筋萎縮性側索硬化症(ALS)きんいしゅくせいそくさくこうかしょう
最終編集日:2022/4/6
概要
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、全身の筋肉が萎縮していき、徐々に痩せて力が入らなくなる進行性の疾患です。原因は筋肉そのものではなく、筋肉を動かしている脳や脊髄の神経である運動ニューロンに異常が起きることで発症します。脳からの伝達が筋肉に伝わらなくなることで、進行すると、手足だけでなく、のどや舌の筋肉、呼吸筋など生命維持に必要な筋肉までが萎縮していきます。
国内の患者数は約1万人とされ、国の指定難病に認定されています。発症は男性がやや多く、とくに60~70歳代で増加します。現在は根本的な治療法はなく、発症から死亡までの期間は約2~5年とされてきましたが、近年は医療の進化により、長期療養も可能になってきています。
原因
原因は今のところはっきりとわかっていません。中年以降に多くみられることから、加齢による神経の老化が関係していると考えられています。ほとんどのケースで遺伝との関係性は認められませんが、全体の約5%に家族内での遺伝性の発症がみられます。遺伝により発症するものは家族性筋萎縮性側索硬化症と呼ばれ、両親のどちらか、または兄弟姉妹、祖父母などに筋萎縮性側索硬化症の人がいることが多いです。家族性筋萎縮性側索硬化症の患者さんの約20%に、酵素の一種であるスーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD1)の遺伝子異常がかかわっているとされ、そのほかの原因遺伝子も徐々に明らかになってきています。
症状
筋萎縮性側索硬化症は進行性の疾患であるため、症状は改善されることなく、徐々に重くなっていきます。初期には手足の筋力低下がみられ、ペットボトルのふたを開けたり手を挙げたりすることや、歩いたり立ったり座ったりもできなくなります。
口腔やのどの筋力低下から、よだれが出る、うまく話せない(構音障害)、うまく飲食できない(嚥下障害)といった症状もみられます。そのうち全身の筋肉が痩せて力が入らなくなり、いずれは呼吸不全となって人工呼吸器が必要になります。
約20%の患者さんが認知症を発症するとの報告もあります。しかし一方で、進行しても感覚神経や自律神経には支障がなく、視力や聴力、内臓機能、排尿機能などにも異常はみられません
検査・診断
筋萎縮性側索硬化症は、運動ニューロンの障害の有無や症状の進行性などを確認し、ほかの疾患と区別し除外することによって診断されます。検査は、X線検査やMRI検査、CT検査などの画像診断、筋電図検査や髄液検査、運動ニューロン障害の有無を判断するための神経伝導検査・針筋電図などの電気生理学的検査を行います。
さらに、臨床検査の所見や、脳腫瘍や脊椎症、末梢神経障害など、ほかの神経変性疾患を除外したうえで総合的に判断します。嚥下造影検査や呼吸機能検査などで各機能障害の状態を確認したり、認知症が疑われる場合には神経心理検査などを行うこともあります。
筋萎縮性側索硬化症の初期における診断はむずかしく、経過観察をしながら判断する場合もあります。
治療
治療薬としては、リルゾールという内服薬と、エダラボンという点滴薬が認可されていて、進行を抑えることを目的に用いられています。しかし、筋萎縮性側索硬化症の進行を止めたり、改善したりする治療法はまだありません。そのため、それぞれの症状にあわせた対症療法が治療の主軸となります。また、残存する機能の維持や、よりよい日常生活を送るためにリハビリテーションが重視されています。嚥下障害が進行した場合は鼻から管を入れて流動食を補給する経鼻胃管の導入を、呼吸不全が進んだ場合は人工呼吸器の導入を検討します。
セルフケア
療養中
筋萎縮性側索硬化症は、動かせる機能が徐々に減っていくため、症状の進行に伴ってコミュニケーションがとれなくなっていきます。これに対する備えが必要です。近年では、パソコンやタブレットをはじめ、目の動きなどの残存機能を使ったコミュニケーション支援のためのさまざまなツールや装置があり、新しい技術も開発されています。例えば、気管切開をして人工呼吸器を装着した場合でも、健康時や発症時にあらかじめ録音した本人の声を合成し、コンピューターに入力した文章を読み上げるソフトも登場しています。こうしたツールや装置の利用には公的な支援制度があるので、医療スタッフや市区町村の福祉課などに問い合わせてみましょう。
監修
昭和大学医学部 脳神経外科 名誉教授
藤本司
みんなの
歩数ゲームやデイリーアドバイス、無料健康相談※が利用可能
※ご所属先が本サービスを契約いただいている場合のみご利用いただけます。