胃がん
いがん

最終編集日:2024/3/27

概要

胃がんは胃の粘膜(粘膜上皮)にできる悪性腫瘍で、9割以上を腺がんが占めています。

胃壁は内側から、粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜(しょうまく)と複数の層からなっています。がんが粘膜下層までにとどまっているものが「早期胃がん(表在型胃がん)」、筋層以上に深く達しているものが「進行胃がん」に分類されます。

胃がんの年間の患者数は約12万4000人。部位別がん罹患数では、男性は第3位、女性は第4位となっています。50代以降に患者数が増加し、ピークは80代で、男女比は2対1で男性に多くみられます(2019年がん種別統計)。高齢者に多いがんといえますが、それには若い世代のピロリ菌感染者の減少がかかわっているとも考えられています。

原因

ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)の感染がもっとも頻度の高い原因です。胃がんの患者さんの約90%にピロリ菌感染がみられ、ピロリ菌に感染していると、胃がんの罹患リスクは感染が陰性の人にくらべて約5倍になるとされています。

そのほか、喫煙、塩辛い食品の継続的な摂取も原因になります。

胃がん,ピロリ菌
胃がん

症状

初期にはほとんど症状はみられません。がんがある程度進行すると、食欲不振、胃もたれ、胸やけ、げっぷ、胃痛、さらにはがんやその周辺からの出血による黒い便(黒色便)、出血量が多い場合は血便、吐血などが現れることがあります。

検査・診断

胃がんが疑われる場合、胃内視鏡(胃カメラ)検査(上部消化管内視鏡検査)を行って、がんの場所や大きさ、胃壁のどの深さまで到達しているか(深達度)、性質(悪性度)などを精査します。

胃壁の表面の変化に乏しい「スキルス胃がん」が疑われる場合には、バリウム検査(胃X線検査)を併用し、胃のふくらみを確認するのが一般的です。

さらに病巣の広がり具合や転移の有無をみるために、造影CT、MRI、PET検査などが、腹膜や腸管への転移が疑われる場合には、注腸X線検査(肛門からバリウムを注入してX線で大腸をみる)、大腸鏡検査などが行われます。

胃がんの腫瘍マーカーとしてCEA、CA19-9が挙げられますが、早期胃がんの発見には有効性はそれほど高くないとされています。

胃がんに胃潰瘍を伴っていると治療法の選択が変わるため、的確な診断が必要です。そのほか、胃ポリープ、悪性リンパ腫との鑑別診断が必要です。

治療

がんの切除が基本となります。まず「リンパ節転移の可能性が1%未満かどうか」を診断し、そのうえでがんの深達度、性質、潰瘍合併の有無、患者さんの年齢、全身状態などを考慮して、内視鏡治療(内視鏡的切除)、あるいは手術が行われます。遠隔転移などがあって手術が行えない場合は薬物療法が中心となります。


●内視鏡治療(内視鏡的切除)

早期胃がん治療の約6割を占めるといわれています。「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」と「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」があります。EMRは、がんの根元にワイヤをかけて焼き切る方法、ESDは、粘膜下に生理食塩水などを注入して剥離する方法です。EMRは、がんの形や大きさに制限があるため、現在ではESDが主流になっています。

内視鏡治療は、リンパ節転移の可能性が1%未満と推定される、次のような場合に適応になります。

①潰瘍がない早期胃がんで、悪性度の低い「分化型」のがん……最近は内視鏡の機能の向上と、施術者の技術の進歩で、10cm程度の大きなものも適応可能とされています。

②潰瘍を伴う分化型の早期胃がんで、大きさが3cm未満のもの……潰瘍を伴うと、がんが深いところまで入りやすくなるため、3cm未満の制限があります。

③潰瘍がない悪性度の高い「未分化型」のがんで、大きさが2cm未満のもの……未分化型のがんは悪性度が高いため、潰瘍を伴うものや2cm以上のものは適応とされません。


●手術

内視鏡治療の対象とならない場合は、手術が考慮されます。切除部位によって「胃全摘術」「幽門側(出口側)胃切除」「噴門側(入口側)胃切除」から術式が選択されます。術後にやせ、体力低下、ダンピング症候群(食後のめまい、動悸、脱力感など)、貧血など、何らかの障害が起こりやすいため、可能な限り胃を残す方法が試みられています。

①腹腔鏡下胃切除術(腹腔鏡手術)……早期胃がんには腹腔鏡手術が広く行われています。また、一部の進行胃がんに対しても腹腔鏡手術が認められるようになりました。最近は、腹腔鏡よりも精緻な技術が可能になった手術支援ロボットを用いた「ロボット手術」も普及し始めています。

②開腹手術(手術)……進行胃がんが対象となります。再発を抑えるために、抗がん剤などによる術後補助化学療法を行うことがあります。なお、内視鏡治療適応の可否の判断を専門医でも迷うような境界例に対しては、まず内視鏡治療を行い、病理組織検査でリンパ節転移の可能性が1%以上であると診断された場合、追加の治療として腹腔鏡手術を行うという方法がとられることがあります。不要な胃切除を避けられる方法として認められています。


●薬物療法

手術が適応されない場合に、抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などを組みあわせて行われます。

なお、手術の対象とならない進行胃がんで、薬物療法の効果によって転移巣が認められなくなったり、原発巣(もともとの胃がん)の縮小がみられたりした場合に、治療方針を変更して手術を行う「コンバージョン手術」が選択されることがあります。

セルフケア

予防

胃がんの原因となるピロリ菌感染を改善することが、胃がん予防には不可欠です。まずは自分がピロリ菌に感染しているかどうかを検査してもらいましょう。そして感染がわかったら、必ずピロリ菌除菌治療を受けましょう。除菌後の胃壁には粘膜の萎縮が残っているため、胃がんのリスクがなくなったわけではありません。やはり年に1回の胃がん検診がすすめられます。

また、最近、ピロリ菌陰性の胃に発症する「ラズベリー型胃がん」という新しいタイプの胃がんが報告されています。ピロリ菌感染が陰性だった人でも、2年に1回程度の内視鏡による胃がん検診を受けると安心でしょう。

監修

鳥居内科クリニック 院長

鳥居明

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