マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群
まるふぁんしょうこうぐん・ろいすでぃーつしょうこうぐん

最終編集日:2024/6/22

概要

遺伝子変異による疾患で、親からの遺伝は約75%、突然変異によるものが約25%と考えられています。症状は多岐にわたるため、循環器内科、心臓血管外科、小児科、整形外科、眼科など、複数の科が連携して診断・治療が行われます。発生頻度は、1万5000人から2万人に1人の割合とされています。男女差はありません。

マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群は国の指定難病となっています。

原因

FBN1(フィブリリン1)遺伝子の変異が原因です。

遺伝子変異があると、からだの結合組織(骨、軟骨、靱帯、腱など)に存在する弾性線維(弾力があり、伸縮性に富む線維)の形成に必要な「フィブリリン1」というたんぱく質に異常が現れます。また、細胞の増殖を制御して細胞死を促す「TGFβ」というたんぱく質が過剰に活性化します。これらの状態が、結合組織の脆弱化を招き、さまざまな症状を引き起こすことがわかっています。

症状

結合組織がうまく形成されないため、心臓、大動脈、骨、目、脊柱(背骨)、肺、皮膚など、からだのいろいろな部分に異常が現れます。


●骨・骨格:長い手足、長い指(くも状指趾)、脊柱側彎漏斗胸(胸郭変形)、鳩胸、骨粗鬆症など

●心臓・血管:僧帽弁逸脱、大動脈弁閉鎖不全大動脈瘤、大動脈解離など

●目:近視、水晶体偏位、網膜剥離など

●肺:自然気胸など


異常がある部位によって、息切れ、動悸、視力低下、腰痛など、さまざまな症状が現れます。患者さんの多くは、高身長や手足が長い、強い近視、側彎や漏斗胸、関節の不安定さなどを抱えています。マルファン症候群が原因であると気づかずに過ごすケースも少なくありません。とくに緊急性が高く注意が必要なのが大動脈瘤破裂や大動脈解離です。突然、胸や背中に激痛が起こります。痛みは腹部や足などにも広がり、多くはショック状態に陥ります。救急搬送が必要で、死亡に至るケースも少なくありません。

検査・診断

問診、家族歴、視診などでマルファン症候群が疑われたら、X線検査、心臓超音波(心エコー)検査、CT検査、眼科検査、遺伝子検査などが行われます。

「改訂ゲント基準」をもとに、①大動脈基部の拡張あるいは解離がある、②水晶体偏位、③遺伝的要因(家族歴あるいはFBN1遺伝子変異)、④身体的な徴候(全身スコアとしてチェック)のうち、2項目以上を満たす場合に診断がつけられます。

同じような病態の遺伝病が複数あり(エーラス・ダンロス症候群など)、それらとの鑑別が重要です。

治療

もっとも注意が必要なのが、大動脈瘤破裂、大動脈解離です。

マルファン症候群では、心臓のバルサルバ洞という場所の冠動脈分岐点(大動脈基部)が拡張しやすく、大動脈弁の逆流や大動脈瘤、大動脈解離を起こしやすくなります。大動脈基部が45㎜以上になるとリスクが高くなるため、人工血管置換術・人工弁置換術を行って、解離や破裂を起こす前に予防的な治療を行います。別の場所で再発することが多く、複数回手術が必要なこともあります。術後は高血圧治療薬(β遮断薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬など)を用いて血圧管理を行います。

人工弁は10~15年ごとに交換のための再手術が必要で、若年発症のマルファン症候群ではその後の経過が長く、患者さんの負担になってしまいます。そのため、近年では、患者さん自身の大動脈弁を温存し、血管だけ人工血管にする「デービッド手術(自己弁温存大動脈基部置換手術)」を行う医療機関も増えています。

心臓弁膜症、目の水晶体の異常や重度の側彎、漏斗胸、気胸などには、重症度に合わせて手術が考慮されます。

セルフケア

療養中

マルファン症候群は定期的な通院を続けて経過観察し、適切なタイミングで治療、あるいは予防的な措置を受ければ、QOL(生活の質)を保ちながら過ごすことができます。ただ、けがをしやすい激しいスポーツ(サッカーやバスケットボールなど)や、持久力の必要なスポーツ(マラソンなど)は避けたほうがよいでしょう。

病態や症状に合わせて生活指導を受けることが大切です。

予防

マルファン症候群では、自覚がなく、病気を知らずに20~30代で大動脈解離を発症し、緊急搬送されるケースや、突然死を迎えるケースもあります。

家族歴がある、あるいは家族に、マルファン症候群と診断されていなくても高身長、手足が長いなどのマルファン症候群を思わせる骨格の人がいる、大動脈解離や大動脈瘤破裂で若くして突然死した人がいるなどの場合には、遺伝子検査を受けておくと安心でしょう。

また、若い世代で、側彎症や気胸、水晶体偏位の既往がある場合もマルファン症候群かどうかの検査を受けておくといいでしょう。約25%の患者さんに遺伝子変異が認められないことから、遺伝子検査で陰性(遺伝子変異がない)であっても、マルファン症候群の診断がなされたら、経過観察を怠らないことが肝要です。

監修

神奈川県立循環器呼吸器病センター 循環器内科 部長

福井和樹

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