MRSA感染症(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症)えむあーるえすえーかんせんしょう
最終編集日:2023/4/4
概要
黄色ブドウ球菌は、人や動物の皮膚、鼻腔内、消化管内などに常在する細菌で、健康な人には無害です。しかし、高齢者や外科手術後など、免疫力が弱まっている人に感染し(日和見感染)、さまざまな感染症の原因となります。
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、一般的な黄色ブドウ球菌と基本的には変わらず、感染すると同様の症状をひき起こします。ただ、多くの抗菌薬(抗生剤)に抵抗性をもつため 治療がむずかしくなり、重症化する症例も少なくありません。
医療関連感染の代表的な原因菌のひとつで、院内で検出される耐性菌としてもっとも頻度が高く、これまで入院患者さんから検出される黄色ブドウ球菌の50~70%をMRSAが占めているとされてきました。近年は市中感染でのMRSA感染症が増える一方、院内感染対策の強化により、菌の出現頻度における院内感染の割合には減少傾向がみられます。院内でMRSAに感染した場合、手術後の感染症、血管内留置カテーテルによる菌血症、感染性心内膜炎、骨髄炎、髄膜炎などの原因となります。
なお、MRSA感染症は「メチシリンなどのペニシリン剤をはじめとして、β-ラクタム剤、アミノ配糖体剤、マクロライド剤などの多くの薬剤に対し多剤耐性を示す黄色ブドウ球菌による感染症である」と定義されています。
原因
メチシリン耐性を示す黄色ブドウ球菌に感染することで起こります。
感染経路は、一般的な黄色ブドウ球菌と同様、接触感染や飛沫感染で、高齢者や外科手術後などで抵抗力や体力が低下している人では、自身がもつ菌による内因性感染が主体となります。 また院内感染として、手術や医療処置、医療従事者の手指、医療用具、血管内留置カテーテルなどにより、感染する場合もあります。
症状
MRSAを含む黄色ブドウ球菌による感染では、皮膚の傷などに伴う化膿、膿痂疹(のうかしん)、毛包炎、おでき、蜂窩織炎(ほうかしきえん)や、けがの傷、やけど、手術後の傷痕の二次感染などをひき起こします。さらに重症化すると、発熱や低体温、頻脈、低血圧などの全身症状を伴うこともあります。
医療関連施設では、血管内留置カテーテルなどの医療器具を介して血流内に侵入し、肺炎や敗血症、感染性心内膜炎、骨髄炎、腹膜炎、髄膜炎などをひき起こすことがあります。
検査・診断
診断は、感染巣から採取された検体の培養検査においてMRSAを検出することで行います。
感染症を起こしているからだの部位の鼻腔粘液や血液、尿、腹水などを採取し、オキサシリンやセフォキシチンがある環境でも菌が増殖できる場合にはMRSAであると考えられます。
また、PCR検査で、MRSAがもつペニシリン結合たんぱくのmecA遺伝子が検出された場合には、MRSAであると診断されます。
治療
抗MRSA薬と呼ばれる抗菌薬の薬物療法を行います。日本で認可されている抗MRSA薬は、グリコペプチド系薬(バンコマイシン、テイコプラニン)、アミノ配糖体系薬(アルベカシン)、オキサゾリジノン系薬(リネゾリド)、環状リポペプチド系薬(ダプトマイシン)の5つの薬です。MRSAは多くの種類の抗菌薬が効かないため、感染症の重症度によっては治療に何週間も要することがあります。
セルフケア
予防
健康な人に感染する心配はありませんが、接触感染を防ぐため、病院に入院している患者さんを見舞うときなどには、手洗いや手指の消毒を励行しましょう。また、免疫機能異常、慢性肺疾患、糖尿病など基礎疾患のある人は、重度の感染症をひき起こす恐れがあるので、まずは基礎疾患の治療を行うことも感染予防のために大切です。
監修
鳥居内科クリニック 院長
鳥居明
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