大腸がん
だいちょうがん

最終編集日:2025/12/21

概要

大腸がんは大腸の粘膜上皮に発生するがんで、発生部位により結腸がん(胃に近いほうから、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)と、直腸がん(肛門のすぐ上の直腸)に分けられます。

大腸は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層、漿膜の順に層構造をなしており、がんの深さ(深達度)が粘膜下層までにとどまるものを「早期がん」、固有筋層より深く浸潤したものを「進行がん」としています。

発生機序としては、大腸腺腫などの良性腫瘍からがん化するもの、正常粘膜から直接発症するもの、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)を背景に発症するもの、遺伝性のものなどが知られています。

日本における年間罹患者数は、男性は約8.8万人、女性は約6.8万人で、男女ともに第2位を占めています(全国がん登録罹患データ2019年)。また65歳以上で増加し、男女比は1.4対1で、男性に多い傾向があります。

原因

がんの発症にかかわる因子として、家族歴、大腸の病気の罹患歴(大腸腺腫、炎症性腸疾患など)、過度の飲酒、喫煙、赤身肉や加工肉などの過剰摂取、肥満、加齢などが挙げられています。とくに男性では、肥満の関与が大きいと考えられています。

症状

早期にはあまり自覚症状がありません。進行すると便の表面に血がつく、便に血が混じる(血便)などの症状がみられます。進行がんになると、病変からの出血が続くために、めまい、立ちくらみ、息切れなどの「貧血様症状」や血便が現れます。また、がんが大きくなって大腸の内腔を狭くすると、便秘・下痢をくり返す、便が細くなる、腹部が張るなどが起こります。さらに進行して腸閉塞を起こすと、激しい腹痛、嘔吐、冷や汗などの強い症状が現れ、緊急搬送される場合もあります。

一般的に、腸の右側にある上行結腸では便がそれほど固形化されていないため、同部位にできたがんでは狭窄や閉塞が起こりにくく、症状がさらに現れにくいとされています。

大腸がん
大腸がん

検査・診断

確定診断には大腸内視鏡検査と病理組織検査が有用です。そのほか、必要に応じて、注腸X線検査、超音波内視鏡検査、CT、MRI、PETなどの画像検査を組みあわせ、がんの形態、深達度、リンパ節や遠隔転移の有無などを評価します。腫瘍マーカーとして、CEAやCA19-9がありますが、早期がんでは感度が低く、主に進行がんの再発評価や、治療効果の判定に用いられます。

また、薬物療法の選択や効果予測のためにRAS、BRAF、MSI(マイクロサテライト不安定性)、HER2などの遺伝子検査が行われます。これらは主に腫瘍組織を用いて検査され、近年では一部の症例で血液を用いた検査が補助的に行われることもあります。鑑別が必要な病気として、炎症性腸疾患、直腸粘膜脱症候群、下血がみられる痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)などの肛門疾患があります。

治療

治療には、がんの切除(内視鏡治療、手術)、薬物療法、放射線療法があります。


●内視鏡治療(内視鏡による切除)

リンパ節転移がなく、がんの深達度が粘膜内あるいは粘膜下層に達していても浸潤の深さが1,000μm未満のものが対象になります。切除法には「EMR(内視鏡的粘膜切除術)」と、「ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)」があり、病変の大きさや形態に応じて選択されます。内視鏡治療で切除した組織の病理検査を行い、①1,000μm以上に深達していた、②血管やリンパ管などに広がっていた(脈管侵襲陽性)、③がんの性質が悪性度の高いものだった、④がんの広がりの先端部が散らばったように発育していた、のうち1つでも当てはまれば、追加の外科的切除を行うこともあります。


●手術(外科的切除)

腹腔鏡下手術、手術支援ロボットを用いたロボット手術、開腹手術があります。がんの広がり具合や悪性度、リンパ節転移の有無などによって術式が選択されます。進行がんでも腹腔鏡下手術を行うケースが増えてきました。

直腸の手術では肛門を切除する必要があるため、術後、肛門機能障害、排尿障害、性機能障害が起こる可能性が高くなります。機能をできる限り残す「機能温存術」が考慮されますが、あくまでもがんをとりきることが治療の目的であるため、慎重に選択されます。肛門機能が障害される場合には「人工肛門(ストーマ)造設術」が行われます。


●薬物療法

がんが固有筋層より深く浸潤した「ステージⅡ」のうち再発高リスク例や、リンパ節転移を伴う「ステージⅢでは、再発抑制の目的で「術後補助化学療法」を行います。また遠隔転移がある「ステージⅣ」や手術の適応にならない進行例では抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などを組みあわせた薬物療法が行われます。薬物療法により腫瘍が縮小し、切除可能と判断された場合には、手術適応に方針を見直す「コンバージョン手術」が検討されることもあります。


●放射線療法

おもに直腸がんの肛門機能温存や再発抑制を目的に行われます。また、手術適応外の進行がんの症状緩和でも用いられます。

セルフケア

予防

大腸がんは罹患者数が多く、男性ではがん死亡数第2位、女性では第1位を占めています。アルコールや喫煙習慣の見直し、赤身肉や加工肉などの過剰摂取を控え、肥満を改善することが予防につながります。また、大腸がん検診として、年に1回の便潜血検査(2日法)が推奨されており、1回でも陽性の場合には大腸内視鏡検査を受けることが重要です。

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監修

わだ内科・胃と腸クリニック

和田蔵人