肛門がんこうもんがん
最終編集日:2025/12/19
概要
肛門がんは、肛門に発生する比較的まれながんです。肛門管の内部から発生する管内型と肛門管の外側から発生する管外型に分けられます。日本では直腸がんが肛門管に広がった腺がんが多く、直腸がんに準じた治療が行われます。一方、欧米では肛門管由来の扁平(へんぺい)上皮がんが多く、手術療法や化学療法、放射線療法などを組み合わせた集学的治療が標準となります。
発症は50歳以上に多く、男女差はありません。
原因
肛門がんの原因はまだ明確にされていませんが、扁平上皮がんなど一部のがんでは、ヒトパピローマウイルス(HPV)と呼ばれるウイルスへの感染が重要なリスク因子とされています。HPVは子宮頸がんの原因ウイルスとして知られていますが、肛門性交などが感染の要因になるといわれています。
また、長期に続く痔瘻(じろう)との関連も古くから指摘されており、尖圭コンジローマががん化してしまう例もあります。また喫煙は多くのがんの発症のリスクですが、肛門がんに関しても例外ではありません。
症状
肛門がんを発症しても約2割の人は無症状のまま経過します。症状がある場合には、肛門周辺にしこりができます。しこりは出血しやすく、排便時に出血したり痛みを感じることがあります。そのほか、肛門周囲にかゆみを感じる、排便がしづらくなる、便が細くなるなどの症状が出る場合もあります。また、慢性的な痔瘻に伴う場合には、肛門から膿(うみ)や悪臭を伴う粘液が出てくることがあります。
検査・診断
まず肛門周囲の異常の有無を視診や触診で確認します。よりくわしく観察するために、直腸鏡や肛門鏡と呼ばれる器具を用いることもあります。肛門がんにはいくつものタイプがあり、どのタイプのがんなのかを正確に診断するため、病変の一部を採取して顕微鏡で調べる病理検査を行います。また超音波検査やCT検査、MRI検査などを必要に応じて行い、がんの進行度や転移を評価し、治療方針を決定します。
治療
肛門がんの治療は、がんの種類(組織型)や広がりなどによって異なります。
扁平上皮がんでは、通常は放射線療法+化学療法を同時に行う化学放射線療法が標準治療となります。
なお早期の場合には局所切除や放射線療法が選択され、進行例においては外科切除が選択されます。
人工肛門(ストーマ)を要することもありますが、現在は多くの症例で肛門を温存できるようになりました。
一方、腺がんの場合は、直腸がんに準じた治療が行われ、外科的切除が治療の中心となります。がんの進行度に応じて、手術前後に化学療法や放射線療法が併用されることもあります。進行例では、がんを完全に切除するために人工肛門造設が必要となる場合があります。
セルフケア
予防
慢性的な痔瘻がある人は、がんのリスクとなるため、放置せずになるべく早く治療することが大切です。排便時の出血や肛門周辺のかゆみなど、何らかの症状を自覚していても痔か湿疹だろうと思いこみ、発見が遅れるケースも少なくありません。自己判断せず、専門医を受診するのが大切です。
監修
わだ内科・胃と腸クリニック
和田蔵人