動脈管開存症どうみゃくかんかいぞんしょう
最終編集日:2025/2/5
概要
母親の胎内にいる間、胎児は羊水の中にいて肺を使わない呼吸をしているため、血液も肺を通らない流れになっています(胎児循環)。この胎児循環をつくりだすために存在するのが「動脈管」という特殊な血管です。動脈管は肺動脈と大動脈をつないで、出生後は肺動脈から肺に行く予定の血液を、大動脈に導いています。
出生後、肺呼吸が始まると肺への血流が必要になります。そこで動脈管による循環を中止します。動脈管を使った血流は出生後10~15時間で自然に途絶え、動脈管も2~3週間で完全に閉鎖してその役目を終えます。
しかし、何らかの原因があって動脈管の閉鎖が不十分な状態になっているものが「動脈管開存症」です。大動脈は圧が高く、肺動脈は圧が低い血管です。動脈管があることで、圧の高い大動脈から肺動脈に血液が流れ込み、血管や肺に負担をかけて「肺高血圧」をひきおこします。また左心房と左心室にも負担をかけるため、「心不全」を生じます。肺高血圧症と心不全の誘因となることが、動脈管開存症を放置できない大きな理由といえます。
動脈管開存症は2500~5000出生に1人の発症頻度で、先天性心疾患の5~10%を占めるといわれ、厚生労働省の小児慢性特定疾病の対象となっています。
原因
早産や低出生体重児に起こりやすいとされています。1500g未満の極低出生体重児の約30%、1000g未満の超低出生体重児の約50%が動脈管開存症の治療を受けたという報告があります。
また妊娠初期に風疹ウイルスに感染すると、高い頻度で動脈管開存症を合併し、「先天性風疹症候群」と呼ばれています。
早産児・低出生体重児では動脈管を閉鎖するしくみの未熟さが、先天性風疹症候群では風疹ウイルスへの感染が原因、と考えられています。動脈管開存だけがみられる場合の原因は、まだわかっていません。
症状
多くは新生児1カ月健診の聴診器検査で、心雑音を指摘されて見つかります。
病状が進行すると、頻脈、呼吸数の多さ、哺乳の不良、チアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色になる)、腹部膨満、尿が少ない、体重が増えないなどの心不全様症状が起きてきます。
症状の現れ方や強さは、開いたままになっている動脈管の太さや形などによって異なります。
検査・診断
聴診器検査、胸部X線検査、心電図、心臓超音波検査(心エコー)などが行われます。とくに心エコーは進行度や重症度の評価に有効です。
腎不全や感染性心内膜炎、肺高血圧症などを合併しやすいため、それらの合併症の確認も大切です。
治療
動脈管の開存が小さければ、自然閉鎖の経過を慎重にみていきます。
自然な閉鎖がむずかしい場合や、何らかの症状がある場合には、動脈管の収縮を促すCOX阻害薬を用いた薬物療法を行います。治療対象は早産児・低出生体重児であることが多いため、副作用や全身状態を観察しながら、慎重に投与が行われます。
薬の効果がみられない場合、すでに心不全様症状が強い場合、腎不全などの合併症があることでCOX阻害薬を使えない場合には、カテーテルによる閉鎖術や手術を検討します。
●経カテーテル動脈管閉鎖術
おもに太ももの付け根から動脈または静脈にカテーテルを挿入し、血管を通して心臓に到達させて、人工のコイルや閉塞栓で動脈管を閉鎖する手技です。手術にくらべて負担が少ない治療法です。体重が2500g未満の低体重児でも受けられる経カテーテル治療のデバイスが2020年に保険適用され、適応例が増えています。
●手術
開胸して動脈管を結紮(結んで閉鎖)する、切離する、あるいはクリップをかけて血流を遮断する方法と、胸腔鏡下内視鏡手術にてクリップで遮断する方法があります。
経カテーテル動脈管閉鎖術、手術のいずれも、術後は感染性心内膜炎の予防のために、ほかの手術を受ける際に抗菌薬を用いる必要があります。
セルフケア
予防
動脈管開存症の治療は、タイミングよく行う必要があります。治療効果を確実にするためにも、また将来的に心臓や肺の病気を防ぐためにも、動脈管開存症を指摘されたら、心臓専門医を受診して、適切なアドバイス・治療を受けるようにしましょう。
【成人の動脈管開存症】
乳児期や小児期に見つかった動脈管開存症で開存の範囲が小さく無症状などで、積極的な治療を行わないケースもあります。その場合、患者本人は記憶になく、成人してから健康診断で動脈管開存症を指摘されて初めて知ることも珍しくありません。
成人の動脈管開存症では、長年の経過で左心室に過剰な負荷がかかり、20歳代、30歳代以降に疲れやすさや息切れなどの症状が現れ、心房細動や弁膜症、肺高血圧症、心不全のリスクが高くなることがあります。
動脈管開存症を指摘されたら、心臓専門医を受診して、治療が必要かどうかを診断してもらいましょう。
成人の場合、心エコーで診断がつきにくいこともあり、その場合は心臓MRIや冠動脈造影CTなどの検査が行われます。
一般的に経カテーテル動脈管閉鎖術が行われますが、動脈管が硬くなったりもろくなったりしている場合などは手術が考慮されます。
監修
神奈川県立循環器呼吸器病センター 循環器内科 部長
福井和樹


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