胸手術が不要で、患者さんの身体的負担が小さくて済みます。

・経皮的僧帽弁接合不全修復術(マイトラクリップ)

外科手術ができない重症の僧帽弁閉鎖不全症に行われます。太ももの付け根の血管から、クリップを装着したカテーテルを挿入し、僧帽弁をクリッピングし(クリップでつまむ)、逆流を改善します。

セルフケア

予防

心臓弁膜症は、初期には症状が現れにくいことが多く、動悸や息切れ、むくみなどを感じたときにはある程度進行していることも少なくありません。定期的に検診で聴診をすることが大切です。

弁膜症の症状は息切れが中心で、老化との区別がむずかしいです。実際に息切れを加齢による生理的なものと考えて、見逃している場合もあります。心臓弁膜症を放置すると、心臓の機能が低下し、心不全のリスクが高くなります。心不全は「心臓の終末像」とも呼ばれる深刻な病気です。

気になる症状があったら、また診察時や健診で心臓弁膜症の可能性を指摘されたら、たとえ無症状でも早めにくわしい検査を受けることをおすすめします。早期に発見するために、ウェブサイト上のセルフチェックなどを利用してもいいでしょう。その場合は、必ず専門医の監修のもとでつくられたコンテンツを選ぶようにしましょう。

監修

神奈川県立循環器呼吸器病センター 循環器内科 部長

福井和樹

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