過敏性腸症候群
かびんせいちょうしょうこうぐん

最終編集日:2022/3/27

概要

精神的ストレスや自律神経失調などで、腸が刺激に対して過敏になり、腹痛や便通異常を起こす病気です。通常の検査では腸に炎症や潰瘍などの異常が認められないにもかかわらず、腹部の痛みや便通の調子が悪く、便秘や下痢などが数カ月以上つづきます。

ストレスの多い現代社会特有の病気ともいえ、日本人の約10~15%が過敏性腸症候群の症状をもっているといわれています。



原因

胃腸は精神的な影響を受けやすい臓器です。そのため精神的ストレスなどによって自律神経が乱れると、大腸の運動機能が過敏になって下痢や便秘、腹痛などが起きると考えられていますが、はっきりとした原因はわかっていません。

ウイルスや細菌による感染性の腸炎を発症した後に過敏性腸症候群を発症しやすくなることがわかっています。これは、感染性腸炎によって腸の粘膜が弱くなって腸内細菌に変化が生じ、腸の働きに異常が生じるためともいわれています。



症状

おもな症状は、腹痛もしくは腹部不快感と、下痢・便秘といった便通異常です。それ以外の症状としては、腹部の膨満感やゴロゴロと音が鳴るといった腹部症状のほか、疲労感、頭痛、発汗、動悸などの自律神経失調の症状を伴うこともあります。排便の回数と便の形状から大きく分けて、便秘型と下痢型、混合型の3つのタイプに分けられます。

下痢型は、ちょっとした緊張や不安があると便意をもよおし、激しい下痢の症状が現れます。便秘型は腹痛があっても便が出にくく、ウサギのフンのようなコロコロとした便になります。混合型は腹痛や腹部の不快感とともに下痢と便秘を数日ごとにくり返します。

どのタイプも症状が現れるのは日中で、夜間にはみられません。男性に多いのは下痢型、女性に多いのは便秘型、混合型といわれています。


検査・診断

問診で症状を聞きとり、過敏性腸症候群が疑われる場合には、国際的な診断基準に照らし合わせながら診断していきます。具体的には、過去3カ月、週1回以上の腹痛や腹部に不快感があったことが前提となります。そのうえで、「排便によって症状がやわらぐ」「症状によって排便の回数が増えたり減ったりする」「便の形状が硬くなったり軟らかくなったりする」、という3つのうち2つ以上にあてはまり、さらに、消化器にがんなどの器質的疾患が見つからなければ過敏性腸症候群と診断されます。

消化器に異常がないかを確かめるために、大腸内視鏡検査、大腸造影検査、腹部超音波検査、腹部CT検査、血液検査、尿検査・便検査などを必要に応じて実施します。また、過敏性腸症候群にかかりやすい性格かどうかを調べる性格テストを行う場合もあります。



治療

治療は医師との信頼関係を築くことから始まります。そのうえで生活習慣を見直し、できるだけ疲れや精神的なストレスをためないように生活リズムを整えることを指導されます。また、深夜の食事や暴飲暴食、香辛料などの刺激物を控える、栄養バランスのとれた食事を心がけるなど、食事指導も行われます。

また、必要に応じて整腸剤や精神安定剤などが処方されます。このような生活改善を行っても症状が改善しない場合には、症状を抑えるための薬物療法が行われます。下痢型の過敏性腸症候群には塩酸ラモセトロンが効果を示します。症状に合わせて下痢止め、便秘薬が投与されます。

過敏性腸症候群は、ストレスなど精神的な要因によって悪化することが少なくないため、カウンセリングなどの心理療法を行う場合もあります。



セルフケア

療養中

食事では、アルコールや香辛料を多く使った料理、コーヒーなどの刺激物は控えてください。専門医による食事指導を受け、症状をやわらげるものを食べるようにしましょう。排便異常を整えるためには、規則正しい食生活と軽い運動、そして十分な睡眠をとることが生活リズムを整えるうえで大事です。

便意を感じたらがまんせずにトイレに行くこと。便意をもよおさなくても、食後の決まった時間にはトイレに行くようにするのも、排便習慣の改善に役立ちます。



予防

過敏性腸症候群は精神的なストレスなどが影響して発症する病気です。疲れや睡眠不足、運動不足、脂肪分の多い食事、暴飲暴食など生活習慣の乱れが大きくかかわっていると考えられています。

ふだんから規則正しい生活リズムと、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。十分な睡眠や休養をとることも大事です。趣味を楽しんだり、散歩で気分転換したり、ストレスを解消できる方法を見つけて実践するようにしましょう。



監修

鳥居内科クリニック 院長

鳥居明

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