気管支拡張症きかんしかくちょうしょう
最終編集日:2023/7/4
概要
何らかの原因により、中枢から末梢(まっしょう)にかけて広い範囲で気管支が拡張した病態を指します。先天的な病気(原発性線毛運動不全症、嚢胞性線維症など)や感染症などで傷ついた気管支は、弾力性を失って拡張してしまいます。拡張した部分では自浄作用が低下し、細菌などが繁殖しやすくなったり、炎症を起こした部分から出血が起きたりします。拡張した気管支は元に戻ることはありません。複数の箇所が拡張する「びまん性気管支拡張症」と、1カ所から数カ所のみにとどまる「限局性気管支拡張症」があります。
原因
遺伝的な疾患によるもの(嚢胞性線維症、先天性免疫不全など)、結核菌の感染後、非結核性抗酸菌症やびまん性汎細気管支炎、副鼻腔気管支症候群などによる慢性的な気道の感染、膠原病(関節リウマチやシェーグレン症候群など)による気道の変化などが原因として挙げられます。
症状
くり返すせき、膿性のたん、血たん、喀血(かっけつ)などが現れます。まれに大量喀血を起こすこともあります。進行して気管支拡張の範囲が大きくなる、あるいは気管支拡張症が原因で細菌などが気道感染した場合には、息切れや呼吸困難が起こります。拡張が軽度な場合は無症状のこともあり、他疾患の画像検査などで偶然見つかることもあります。
検査・診断
問診、胸部X線、CT検査などで診断をつけます。X線には写りにくい場合もあるため、CT検査で気管支の拡張部位や程度、周囲の肺の状態などを精査します。状態にあわせて、血圧や酸素飽和度など、バイタルを確認します。細菌感染の有無、あるいは感染がある場合は菌の特定のために、喀たん検査も行われます。大量喀血時には、出血部位の特定と周囲の血管の様子をみるために血管造影検査(太ももからカテーテルを挿入して肺に到達させ、X線で血管の状態を写し出す)を行うこともあります。
慢性副鼻腔炎、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎は気管支拡張症を併発しやすいとされています。これらの疾患の有無も調べられます。
治療
薬物療法が中心になります。拡張部位の炎症を抑える抗炎症薬、去たん薬、喀血・血たんに対する止血薬、感染が疑われる場合には抗菌薬などを用います。気道の免疫状態の改善を図る目的で、マクロライド系抗菌薬が使用されることが一般的です。マクロライド系抗菌薬は、殺菌効果が目的ではなく、生体の免疫反応を改善し、結果として気道の細菌を安定させる(増やさない)ことを目標としています。大量喀血の場合は、血管造影検査の際に出血部位を特定し、同時に止血処置も行います。進行してこれらの保存的治療で効果が見込めない場合には、手術で拡張部位を切除することもあります。
気管支拡張症がふだんの状態よりも増悪した場合、抗菌薬の使用が行われます。原則的に感染の原因となった細菌を特定してから抗菌薬の選択が行われますが、特定できないことも少なくありません。そのため、医師の経験に基づいた抗菌薬の選択が行われることもあります。なお、軽症で無症状の場合には、経過観察を行います。
セルフケア
療養中
軽症の気管支拡張症では、増悪を起こさないように気をつけることが重要になります。ふだんから病気が悪化しないような治療(マクロライド療法など)をつづけていくことが重要になります。喀たんが多い場合はネブライザー(吸入器)を使用し、できるだけ気道のクリーニングをしておくことが重要です。重症の気管支拡張症では、きちんと薬物療法を継続すること、ネブライザーの使用を継続することが肝要です。
監修
千葉大学病院 呼吸器内科 特任教授
巽浩一郎
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