破傷風
はしょうふう

最終編集日:2023/8/29

概要

破傷風菌による感染症です。破傷風菌は土壌や哺乳類の腸管や糞便に常在する細菌です。多くの感染症は、細菌やウイルスなど侵入微生物の増殖による障害を現しますが、破傷風の場合は、破傷風菌が産生する毒素によって中枢神経系が侵されます。

日本では5類感染症に指定され、現在は乳幼児から四種混合(DPT-IPV)ワクチン、または学童が対象の二種混合(DT)ワクチンの定期接種が行われています。年間の発症者は120人前後で、5~9人は破傷風が原因で死亡しています。全身性、局所性、頭部性、新生児性に分類され、約80%を全身性が占めます。

原因

おもに外傷などの傷口から破傷風菌が侵入して感染します。侵入した菌は血流にのって脳や脊髄に達し、神経系を障害します。潜伏期間は3~21日とバラつきがあり、平均8日前後です。感染から発症までの時間が短いほど重症度が高くなるといわれています。

症状

全身性では進行にしたがって、次のような症状が現れます。


●第1期:前駆(前触れ)症状期、潜伏期

肩こり、首の張り、寝汗、舌のもつれ感、顔のゆがみ、軽度の開口障害(口を開けにくい)などが現れます。多くは1~2日程度で、この時点で破傷風菌の感染に気づくことはむずかしいでしょう。

●第2期:開口障害期

破傷風に特徴的な症状が明らかになる時期です。強い開口障害(口が開けられない)、痙笑(けいしょう:顔の筋肉が引きつり笑っているように見える)、嚥下(えんげ)障害、発語困難(しゃべることができない、発音しにくい)などが現れます。数時間から1週間つづくこともあります。

●第3期:けいれん持続期

頸(首)部、背筋が強直して背中が反り返り、全身のけいれんが起こります。意識はありますが、わずかな光の刺激などでけいれんがひきおこされます。けいれんがつづくために、呼吸障害も現れます。また「自律神経過剰反応」により、血圧や脈拍の変動がみられます。2~3週間つづくことが多いようです。

●第4期:回復期

回復に向かいますが、筋肉の強直などは残ることが多いようです。破傷風の死亡率は約30%で、開口障害が起きてから全身性けいれんが現れるまでが48時間以内である場合、予後は不良とされています。局所性では傷に近い部位に限定したけいれんが、頭部性では頭部の外傷部位に関連した神経系にけいれんが起こります。いずれも全身性に移行することがあります。

検査・診断

症状、外傷歴から破傷風を疑った場合は、感染部位(傷)から細胞を採取して細菌検査を行いますが、破傷風菌の特定はむずかしいといわれています(50%以下の確率)。また、傷口が不明なケースもあるため、筋肉のけいれんなど、特徴的な症状がみられる場合は、治療を優先します。そのほか、血液検査で全身の状態を調べます。

脳血管障害(脳梗塞や脳出血など)、髄膜炎、扁桃周囲膿瘍、顎関節症などとの鑑別が必要です。

治療

治療は、破傷風菌の毒素に対する処置と、感染源となった傷の治療を中心に行われます。


●毒素に対する処置……速やかに、抗毒素抗体である抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)を投与します。重症度にあわせて用量が決められます。並行して、対症療法が行われます。呼吸困難が起きている場合は、気道確保や呼吸補助、筋肉のけいれんや強直の改善など、ICU(集中治療室)での全身管理のもとで治療が進められます。

●傷の治療……抗菌薬を投与します。傷の状態によっては、外傷部分を切除する場合も。

セルフケア

予防

●予防的措置について


外傷を負ったら、破傷風菌に感染するリスクはあります。とくに次のような場合、そのリスクは高いといわれています。


〈リスクの高い外傷の例〉

治療せずに6時間以上放置する、傷の形が複雑である、傷の深さが1cm以上、挫創、刺創、熱傷、重症凍傷、銃創、傷の部分に発赤・腫脹(腫れ)・疼痛などの感染徴候がある、傷の一部が壊死している、傷に土・糞便・体液(他者や多生物の)・塵埃などが付着している、傷の部分の感覚が鈍いなど。


これらに加え、10年以内に予防接種歴がない場合、予防措置としてTIGが投与されます。

日常よく体験する外傷は、1~2週間経てば改善されるものが多いですが、上記のようなリスクの高い傷を負ったら、受診して予防措置を受けましょう。軽症の場合でも、水道水などの流水で洗い流す、殺菌消毒液で消毒する、ばんそうこうや滅菌ガーゼなどで傷口を保護する、などの応急手当を忘れずに行います。


破傷風ワクチン(破傷風トキソイド)の効果は、ほぼ100%で効果は約10年とされています。1968年以降に生まれた人は、定期接種を受けているため、10年ごとに1回の接種でよいでしょう。1967年以前に生まれた人は、定期接種を受けていないため、任意で接種をしていない場合は初回からの接種になります。

とくに高齢者は、けがをしても気づかない、転倒などで大きなけがをする恐れがある、糖尿病の持病があるとけがが治りにくく化膿しやすいなどで、破傷風のリスクが高くなります。破傷風ワクチン接種について、かかりつけ医に相談してみましょう。

監修

鳥居内科クリニック 院長

鳥居明

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