脊柱管狭窄症せきちゅうかんきょうさくしょう
最終編集日:2024/6/24
概要
脊椎と椎間板が連なって形成される背骨には、脊柱管という長いトンネルがあり、そのなかを神経が通っています。脊椎や椎間板、周辺の靱帯などがおもに加齢によって変形を起こし、脊柱管を圧迫したり狭窄を起こさせたりすることでさまざまな症状が現れるのが、脊柱管狭窄症です。
脊柱管狭窄は、頸椎・腰椎のどの部分にも起こる可能性はありますが、腰椎周辺に起こる「腰部脊柱管狭窄症」と、首(頸)周辺に起こる「頸部脊柱管狭窄症」の頻度が高く、いずれも50歳以上に好発し、男性に多い傾向にあります。高齢者では約10%に腰部脊柱管狭窄症がみられるといわれます。胸椎を含めて広く脊柱管狭窄が起こる場合は「広範脊柱管狭窄症」の診断となり、難病にも指定されています。
原因
いちばんの原因は加齢です。そこに骨格などの遺伝的な要因、職業などの生活環境要因が絡み合って発症に至ります。
腰部脊柱管狭窄症は、重い物を運ぶなど、腰に負担がかかる動作を繰り返すことや肥満などがリスク要因として挙げられています。また、側彎症や骨粗鬆症による圧迫骨折など、ほかの脊椎や骨の病気が引き金になることもあります。
頸部脊柱管狭窄症では、骨格異常に加えて、首に負担がかかる姿勢を長時間続けることをくり返すスポーツ・職業のほか、事故などで首に衝撃を受けた(頸椎ねんざなど)ことなどが発症のきっかけとなります。
症状
●腰部脊柱管狭窄症
下肢・臀部のしびれ、痛みが起こります。立つ姿勢や歩行を続けるとしびれと痛みが現れたり増悪したりします。前屈姿勢や坐位になると回復する「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」がみられます。腰痛を伴うこともあります。徐々に下肢の筋力低下・脱力、膀胱直腸障害(会陰部の症状のほか、頻尿、排尿障害、失禁、尿が出なくなる尿閉、排便障害など)、が起きてきます。
●頸部脊柱管狭窄症
首や背中のこり・痛みから始まり、脊柱管の狭窄が進行すると、首から肩、うで、手にかけてしびれや痛み、力が入りにくい、動かしにくさ、巧緻運動(ボタンをかける、はしを使うなど)ができないことなどが起こります。まれに、歩行がスムーズでなくなるなど、下肢に症状が現れることのほか、膀胱直腸障害が出現することもあります。
検査・診断
X線検査、MRI検査が行われます。画像診断と症状の現れ方が一致していれば、確定診断とされます。
腰部脊柱管狭窄症では、同じく間欠性跛行を生じる閉塞性動脈硬化症との鑑別が重要で、症状の確認に、診断サポートツール(スコア)を用いることもあります。腰部脊柱管狭窄症で圧迫されて障害を受けるのは、馬尾といわれる末梢神経です。下肢の反射が低下し、病的反射はみられません。
頸部脊柱管狭窄症では、中枢神経である脊髄が圧迫されて症状が出現します。上下肢体幹の腱反射の亢進や病的反射の出現がみられ、巧緻運動障害が起こるのも特徴です。巧緻運動障害の有無をみるために10秒テスト(10秒間にグーパーがくり返せる回数をみる)が行われます。10秒間にグーパーが20回以上できない場合、頸椎で脊髄が圧迫されている可能性があります。
治療
脊柱管狭窄症では、最初に保存療法が行われます。効果が見込めない場合や、画像診断で狭窄の程度が強い、進行して症状が強い場合には、手術が選択されます。
●保存療法
薬物療法として消炎鎮痛薬(NSAIDs、COX-2選択的阻害薬など)、血流改善薬、間欠性跛行に対するプロスタグランジン製剤、神経障害性疼痛改善薬(痛みが強い場合)を用います。温熱療法などの理学療法やサポーターやコルセットなどによる装具療法も併用します。薬で痛みが治まらない場合には、腰部では狭窄が起きている部位に局所麻酔薬を注射する「神経ブロック注射」を行います。痛みや炎症の軽減だけでなく、血流をよくし、緊張した筋肉を緩める作用も期待できます。
腰部脊柱管狭窄症では、50%近くが保存療法による改善がみられるとされています。
●手術
一般的に除圧術が中心となります。脊柱管を広げるために、神経の圧迫要因となっている骨や靱帯を切除する「椎弓切除術」や脊椎の椎弓という部分を一部切除して、脊柱管を広げる「椎弓形成術」が行われます。そのほか、背骨の不安定が狭窄や症状発現の原因と考えられる場合では、上下の脊椎を固定する「脊椎固定術」が選択されます。
最近は、脊椎内視鏡を用いた内視鏡下手術が普及しています。
セルフケア
療養中
運動療法として脊柱管を広げる運動があります。受診時に正しい方法を指導してもらいましょう。そのほか、ひざ抱え体操などのストレッチや背筋を鍛えることも症状の改善に役立ちます。
腰部脊柱管狭窄症の場合、腰をまっすぐにして立つよりも、少し前かがみにしたほうが負担は少なくなります。
また、頸部脊柱管狭窄症では、首を強い力で振ったりひねったりしない、できるだけ後ろに反らさないことや、冷えると痛みが起こりやすいため、冷やさない工夫をすることなどを実践しましょう。
監修
東馬込しば整形外科 院長
柴伸昌
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