膵臓がん
すいぞうがん

最終編集日:2024/3/27

概要

膵臓は胃の後ろに左右に伸びる、長さ15~20cmの臓器です。からだの中心に近いほうを膵頭部、真ん中を膵体部、からだのわきに近いほうを膵尾部と呼びます。胃、小腸、肝臓、脾臓といった臓器や、門脈、上腸間膜動脈などの大きな血管に隣接し、十二指腸と膵管でつながっています。膵臓は、消化酵素を産生し、膵管を通して腸に送り出す「外分泌」と、さまざまなホルモンをつくって血液中に送り出す「内分泌」の働きをもっています。内分泌機能では、血糖調節にかかわる「インスリン」がよく知られています。

膵臓がんは膵臓内にできるがんで、80~90%が膵管の「膵管上皮」に発症します。

年間の患者数は約4万4000人、死亡数が約3万8000人。この数字をみても、根治がむずかしいがんであることがわかります。自覚症状に乏しい、悪性度が高い、位置的に他臓器に広がりやすい、検査での早期発見が比較的困難などがその理由として挙げられます。

男女比は、ほぼ1対1、60代から患者数が増加しはじめます。

原因

原因は明らかになっていませんが、発症には膵臓がんの家族歴、慢性膵炎や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の病歴、喫煙、過度の飲酒、糖尿病、肥満などが関連していると考えられています。

膵臓がん

症状

初期には無症状のことがほとんどです。進行すると心窩部痛(みぞおちの痛み)、背部痛、食欲不振、体重減少などが現れます。膵頭部周辺のがんでは黄疸(おうだん)がみられます。がんの発症でインスリン分泌不全が起こると、糖尿病の血糖値コントロールの急な不良、さらには新規に「膵性糖尿病」を発症することがあります。

健康診断やほかの病気での腹部超音波(エコー)検査やCT検査、あるいは血液検査で急に血糖値が上昇したことで見つかる場合がほとんどです。

検査・診断

血液検査では、血清膵酵素や肝胆道系酵素の値を中心に、肝臓や腎臓など、ほかの機能も評価します。腫瘍マーカーにはCA19-9、CEA、DU-PAN-2、SPan-1などがありますが、早期膵臓がんに対する有効性はそれほど高くありません。再発診断や治療効果を評価する際には有用とされています。

画像検査として、腹部超音波検査、造影CT、MRI、MRIによる胆管、膵管描出検査(MRCP)、超音波内視鏡検査(EUS)、PETなどを用いて、がんの位置、大きさ、広がり具合、がんの性質(悪性度)、膵管拡張や狭窄の状態、周囲の血管や臓器への浸潤(広がり)の評価、リンパ節や他臓器転移の有無などを精査します。

EUSガイド下に組織を採取して生検を行うEUSガイド下穿刺吸引生検(EUS-FNA)で確定診断が下されることが多いようです。

おもに薬物療法の効果の見通しや薬剤の選択に役立てられる遺伝子検査も行われます。膵臓がんに関与するのは、マイクロサテライト不安定性(MSI)、BRCA遺伝子、KRAS遺伝子、NTRK融合遺伝子などがあります。

慢性膵炎、自己免疫性膵炎、膵神経内分泌腫瘍などとの鑑別が必要です。

治療

治療の第1選択は手術による膵切除です。リンパ節や他臓器、周囲の血管に転移・浸潤がないことが手術適応の条件となります。しかし、膵臓がんの多くは進行してから見つかるために、手術が適応されるケースは20~30%にとどまるといわれています。

近年、薬物の進歩によって、薬物療法と手術を組みあわせることで徐々に治療成績の向上が報告されてきています。


●手術

術式は、おおよそがんがある位置によって決められます。膵頭部にがんがあるときには「膵頭十二指腸切除術」が、膵体部と膵尾部にあるときには「膵体尾部切除術」が、膵臓全体に広がっている場合は「膵全摘術」が行われます。腹腔鏡下手術、手術支援ロボットを用いたロボット支援下膵切除も承認されており、認定施設で行われています。

手術が可能かどうかの判断は「切除可能性分類」を基準にして決められます。切除可能性分類では「切除可能」「切除可能境界」「切除不能」の3つに分けられます。

切除可能膵がんでは、術後補助化学療法を併用して再発のリスクを抑えます。切除可能境界膵がんは、切除による治療効果や、生存期間延長効果が得られない可能性がある判断のむずかしいものを指します。治療効果を高めるために術前補助化学療法を行う場合があります。


●化学療法・放射線療法

切除不能膵がんが対象になります。抗がん剤による化学療法と放射線療法を組みあわせた「化学放射線療法」が推奨されています。他臓器に遠隔転移がある場合には、化学療法が中心になります。放射線療法は単独でも、症状緩和の目的で行われています。また、2022年には切除不能の膵がんに対して、重粒子線による放射線療法が保険適用になりました。


●分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬

現在、膵臓がんに適用されているのは分子標的薬3剤、免疫チェックポイント阻害薬1剤です。遺伝子検査によって効果が見込める薬を投与しますが、膵臓がんでは遺伝子検査で陽性(効果が見込める可能性が高い)となる人の割合が低いため、用いられるケースは限られています。

セルフケア

予防

膵臓がんは完治率のきわめて低い、怖いがんです。高リスクとなる、膵臓がんの家族歴がある人、健康診断などでIPMNや主膵管拡張を指摘された人、慢性膵炎の病歴のある人は検査を受けておきましょう。定期的な検査の必要があるといわれたら、医師の指示どおり、通院をつづけてください。また糖尿病や肥満などの生活習慣病も膵臓がん発症の誘因となります。適度な運動、栄養バランスのよい食事、禁煙、節酒を心がけて、生活習慣病の改善・予防に努めましょう。

監修

鳥居内科クリニック 院長

鳥居明

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