ジストニアじすとにあ
最終編集日:2025/3/3
概要
ジストニアとは、筋肉や骨に異常がないにもかかわらず、自分の意思に関係なく(不随意性)、筋肉がこわばって動かなくなったり、意図しない動きをしたり、姿勢が傾いたりねじれたりする病気です。異常な動きはくり返し起こります(反復性)。
ある特定の動きをしようとすると、からだの一部分に症状が出る「局所性ジストニア」と、下肢や体幹などに症状が現れて全身が硬直する「全身性ジストニア」に分けられます。局所性ジストニアは音楽家や美容師、書記、アスリートなど、職業的に特定の筋肉をよく使う人に多くみられ、この場合は「職業性ジストニア」とも呼ばれます。全身性ジストニアは小児期の発症が多くみられます。
ジストニアの推定患者数は約2万人とされています。
また、非常にまれな病気として、「遺伝性ジストニア」があり、遺伝性ジストニアは厚生労働省の指定難病になっています。
原因
大脳基底核という脳の中枢の、運動機能に関連する神経回路の異常によって起こります。しかしその原因はわかっていません。
なかにはほかの病気(瀬川病、ウィルソン病、脳血管障害など)が原因の場合や、薬剤(抗精神病薬)によるものもあります。
症状
ジストニアの症状は、次のような特徴があります。
①特定の動作を行うときに現れる、あるいは悪化する、②現れる症状は常に同じである、③何度もくり返される、④症状を軽減させる動作がある(感覚トリック:症状が現れている筋肉を手で触れるなどの感覚刺激で症状が軽減する)。
患者によって、現れる症状はさまざまです。
●局所性ジストニア
首が曲がる(痙性斜頸)、字が書きにくい(書痙)、目を開けにくい(眼瞼痙攣)、声を出しにくい(痙攣性発声障害)、食いしばりで口が開けられない・閉じられない・舌が出てしまう・舌を動かせない(顎口腔ジストニア)など。
職業性ジストニアでは、楽器演奏のときに指や手首が曲がる・こわばる、はさみなどの道具をきちんと持てない、スムーズに手指を動かせないなど、職業的によく行う動作に支障が現れます。
●全身性ジストニア
首が傾く・反り返る(頸部ジストニア)、階段を下りるときに下肢が内側にねじれる、からだが反り返る・ねじれるなど。
まれに全身の筋肉の緊張が亢進して発熱、発汗、呼吸困難などをひきおこす「ジストニア重積状態」に陥ることがあります。
検査・診断
問診、異常な動き・姿勢の観察、異常が現れる部位の触診からおおよその診断がつけられます。受診時に異常運動がみられない場合には、症状が現れたときに映像に記録するなどを行うこともあります。通常、頭部X線検査、CT、MRIなどの画像検査では、大脳基底核の異常を捉えることができません。
原因疾患や他疾患の有無をみるために、血液検査、尿検査、髄液検査など、必要に応じて行われます。
ジストニアの特徴である、「感覚トリック」の有無も調べられます。
心因性のジストニアや痙攣を現す他疾患、本態性振戦などとの鑑別が重要です。
治療
ジストニアを根本的に治す治療法はまだ確立されていません。
筋肉のこわばりを改善する抗パーキンソン病薬や抗コリン薬、抗痙攣薬、抗痙縮薬などを用います。痙性斜頸や眼瞼痙攣が強い場合は、ボツリヌス治療(ボツリヌス菌がつくりだすボツリヌストキシンという天然のたんぱく質を筋肉に注射して緊張を和らげる)を行います。
局所性ジストニアで、限られた部位に症状が出る場合には、末梢神経ブロックで改善を試みます。過剰に緊張している筋肉に局所麻酔薬を注射して神経を遮断し、緊張を和らげます。
全身性ジストニアで、抗パーキンソン病薬の効果がみられない場合や頻回にジストニア重積状態をひきおこす場合には、手術が考慮されます。また、局所性ジストニアでも手術が有効な場合があり、とくに職業性ジストニアの患者では手術を選択するケースも少なくありません。手術には以下のようなものがあります。
●脳深部刺激療法……ジストニアの原因となっている脳の深部に電極を挿入し、電流を持続的に流して刺激を加え、神経回路を調整する治療法です。
●高周波凝固術……脳の深部に電極を挿入し、高周波による熱で細胞を凝固させて神経回路の調整を行います。
●バクロフェン髄腔内投与療法(ITB)……腹部にバクロフェン(痙縮を和らげる作用をもつ)という薬剤を入れたポンプを植え込み、カテーテルを通して脊髄腔内に継続的に薬を投与する方法です。
なお、ほかの病気や服薬中の薬剤が原因の場合には、原因疾患の治療や薬剤の中止を行います。
セルフケア
予防
近年話題に上ることが多くなった「イップス」という状態も、ジストニアとの関連が考えられています。イップスとは、例えば野球のピッチングやゴルフのスイングなど、スムーズにできていたものが突然できなくなる(途中で止まる、筋肉がびくついてうまくできないなど)状態を指します。
ジストニアの予防法はわかっていませんが、くり返す動作や過剰なストレスなどが誘因ではないかとされています。適度な休養・睡眠をとること、ストレスをためないことが大切です。また、感覚トリックがわかっている場合は、症状が現れたときに上手に感覚トリックを用いることで、症状の軽減が図れます。
初期には筋肉の疲れやこりなどとの見分けがつきにくいものですが、特定の動作のときだけ現れる、何度も同じ症状がみられる、数週間たっても改善されないなどがあったら、神経内科や脳神経外科を受診しましょう。
監修
昭和大学 医学部脳神経外科 名誉教授
藤本 司