大腸がんだいちょうがん
最終編集日:2024/3/29
概要
大腸の粘膜上皮に発生するがんで、結腸がん(胃に近いほうから、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸にできる)と、直腸がん(肛門のすぐ上の直腸にできる)に分けられます。
大腸は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層、漿膜という複数の層からなっています。がんの深さ(深達度)が粘膜下層までにとどまるものを「早期がん」、固有筋層より深く達するものを「進行がん」としています。
また、発生のしくみから、良性腫瘍である大腸腺腫や過形成ポリープががん化して大腸がんになるもの、正常な粘膜から直接がんを発症するもの、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)からがんを発症するもの、遺伝性、などのタイプがあります。
部位別の年間患者数は、男性は約8.8万人で第2位を占め、女性は約6.8万人で第2位を占めています(全国がん登録罹患データ2019年)。65歳以上で患者数が増加、男女比は1.4対1で、男性に多くみられます。
原因
がんの発症にかかわる因子として、家族歴、大腸の病気の罹患歴(大腸腺腫、炎症性腸疾患など)、過度な飲酒、喫煙、赤身肉や加工肉などの過剰摂取、肥満、加齢などが挙げられています。とくに男性では、肥満の関与が大きいと考えられています。
症状
早期にはあまり自覚症状がありません。進行すると便の表面に血がつく、便に血が混じる(血便)などの症状がみられます。進行がんになると、病巣からの出血がつづくために、めまい、立ちくらみ、息切れなどの「貧血様症状」や下血が現れます。また、がんが大きくなって大腸の内腔を狭くすると、便秘・下痢をくり返す、便が細くなる、腹部が張るなどが起こります。さらに進行して腸閉塞を起こすと、激しい腹部痛、嘔吐、冷や汗などの強い症状が現れ、緊急搬送される場合もあります。
一般的に、腹の右側の上行結腸では便がそれほど固形化されていないため、上行結腸にできたがんでは狭窄や閉塞が起こりにくく、症状がさらに現れにくいとされています。
検査・診断
確定診断には大腸内視鏡検査と病理生検検査が有用です。そのほか、注腸X線検査、超音波(エコー)内視鏡検査、CT、MRI、PET、PET-CT検査などを必要に応じて組みあわせ、がんの性質(悪性度)、形、深達度、リンパ節や周辺臓器への転移の有無などを精査します。大腸がんの腫瘍マーカーとして、血液によるCEAやCA19-9があります。早期では感受性が低く、あまり用いられません。進行がんの再発や、治療効果の評価として用いられることが多いようです。
また、薬物療法の効果をあらかじめ予測するために、遺伝子検査を行います。RAS遺伝子検査、BRAF遺伝子検査、MSI(マイクロサテライト不安定性)検査、HER2検査などがあり、血液検査で調べられます。これらの遺伝子の状況によって、治療法が選択されます。鑑別が必要な病気として、炎症性腸疾患、直腸粘膜脱症候群、下血がみられる痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)などの肛門疾患があります。
治療
治療には、がんの切除(内視鏡治療、手術)、薬物療法、放射線療法があります。
●内視鏡治療(内視鏡による切除)
リンパ節転移がなく、がんの深達度が粘膜まで、あるいは粘膜下層に達していても深さが1㎜未満のものが対象になります。がんの周囲の正常細胞も含めて粘膜を切除する「EMR(内視鏡的粘膜切除術)」と、粘膜下層に生理食塩水などを注入して浮き上がらせ、剥離する「ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)」があり、がんの大きさ、形、広がり具合などによって選択されます。一般的に大きさが2cm以上になるとESDが行われます。
内視鏡治療で切除した組織の病理検査を行い、①1㎜以上に深達していた、②血管やリンパ管などに広がっていた(脈管侵襲陽性)、③がんの性質が悪性度の高いものだった、④がんの広がりの先端部が散らばったように発育していた、のうち1つでもあてはまれば、追加の外科的切除を行うこともあります。
●手術(外科的切除)
腹腔鏡下手術、手術支援ロボットを用いたロボット手術、開腹手術があります。がんの広がり具合や悪性度、リンパ節転移の有無などによって術式が選択されます。進行がんでも腹腔鏡下手術を行うケースが増えてきました。
直腸の手術では肛門を切除する必要があるため、術後、肛門機能障害、排尿障害、性機能障害が起こる可能性が高くなります。機能をできる限り残す「機能温存術」が考慮されますが、あくまでもがんをとりきることが治療の目的であるため、慎重に選択されます。肛門機能が障害される場合には「人工肛門(ストーマ)造設術」が行われます。
●薬物療法
がんが固有筋層より深く達し「ステージⅡ」以上に進行している場合は、手術後の再発抑制の目的で「術後補助化学療法」を行います。またリンパ節転移がある「ステージⅢ」の一部のケースや遠隔転移がある「ステージⅣ」で手術の適応にならない場合に行われます。複数の抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などを組みあわせて投与されます。
手術適応外で薬物療法を行った結果、がんが縮小する、転移巣が認められなくなるなどの場合には手術適応に方針を見直す「コンバージョン手術」が行われるようになってきました。
●放射線療法
おもに直腸がんの肛門温存や再発抑制を目的に行われます。また、手術適応外の進行がんの症状緩和でも用いられます。
セルフケア
予防
大腸がんは患者数が多いだけでなく、男性のがん死亡数の第2位、女性では第1位を占めています。大腸がんのリスク因子とされるアルコール、たばこ、赤身肉や加工肉などを控え、肥満を改善することが予防につながります。また、好発年齢である60代を迎えたら、大腸がん検診として、年に1度の便潜血反応検査と3~5年に1度の大腸内視鏡検査を受けることがすすめられます。便潜血反応検査は2回法で行い、1回でも陽性の場合には大腸内視鏡検査を受けることをおすすめします。
監修
鳥居内科クリニック 院長
鳥居明
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