筋萎縮性側索硬化症(ALS)きんいしゅくせいそくさくこうかしょう
最終編集日:2025/12/26
概要
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、全身の筋肉が萎縮していき、徐々に痩せて力が入らなくなる進行性の疾患です。原因は筋肉そのものではなく、筋肉を動かしている脳や脊髄の神経である運動ニューロンに異常が起きることで発症します。脳からの伝達が筋肉に伝わらなくなることで、進行すると手足だけでなく、のどや舌の筋肉、呼吸筋など生命維持に必要な筋肉までが萎縮していきます。
国内の患者数は約1万人とされ、国の指定難病に認定されています。発症は男性がやや多く、とくに60~70歳代で増加します。現在は根本的な治療法はなく、発症から死亡までの期間は約2~5年とされてきましたが、近年は医療の進化により、長期療養も可能になってきています。
原因
原因は今のところはっきりとはわかっていません。中年以降に多くみられることから、加齢による神経の老化も関係していると考えられています。ほとんどのケースで遺伝との関係性は認められませんが、全体の約5%に家族内での遺伝性の発症がみられます。遺伝により発症するものは家族性筋萎縮性側索硬化症と呼ばれ、両親のどちらか、または兄弟姉妹、祖父母などに筋萎縮性側索硬化症の人がいることが多いです。家族性筋萎縮性側索硬化症の患者さんの約20%に、酵素の一種であるスーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD1)の遺伝子異常がかかわっているとされ、そのほかの原因遺伝子(FUSなど)も徐々に明らかになってきています。
喫煙、重金属や殺虫剤の暴露などの環境因子に加え、神経の老化や酸化ストレス、異常なたんぱく質の蓄積など、複数の要因が複雑に関与して発症する可能性も考えられています。
症状
初期には手足の筋力低下などが見られ、進行性の疾患であるため、症状は改善されることなく、徐々に重くなっていきます。口腔やのどの筋力低下により、よだれが出る、うまく話せない(構音障害)、うまく飲食できない(嚥下障害)といった症状もみられます。そのうち全身の筋肉が痩せて力が入らなくなり、いずれは呼吸不全となって人工呼吸器が必要になります。
約20%の患者さんが認知症を発症(記憶障害よりも、失語症を中心とした言語の障害と行動異常を主体とする)するとの報告もあります。しかし一方で、進行しても感覚神経や自律神経には支障がなく、視力や聴力、内臓機能、排尿機能などにも異常はみられません。
検査・診断
筋萎縮性側索硬化症は、運動ニューロンの障害の有無や症状の進行性などを確認し、ほかの疾患と区別し除外することによって診断されます。検査は、X線検査やMRI検査、CT検査などの画像診断、筋電図検査や髄液検査、運動ニューロン障害の有無を判断するための神経伝導検査・針筋電図などの電気生理学的検査を行います。
さらに、臨床検査の所見や、脳腫瘍や脊椎症、末梢神経障害など、ほかの神経変性疾患を除外したうえで総合的に判断します。嚥下造影検査や呼吸機能検査などで各機能障害の状態を確認したり、認知症が疑われる場合には神経心理検査などを行うこともあります。
筋萎縮性側索硬化症の初期における診断はむずかしく、経過観察をしながら判断する場合もあります。
治療
治療薬としては、神経保護作用があるリルゾールという内服薬と、エダラボンという点滴薬、高用量のメコバラミン筋注、さらに核酸医薬のトフェルセン髄注があります。トフェルセンは2024年に承認された、SOD1遺伝子変異を有する患者さん (SOD1-ALS)のみに用いられる核酸医薬で、ALSの進行を抑える作用が期待されます。しかし、治療薬のほとんどは、筋萎縮性側索硬化症の進行を止めたり、改善したりする治療法にはなっていません。そのため、それぞれの症状にあわせた対症療法が治療の主軸となります。また、残存する機能の維持や、よりよい日常生活を送るためにリハビリテーションが重視されています。
リハビリテーションでは症状に応じて理学療法、作業療法、言語療法などの訓練・支援が行われます。さらに、身体に装着するロボットスーツによる治療も実施される可能性が出てきています。
嚥下障害が進行した場合は鼻から管を入れて流動食を補給する経鼻胃管の導入、さらには胃ろう造設も検討します。呼吸の障害には、鼻と口を覆うマスクにより呼吸を補助する非侵襲的人工換気(NIV)療法があり、呼吸不全が進んだ場合は人工呼吸器の導入を検討します。
セルフケア
療養中
筋萎縮性側索硬化症は、動かせる機能が徐々に減っていき、症状の進行に伴ってコミュニケーションがとれなくなってくるため、事前の備えが必要です。近年では、パソコンやタブレットをはじめ、目の動きなどの残存機能を使ったコミュニケーション支援のためのさまざまなツールや装置があり、新しい技術も開発されています。例えば、気管切開をして人工呼吸器を装着した場合でも、健常時や発症時にあらかじめ録音した本人の声を合成し、コンピューターに入力した文章を読み上げるソフトも登場しています。こうしたツールや装置の利用には公的な支援制度があるので、医療スタッフや市区町村の福祉担当課などに問い合わせてみましょう。
監修
昭和医科大学医学部 脳神経外科 名誉教授
藤本司