肺がんはいがん
最終編集日:2024/3/26
概要
肺がんは組織学的に、大きく「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」に分けられます。非小細胞肺がんは肺がんの約85%を占め、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどが含まれ、なかでも腺がんの頻度が高く、50~60%となっています。小細胞肺がんは気道の神経内分泌組織に由来するがんで肺がん全体の約15%を占めています。肺の「神経内分泌腫瘍(NET)」と呼ばれることもあります。
肺がんは発生部位によっても特徴が異なります。肺の入り口の太い気管支のある部分を「肺門」部、肺の奥のほうの気管支が細かく枝分かれして肺胞につながる部分を「肺野」部と呼びます。肺門部には扁平上皮がんの頻度が高く、症状が現れやすいのですが、X線検査では比較的見つけにくいのが特徴です。一方、肺野部のがんは腺がんが多く、初期には症状が起こりにくいものの、X線検査で見つけやすいのが特徴です。
肺がんの年間の患者数は約12万7000人(2019年)。部位別の罹患数予測は、男性が第3位、女性は第4位を占め、死亡数は男性が第1位、女性では第2位となっています。60代から患者数が増え始めます。肺腺がんは日本人にもっとも多い種類の肺がんであり、男性の約40%、女性の約70%を占めます。高齢者、喫煙者の罹患が多く、近年では非喫煙者、若年者の罹患が増加傾向にあります。
原因
非小細胞肺がん、小細胞肺がんは、いずれも喫煙が最大の原因となります。とくに扁平上皮がん、小細胞肺がんは喫煙の関与が強いといわれます。喫煙指数(1日に吸う本数×喫煙年数)が600以上の人は高リスク群とされています。受動喫煙では、受動喫煙の機会のない人にくらべて約1.28倍のリスクになるといわれます。
そのほか、職業的にアスベストやクロムという物質に長年ふれていたことなどが挙げられます。
症状
がんが肺門部に発症すると、せき、たん、血痰などが現れやすくなります。がんが大きくなると気管支に狭窄(狭くなる)が起こり、閉塞性肺炎を起こして発熱や胸痛、呼吸困難がみられることがあります。一方、がんが肺野部に発症すると初期には無症状のことも少なくありません。そのため、健康診断などで「胸部異常陰影」や「すりガラス(状)陰影」と指摘されて見つかる場合もあります。
進行例では周囲の臓器への浸潤(広がり)によって、胸水がたまることで起こる胸痛、呼吸困難、顔やうで・手のむくみ、嗄声(しゃがれ声)など、さまざまな症状が現れます。
小細胞肺がんも初期には症状が現れにくく、進行してから、せき、たん、血痰、呼吸困難、全身倦怠感、食欲不振など多彩な症状がみられます。低ナトリウム血症(症状として疲労感、嘔吐、食欲不振、こむら返りなど)や高カルシウム血症(症状として疲労感、食欲不振、吐き気・嘔吐、のどの渇き、多尿など)が出現することもあります。
検査・診断
胸部X線検査で異常がみられたら、胸部CT・造影CT、MRI、PET検査でさらにくわしくがんの大きさ、場所、リンパ節や他臓器への転移の有無などを調べます。たんのなかのがん細胞の有無をみる喀痰細胞診は、精度を上げるために複数回行われます。
確定診断として、気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)や経皮的肺穿刺法(からだの外から針を刺して、超音波〈エコー〉やX線、CT検査のガイド下で組織を採取する)で組織を採取して病理検査を行います。腫瘍マーカー(血液検査)として、腺がんにはCEA、SLX、扁平上皮がんにはSCC、CYFRA、小細胞がんにはProGRP、NSEがあります。
また、治療法の選択に有用な遺伝子検査として、ドライバー遺伝子変異、融合遺伝子変異が非小細胞肺がんに対して保険適用になりました。がん細胞の増殖に関与するEGFR遺伝子、BRAF遺伝子、ALK遺伝子、ROS1遺伝子の有無を調べるもので、それぞれに陽性であれば、適した分子標的薬治療を選択することもできます。
肺に発生するそのほかの腫瘍(結核腫、過誤腫、転移性肺がん)や、肺炎などとの鑑別診断が必要です。
肺がんの広がりの程度によるステージ分類は以下のようになっています。
Ⅰ期:がんが肺のなかにとどまり、リンパ節や他臓器に転移がない。
Ⅱ期:転移が肺門部のリンパ節のみである。
Ⅲ期:がんが周辺臓器に浸潤(広がる)している、かつ・あるいは縦隔リンパ節に転移があるが、他臓器には転移がない。
Ⅳ期:脳、肝臓、骨などに遠隔転移がある。
治療
肺がんの治療は、手術、放射線療法、薬物療法を組みあわせた集学的治療が行われます。
●手術
非小細胞肺がんでは一部のⅢ期までが、小細胞肺がんでは一部のⅡ期までが手術の適応となります。肺は左は2葉に、右は3葉に分かれています。一般的に、がんのある肺葉とリンパ節郭清が行われます。肺門部のがんでは、気管支形成術も行います。進行例では、片肺の全葉や周辺臓器も切除します。切除が広範囲にわたり、術後の肺の機能低下などが患者さんのQOL(生活の質)を低下させることから、術式は慎重に選択されます。2022年に、2cm以下の肺がんに対して肺葉単位での切除ではなく、さらに小さな「区域切除」のほうが生存率が高いことが明らかになり、2cm以下のステージⅠの肺がんには区域切除も標準治療として選択できるようになりました。手術の方法は、開胸手術、腹腔鏡手術、手術支援ロボットによるロボット手術から選択されます。腫瘍径が2cm以上のものには、術後、抗がん剤による術後補助化学療法が推奨されています。
●薬物療法
非小細胞肺がんのⅢ期以上、小細胞肺がんのⅡ期以上の、手術が適応されない場合に、抗がん剤治療と放射線療法を併用する化学放射線療法が標準治療となっています。手術適応外の非小細胞肺がんで、遺伝子検査が陽性で効果が見込めるようであれば、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を用います。
セルフケア
予防
何よりもまず、禁煙を実行します。喫煙者の肺がんによる死亡リスクは非喫煙者の4~5倍、さらに1日20本以上吸う人では10倍、喫煙開始年齢が低いとリスクはさらに上がることがわかっています。肺がんは患者数も死亡者数も多いがんです。日本対がん協会では、40歳以上になったら、年に1度、X線検査による肺がん検診を受けるように推奨しています。喫煙歴があれば、X線検査に加えて喀痰細胞診を受けることがすすめられます。画像では見つけにくい場合もあるからです。
監修
千葉大学病院 呼吸器内科 特任教授
巽浩一郎
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