咳ぜんそくせきぜんそく
最終編集日:2024/6/16
概要
咳ぜんそくは、何らかの原因(気道における炎症反応)があって、気道(空気の通り道である咽喉頭から細い気管支まで)にあるせきの受容体(炎症、温度変化、外的な刺激に反応するセンサー。おもに迷走神経の末端)を刺激されて、せきが続く病気です。
「ぜんそく」と似ていますが、ぜんそくでみられる喘鳴(ぜんめい:呼吸時のゼイゼイ、ヒューヒューという音、気道が狭くなることによる症状)や呼吸困難は、咳ぜんそくではみられません。しかし、経過中に30~40%がぜんそくに移行するといわれます。
成人の慢性咳嗽(まんせいがいそう:8週間以上せきが続く病態)の約半数を占め、男性に比べて女性に多い傾向があります。幼児や小児では咳ぜんそくは通常、起こりません。
原因
発症者の約60%にアトピー素因があるといわれます。また、かぜやインフルエンザなどの上気道(鼻やのど)感染症の後に起こるケースも多くみられます。
体質的(遺伝的)に気道の過敏性がある人に起こりやすいと考えられています。
症状
多くは夜間(就寝時に床に入ってからだが温まったとき)や早朝(明け方の気温の変化がある時間帯)にせきが出ます。激しいせきが続くため、睡眠障害を起こすこともあります。一方、昼間だけせきが出るケースもあります。喘鳴や呼吸困難はみられません。
アレルギーが関与するケースでは、例えば花粉の時期や乾燥しやすい季節(ハウスダスト)、梅雨など湿度の高い時期(ダニ)などに症状が強くなる傾向があるのも特徴的です。
また、鼻炎様症状(鼻水、鼻閉、くしゃみなど)を伴うことが多く、咳ぜんそくの約50%はアレルギー性鼻炎を合併しているといわれます。
検査・診断
問診、聴診、血液検査が行われます。アレルギーの関与が考えられる場合には、アレルゲンテスト(おもに血液検査)を行うことがあります。胸部X線検査では気管支や肺に異常は認められません(鑑別診断に用いられます)。
「肺機能検査(スパイロメトリー)」で肺活量や1秒間に空気を吐き出す量などを調べ、気道の空気の通り具合をみます。「気道可逆性テスト」では、短時間作用型β2刺激薬という薬を用いて気道が広がるかどうかをみます。「呼気一酸化窒素(NO)検査」では、気道に炎症があると呼気(吐き出した息)のなかにNOが増えることから、呼気中のNO濃度を測定します。
ぜんそく、アトピー咳嗽、呼吸器感染症によるせき、薬(ACE阻害薬など)によるせき、胃食道逆流症などとの鑑別も重要です。アレルギーが関与している場合には、咳ぜんそくにアトピー咳嗽を合併していると考えられます。
治療
基本的にぜんそくに準じた薬物療法が行われます。発症にアレルギーがかかわっている場合には、花粉またはハウスダストなどのアレルゲンをできるだけ避けるようにしますが、実際には困難であるため、適切な抗アレルギー薬で治療します。
薬物療法に用いられる薬は、おもに以下の3種類があります。
●抗アレルギー薬……アトピー性咳嗽が合併していると考えられる場合に用いられます。抗アレルギー薬は種類が多いですが、人によって効果がある薬が異なります。
●吸入ステロイド薬(ICS)……好酸球による気道の炎症を抑えます。すなわち、ぜんそく要因が合併している場合に効果が期待できます。せきの程度が激しい場合には、吸入ステロイド薬での効果が十分でなければ、経口ステロイド薬を短期間使用したほうが早く改善することがあります。
●気管支拡張薬……気管支を広げて空気が通りやすくします。吸入ステロイド薬(ICS)の効果が期待できる場合には、長時間作用性β2刺激薬(LABA)と併用されることがほとんどです。また、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)は、LABAとはまったく異なる作用を発揮します。LAMAにはアセチルコリンによる気道炎症を抑える作用があります(カプサイシンという刺激物質に対する炎症反応を抑える作用もある)。
これら以外にも、短時間作用性吸入β2刺激薬(SABA)、テオフィリン徐放製剤、ロイコトリエン受容体拮抗薬などがあり、作用機序を考えて選択されます。テオフィリン徐放製剤とロイコトリエン受容体拮抗薬には抗炎症作用もあります。
吸入タイプのものにはドライパウダーとエアロゾールがあります。ドライパウダータイプは薬の粒子径(大きさ)が比較的大きいため、太い気道の炎症を抑えるのに効果があります。一方、細い気道の炎症を抑えるためには、エアロゾールタイプでないと効果が期待できません。咳ぜんそくの原因によって、適切な吸入薬を選択しないと効果が期待できないのが実際です。
残念ながら、せき止めの内服薬は、咳ぜんそくにはあまり効果は期待できません。咳ぜんそくの一部は、のどの炎症(のどがムズムズしてせきが出る)が原因で症状が続いている場合があります。この場合にはのどの炎症を抑える治療をします。
複数の薬剤を組み合わせて、症状に合うように使うことで、気道の炎症をコントロールして症状を抑えます。治療をどのくらい続ける必要があるかは、人によって違いがあります。
自己判断で薬をやめてしまうと炎症が悪化してしまいます。悪化して再度薬を使い、またやめるようなことを繰り返していると、気道の線維化が進んで硬くなり、薬を用いても拡張せず、狭いままの状態になる「リモデリング」が起きてしまいます。咳ぜんそくでも軽度のリモデリングが起こり得るため、注意が必要です。
アレルギー性鼻炎を合併している場合には、アレルギー性鼻炎の治療も行います。鼻炎が改善すると、咳ぜんそくも改善されるケースが多くみられます。
セルフケア
予防
かぜやインフルエンザなどの上気道感染症が治った後、8週間経ってもせきが続いていたら、咳ぜんそくなどの慢性咳嗽を疑い、呼吸器内科を受診しましょう。
咳ぜんそくと診断されたら、花粉やハウスダスト、ダニ、ペットの毛、たばこ、あるいは気温差など、自分にとってのアレルゲンから身を守ることが大切です。またかぜなどの上気道感染症にかからないように気をつけて症状の悪化を予防します。咳ぜんそくは、気道のコントロールが長期に継続できれば、薬を中断できるケースもあります。
監修
千葉大学病院 呼吸器内科特任教授
巽浩一郎
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