多発性硬化症
たはつせいこうかしょう

最終編集日:2022/4/6

概要

多発性硬化症(MS)は視力や感覚の障害、運動麻痺など、さまざまな神経系症状の再発と寛解をくり返す疾患です。脳の情報は神経細胞を介して体全体へと伝えられていますが、その際、情報を伝えるための電線のような働きをする軸索という箇所があり、ミエリン(髄鞘)というカバーのようなもので覆われています。

多発性硬化症は、このミエリンが何らかの原因で障害され「脱髄」と呼ばれる状態になり、軸索の一部がむき出しになることにより発症します。脱髄により情報がスムーズに伝わらなくなるため、視力障害、運動失調、排尿障害のほか、手足のしびれ、感覚鈍麻、神経痛などの感覚症状もみられるようになります。

10〜50代に発症し、平均発症年齢は30歳前後で、女性に多く発症する傾向があります。一方、よく似た病気として鑑別が必要な視神経脊髄炎は、多発性硬化症よりも高齢で発症する割合が多いとされています。

多発性硬化症は国の難病に指定されているので、医療費の補助を受けることができます。


原因

多発性硬化症の原因は、今のところ正確にはわかっていません。ミエリンが障害され、脱髄の状態となる原因として、リンパ球などの自己免疫異常の可能性が指摘されています。本来、自己免疫はウイルスや細菌などの外敵と戦って自分のからだを守るために働いています。しかし、自己を守るはずの免疫システムに異常をきたし、誤ってミエリンを攻撃することで、軸索がむき出しの状態になる脱髄がひきおこされるのではないかと考えられています。

疫学調査により、発症にかかわる要因として一部のウイルスへの感染や喫煙との関連についての報告があります。また、多発性硬化症は遺伝性の病気ではないと考えられているものの、特定の遺伝的要因との関連性についての研究も進められています。


症状

多発性硬化症の症状はさまざまで、ミエリンの脱髄は大脳、小脳、視神経、脳幹、脊髄など、中枢神経の組織であればどこにでも起こる可能性があり、その症状は多岐にわたります。

例えば、視神経の場合は視力の低下や視野の欠損、大脳では手足の感覚や運動の障害、小脳なら動作時のふるえ、脊髄では手足のしびれや運動麻痺などがみられます。


検査・診断

まずは問診と診察により、視力障害や感覚障害、運動麻痺などさまざまな神経症状についての確認と、病歴のくわしい聞き取りをします。次に、神経学的検査を行い、意識・精神状態や運動機能、感覚機能、歩行能力などを調べ、中枢神経や末梢神経などのすべての神経の動きを確認します。さらにMRIによる画像検査を行い、特徴的な脱髄の病変があるかを調べます。

多発性硬化症を診断するうえで、MRI検査の重要性は非常に高く、脱髄の病変がどこにどのようにあるかを確認するために欠かせません。さらに、脳や脊髄の領域に脱髄があれば、髄液にも異常が生じるため髄液検査を行い、必要に応じて誘発電位検査などもあわせて実施します。


治療

多発性硬化症の治療は近年進歩が著しく、治療薬の選択肢が広がるとともに、日常生活を改善する療法が確立されつつあります。症状が出てすぐの急性期は、症状を改善するために副腎皮質ステロイド薬で免疫を抑制する治療を行い、リハビリテーションなどを併用します。

症状が落ち着いても、多発性硬化症は再発をくり返すことが特徴のため、再発の予防や疾患による身体障害の進行を抑制する目的で、MS疾患修飾薬(DMD)と呼ばれる薬を用います。最近は再発予防のために多くの薬が開発されており、症状の進行具合や、女性の場合は将来的な妊娠の希望などを考慮して薬が選択されます。


セルフケア

予防

難病に指定されているものの、近年は再発予防の薬の進歩が目覚ましく、早期に治療を開始することで、社会生活への影響も少なくすることが可能です。神経系の症状がみられたら、早めに神経内科などの専門医を受診し、適切な治療の機会を逃さないようにしましょう。

監修

昭和大学医学部 脳神経外科 名誉教授

藤本司

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