尿失禁
にょうしっきん

最終編集日:2023/3/29

概要

自分の意思に反して尿がもれてしまう状態を尿失禁(尿もれ)と呼びます。「尿失禁診療ガイドライン」(2004年)では、正確な疫学調査結果ではないと断ったうえで、推定患者数は1993年時点で約400万人としています。その後、高齢社会が進んでいるため、患者数はさらに増加していると思われます。尿失禁には大きく分けて5種類あり、病態にあわせた治療やセルフケアがすすめられます。

原因

●腹圧性尿失禁

女性の尿もれでもっとも多いタイプで、週1回以上経験している女性は500万人以上といわれています。

腹圧性尿失禁は、骨盤底の筋肉が緩むことでひき起こされます。骨盤底には筋肉、靱帯、筋膜などからなる「骨盤底筋群」があって、骨盤内の臓器(膀胱、尿道、直腸、子宮など)を下から支える役割をしています。骨盤底筋群の働きが低下すると、尿道が不安定になる、尿道を締める筋肉の力が弱くなるなどが起こり、尿がもれてしまいます。

骨盤底筋の緩みは、妊娠・出産、加齢、肥満などが誘因となります。また、排便時の強いいきみやぜんそくなども骨盤底筋を傷める原因になるといわれています。

男性では、前立腺肥大症や前立腺がんなどでの前立腺の手術後に現れます。


●切迫性尿失禁

女性では腹圧性尿失禁の次に多いタイプです。多くは膀胱が過敏になって起こる「過活動膀胱」に伴います。

脳卒中や脳・脊髄神経の損傷など、蓄尿や排尿にかかわる神経が障害されて起こる神経因性のものや、男性の前立腺肥大症、女性の子宮脱をはじめとした骨盤臓器脱など、原因となる病気があって切迫性尿失禁が起こるものもありますが、原因が特定できないものがほとんどです。加齢や骨盤底筋の緩みなどが関係していると考えられています。


●溢流性尿失禁

尿を出し切る機能に異常が起こり、膀胱に尿が残った状態(残尿)になって尿があふれてもれてしまいます。

代表的な疾患として前立腺肥大症があり、このタイプの尿失禁は男性に多くみられます。そのほか、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア、糖尿病、子宮や直腸の手術後などで、排尿にかかわる神経障害が原因のものもあります。


●機能性尿失禁

膀胱や尿道、蓄尿や排尿にかかわる神経などには異常がみられず「トイレまで行く」「下着を下ろす」などの運動機能に障害があって尿をもらしてしまうタイプを指します。例えば、脳卒中の後遺症でからだに麻痺があってトイレまでの移動がむずかしく途中でもらす、手足に運動機能障害があって下着を下ろすのが間にあわない、認知症などでトイレの場所がわからなくなり途中でもらす、などの場合です。

高齢者では、ほかのタイプの尿失禁が混在しているケースも多くみられます。




症状

●腹圧性尿失禁

せきやくしゃみ、スポーツ、重い物を持ち上げるなどで、腹筋に力が入ったときに尿がもれてしまいます。重症のものでは、階段を下りる、座っていて立ち上がるといった、何でもない動作でも尿もれが起こり、QOL(生活の質)が大きく低下してしまいます。


●切迫性尿失禁

尿意を感じたらトイレまで我慢することができず、途中で尿がもれてしまいます。

尿意は突然で、まだ膀胱に十分尿がたまっていない状態で起こります。尿意が起こるのは、トイレのドアに手をかけたとき、便座に座ろうと下着を下ろしたとき、帰宅して玄関のドアを開けたときなど、あと少しで排尿できるというタイミングが多いようです。また、手洗いや家事などで水に触れたときなどにも起こりやすいとされています。


●混合性尿失禁

腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁のどちらの症状もみられるものを混合性尿失禁と呼びます。国際的な調査では、腹圧性尿失禁のある女性の約3人に1人が混合性尿失禁でした。

腹圧性と切迫性のどちらの症状が強いかを見極めて、治療法が選択されます。


●溢流性尿失禁

自分で尿を出したいのに出せない、しかし尿が常に少しずつもれている状態を指します。おなかに力を入れないと尿が出ない、排尿の際、尿に勢いがないなど、尿が出にくくなる排尿障害が必ず前提にあります。



検査・診断

診断には問診が重要です。尿もれの状態を知るために「自己記入式問診票」を用います。あわせて、どのタイプの尿失禁かを診断するために、ストレステスト(尿をためた状態で腹圧をかける動作を行う)、60分パッドテスト(パッドをあてて決められた動作を行い、もれた尿量を測る)、24時間パッドテスト(1日の尿もれの量を測る)、尿流動態検査(膀胱内に生理食塩水を入れて、尿の流れ方や膀胱内の圧などをくわしくみる。混合性尿失禁の場合の治療法決定に有用)、Qチップテスト(腹圧がかかったときの膀胱の動きをみる)などが行われます。


前立腺肥大症や脳・神経などの病気が疑われる場合は、それぞれの存在を調べる検査を行います。

治療

腹圧性や切迫性、混合性の尿失禁では、排尿日誌をつけることで飲水や排尿などの状態を知り、行動療法を行うことで改善されるケースも多くみられます。行動療法としては、骨盤底筋訓練、膀胱訓練(尿意があっても少し我慢する)などがすすめられます。切迫性尿失禁の場合は、膀胱の筋肉を緩めて広げるβ3受容体作動薬や、膀胱が過剰に収縮するのを改善する抗コリン薬による薬物療法が有効です。


重症の腹圧性尿失禁の場合には、低下した骨盤底筋の支える力を補強する目的の手術(尿道下スリング手術)や、コラーゲン注入法(尿道や尿道周囲の圧迫を強化する)などが考慮されます。


前立腺肥大症や脳・神経の病気が原因の場合は、原因疾患の治療を行います。


溢流性尿失禁で尿道狭窄(きょうさく)や閉塞が起きている場合は、それを取り除く治療を行います。残尿が多い場合には、尿道カテーテルを用いて導尿を行います。


機能性尿失禁は、原因を改善することがむずかしい場合が多いため、ポータブルトイレ、パッド、ケアパンツなどを用いて、できるだけ清潔に保つことを心がけましょう。

セルフケア

療養中

尿失禁は医師に相談しにくい症状のひとつです。しかし、背後に病気が隠れていることもあります。また外出できなくなる、においなどが気になって人に会えなくなるなど、QOL(生活の質)が著しく低下してしまいます。尿失禁が頻回になったら、かかりつけ医に相談し、まず自分の尿失禁のタイプを診断してもらいましょう。行動療法だけでも症状が改善されるケースは多くみられます。適切な診断・治療を受けることで憂うつから解放されるでしょう。


監修

しみず巴クリニック 腎臓内科

吉田顕子

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