多系統萎縮症
たけいとういしゅくしょう

最終編集日:2025/3/12

概要

運動障害(パーキンソン症候や小脳症状:後述)と自律神経障害を現す病気です。多系統萎縮症のなかで、パーキンソン症候をおもな症状とするものを「線条体黒質変性症」、小脳症状が主として現れるものを「オリーブ橋小脳萎縮症」、自律神経障害がおもなものを「シャイ・ドレーガー症候群」と分類しています。いずれも厚生労働省の指定難病になっています。

多系統萎縮症は成人発症で50歳代に好発し、患者数は約1万1000人(2019年)。オリーブ橋小脳萎縮症が約70~80%で最も多く、次いで線条体黒質変性症(約30%)、シャイ・ドレーガー症候群は約15%と推定されています。

これら3つの病気の解明が進むにつれて、その原因や病態、症状に共通点が多いことが判明し、まとめて「多系統萎縮症」と呼ぶようになりました。


原因

小脳、大脳基底核、脳幹、脊髄の神経細胞に変性・脱落(死んで脱落する)が起こることから、さまざまな症状が現れます。脳細胞にαシヌクレインというたんぱく質が過剰に蓄積する「封入体」が認められますが、なぜ変性や脱落が起こるかはまだ解明されていません。関連する遺伝子の研究も進められています。

症状

運動障害(パーキンソン症候、小脳症状)や自律神経障害が起こります。前述したようにおもな症状によって3つの病型に分けられますが、病状が進むにつれて、そのほかの症状も現れるようになります。


●パーキンソン症候……筋肉のこわばり、緩慢な動作、無動、歩行障害(スムーズに立ち上がれない、歩きが不安定になる、転びやすい)、姿勢を保てない、表情が乏しい、話しにくい、手指のふるえ、などが現れます。


●小脳症状……歩行中のふらつき、からだのバランスが保てない、手の細かい作業ができない(ボタンをかける・外す、箸を使う、字を書く、ズボンの着脱など)、ろれつが回らない、断綴性言語(話す音量や速度、明確さが急に変化する)、眼振(意思と関係なく眼球が小刻みに揺れる)などがみられます。


●自律神経障害……立ちくらみ(起立性低血圧)、排尿障害尿失禁頻尿・残尿、排尿困難)、勃起不全、下痢便秘、汗が出にくい、いびき睡眠時無呼吸、睡眠時の異常行動などがみられます。

初期から多系統萎縮症に気づくのはむずかしいことですが、歩行や日常の動作に何らかの異常がみられたら、神経内科を受診しましょう。


検査・診断

症状の精査のほかに、頭部CTMRI、脳血流検査、血液検査、遺伝子検査、各症状の重症度をみる自律神経検査(膀胱エコー、起立性低血圧をみるシェロング試験、睡眠状態をみる終夜睡眠ポリソムノグラフィなど)、認知機能検査、心筋シンチグラフィなどが行われます。

パーキンソン病レビー小体型認知症などとの鑑別が必要です。


治療

多系統萎縮症の治療法はまだ確立されていません。症状を軽減する対症療法とリハビリテーションが行われます。


●薬物療法

パーキンソン症候には抗パーキンソン病薬が用いられます。初期には効果がみられますが、徐々に改善されにくくなります。起立性低血圧には末梢血管を収縮させて血圧を上昇する薬が、排尿障害には抗コリン薬や尿道内圧を下げて排尿障害を改善する薬などが使用されます。


●理学療法、リハビリテーション、生活指導

小脳症状に対する歩行や手指のリハビリテーション、起立性低血圧改善の弾性ストッキングの使用、睡眠時無呼吸の改善に睡眠時に装着するCPAP(シーパップ)というマスクの使用など、症状に合わせた治療法が取り入れられます。


セルフケア

療養中

多系統萎縮症ではさまざまな症状が現れ、進行していきます。生活に支障をきたし、徐々に嚥下障害、呼吸困難、失神、転倒、睡眠障害など、慎重なケアが必要な状態になります。

残った機能をできるだけ維持できるように、前向きにリハビリテーションに取り組めるような環境づくりが大切です。


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監修

昭和大学 医学部脳神経外科 名誉教授

藤本 司