骨盤臓器脱
こつばんぞうきだつ

最終編集日:2024/6/9

概要

骨盤臓器脱とは、骨盤のなかにある臓器が腟壁とともに下に下がり(下垂)、腟から脱出する病気の総称です。脱出した臓器によって、おもに膀胱が下垂する膀胱瘤、直腸が下垂する直腸瘤、子宮脱、腟断端脱(腟の上部が下がってくる)があります。そのほか、卵巣や小腸、尿道が下垂することもあります。女性特有の病気で、経腟分娩の経験者の約30%の頻度で起こるという報告もあります。

原因

妊娠・出産時の骨盤底(骨盤の底の部分で、筋肉、靱帯、筋膜などの支持組織が骨盤内の臓器を支えている)の組織の損傷、加齢による骨盤底組織の脆弱化、女性ホルモンの減少などが原因になります。また、慢性的な便秘、肥満、慢性の咳、子宮筋腫など骨盤内臓器の手術、重い物を持つこと、締め付ける下着なども、骨盤底組織の損傷や脆弱化につながると考えられています。

症状

立ち仕事が続くと、夕方、股のあたりに不快感・違和感がある、何かが下がってくる感じがする、股に何かが挟まったような感じがする、入浴時やトイレでいきんだときに、股からピンポン玉のようなものが出てくるなどが現れます。脱出が進行すると、下垂したものが下着に擦れて痛みや出血が起こることもあります。

また、膀胱の下垂や、ほかの臓器の下垂によって尿道が圧迫されることで、頻尿、尿もれ、尿意切迫感、排尿困難(尿が出にくい、排尿に時間がかかる)が起こります。便秘、性交痛を伴うこともあります。

一般的に、夜間から起床時までは症状は軽く、午後や夕方以降に症状が強くなります。

検査・診断

内診や経会陰超音波(エコー)検査で下垂臓器を特定し、下垂の程度を調べます。POP-Qという評価法で、病型、進行度(ステージ)などを評価します。

そのほか、MRI検査や、排尿状態をみるために造影剤を用いた鎖膀胱造影(X線検査)、尿流測定、尿失禁の有無をみる咳テスト(砕石位という姿勢をとって咳をする)、パッドテスト(一定時間、尿ケアパッドを用いて尿もれの量を量る)などを行うこともあります。

治療

POP-Qによる進行度(ステージⅠ〈軽症〉~Ⅳ〈重症〉)によって治療法が選択されます。


●骨盤底筋訓練

骨盤底の筋群を鍛えることで、症状の改善を図ります。ステージⅠ・Ⅱにすすめられます。


●装具療法

〈ペッサリーリング〉……腟内にペッサリーリングを挿入して臓器の脱出を防ぐ方法で、外来で行われます。ペッサリーは、入れたままにするとおりものが増える、出血する、腟壁にびらんや潰瘍が起こりやすいなどの副作用があるため、2~3カ月に1度受診して消毒・交換を行います。副作用を防ぐためには、患者さんが日中のみ装着する「自己着脱」がすすめられます。医療機関によっては自己着脱の方法を指導しているところもあります。主治医に相談してみましょう。

〈サポーター〉……骨盤底を支える下着タイプのサポーターを装着します。保険適用外となりますが、市販されているものもあり、主治医と相談のうえで選択するといいでしょう。


●手術

〈人工物を用いない手術(NTR)〉……腟壁を縫い縮めたり、腟断端を仙骨子宮靱帯などの周囲の靱帯に固定する方法などがあります。緩んだ組織を補強せずに用いるため、再発率が30~50%と高く、他の臓器脱が起こるリスクもあります。

〈経腟メッシュ手術〉……TVM手術と呼ばれる術式が主流です。メッシュを挿入して、弱くなった骨盤底組織を補強します。すべての骨盤臓器脱に適応が可能です。再発率は10%程度ですが、メッシュの露出や感染、疼痛(とうつう)などの合併症が起こり得ます。

〈腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)〉……メッシュを用いて、腟を仙骨に固定します。TVM手術よりも再発率は低く、5%以下とされています。2020年には手術支援ロボットを用いるロボット支援下仙骨腟固定術(RSC)が保険適用になりました。

セルフケア

病後

骨盤臓器脱は、肥満や便秘、締め付ける下着などの関与が明らかになっています。例えば手術で膀胱瘤を改善しても、同じような生活習慣を続けていると、直腸や子宮など、ほかの臓器脱を起こすリスクは高いままです。

保存療法(骨盤底筋訓練)での治療を継続中の軽症の場合も含めて、以下のような点に留意して、再発や悪化を防ぎましょう。


●便秘を解消して、排便時には強くいきまないようにする。

●肥満を改善・予防する。

●重い物をできるだけ持たないようにする。

●締め付ける下着はやめる。

監修

小山嵩夫クリニック 院長

小山嵩夫

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