ビタミン欠乏症びたみんけつぼうしょう
最終編集日:2024/6/7
概要
ビタミンは健常な生理機能を維持するために不可欠なもので、加えて、生体で合成できない有機物質と定義されており、適切に食事などから摂取する必要があります。
ビタミンは全部で13種類あり、水溶性(B複合体〈B1、B2、B6、B12、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビオチン〉、C)と脂溶性(A、D、E、K)に二分されます。水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンの重要な違いは、脂溶性ビタミンは、大量摂取すると蓄積して過剰症を起こすのに対して、水溶性ビタミンはいくら大量摂取しても尿に溶けて排泄されてしまう点にあります。
ビタミン欠乏症では、特定のビタミンの摂取量が不足することでさまざまな症状が現れます。水溶性ビタミンは排泄されやすいため、とくに欠乏には注意が必要です。現在、国内においては健康で通常の生活を送っていれば、ビタミンD欠乏症以外の疾患は起こりにくいとされています。
原因
ダイエットや偏った食事、アルコール依存、ほかの疾患の治療での食事制限、消化管の吸収障害、消化管の手術、特定の薬(ステロイド、抗結核薬、非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉など)、加齢、経腸栄養・経静脈栄養などがビタミン欠乏症の原因として挙げられます。
症状
●ビタミンA
レチノールと呼ばれ、レバーや卵などの動物性食品から直接摂取されるほか、緑黄色野菜から前駆体(プロビタミンA)であるβカロテンとしてもとり入れられる。また、ビタミンAは網膜に含まれるロドプシンの主成分であり、欠乏すると夜盲症をきたす。
欠乏時:ドライアイ、夜盲症、呼吸器感染症にかかりやすい、成長の停止、生殖機能の低下など
●ビタミンD
紫外線を浴びて皮膚で合成されるほか、食事からも摂取される。欠乏症は、日照不足や極端な偏食によっても起こる。
欠乏時:骨軟化症・くる病、骨粗鬆症、肥満を伴うとO脚やX脚
●ビタミンE
トコールとトコトリエノールの2種類があり、強い抗酸化作用によって血管内皮細胞を保護したり、老化の一因である脂質過酸化を抑制する。
欠乏時:筋肉の委縮、筋力低下、腱反射の消失、歩行障害、眼球運動麻痺、貧血
●ビタミンK
血液凝固に関連する。なお、ビタミンKには緑黄色野菜由来のK1と納豆、レバー、魚類などの動物由来のK2があるが、作用は同じ。
欠乏時:血液が固まりにくい、出血しやすい、骨粗鬆症、骨の形成不全
●ビタミンB1
チアミンと呼ばれ、複数の酵素の補酵素としてエネルギー獲得に貢献するほか、神経の伝導にも重要な役割を果たす。
欠乏時:脚気、ウェルニッケ脳症、乳酸アシドーシスなど。脚気は多発性神経炎、浮腫、心不全が特徴で食糧事情の悪い戦前は身近な疾患だった。その後は栄養状態の改善とともに漸減したものの、ビタミンB1を含まないインスタント食品の多用や極端なダイエットに伴い、近年は増加傾向。また、アルコールの多飲者では、ウェルニッケ脳症(眼球運動障害、傾眠、錯乱)をきたすことも。また乳酸アシドーシス(血液中の乳酸が異常に増加した状態。悪心・嘔吐、腹痛、下痢、筋肉痛、倦怠感、脱水症状など)を引き起こす
●ビタミンB2
生体内ではリボフラビンなどの形で存在し、酸化還元反応に貢献する。
欠乏時:欠乏すると、特に頻繁に入れ替わる皮膚粘膜が障害され、口角炎、舌炎、皮膚炎、表層性角膜炎など
●ビタミンB6
欠乏時:ナイアシン欠乏は、皮膚炎、下痢、認知症を特徴とするペラグラを引き起こす
●ビタミンB12
欠乏時:悪性貧血(巨赤芽球性貧血)、舌炎、発育不良、進行性の麻痺
●ナイアシン
ニコチン酸と呼ばれ、体内では脱水素酵素の補酵素として働く。ナイアシン欠乏は皮膚炎、下痢、認知症を特徴するペラグラを引き起こす。
欠乏時:ペラグラの症状は、光に過敏になる、顔に左右対称の発疹が現れる、口内炎、舌炎、下痢などが現れ、進行すると不眠、疲労感、無感情、幻覚など。ナイアシン欠乏症は、ナイアシン含有量の少ないトウモロコシを主食とする地域に好発するほか、低栄養の慢性アルコール中毒者にみられる。※ニコチン酸はニコチンとは異なる物質で禁煙しても本症にはならない
●葉酸
欠乏時:悪性貧血(巨赤芽球性貧血)、舌炎、口内炎、母体の不足による胎児の神経管閉鎖障害など
●パントテン酸
欠乏時:疲れやすい、めまい、頭痛、不眠、動悸、食欲不振、便秘などが現れ、進行すると知覚異常、手足の麻痺や痛みなど
●ビオチン
欠乏時:湿疹性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脱毛、結膜炎、筋肉痛、食欲不振、うつなど
●ビタミンC
コラーゲンの生合成に不可欠の役割を果たすほか、強い抗酸化作用をもつと考えられている。
欠乏時:ビタミンC欠乏症は「壊血病」と呼ばれ、血管が脆弱となり破たんし、皮膚の点状出血や歯肉などの粘膜出血を引き起こす
検査・診断
問診で症状、食事内容・習慣、病歴、生活習慣、薬の服用状況などを聞き取りの後、血液検査で血中のビタミン濃度を調べます。ビタミン以外にもたんぱく質や脂質、電解質などで不足、あるいは過剰になっているものがないかどうかも精査します。
ビタミン欠乏症は貧血や骨粗鬆症、皮膚炎、出血、筋力低下など、全身にさまざまな症状を現すことから、同じ症状が起こる病気との鑑別が必要です。
治療
不足しているビタミンを補う治療を行います。食事から不足しているビタミンを摂取する食事療法、ビタミン製剤の内服や注射が用いられます。サプリメントを併用することもあります。
また、ビタミン不足の原因の除去も行われます。極端なダイエットやビタミン欠乏を招く食習慣の中止、食事バランスの改善、ほかの病気の治療に伴うものは医師と相談のうえ、対応策を考えます。
セルフケア
予防
国内で唯一、欠乏が懸念されるのがビタミンDです。ビタミンDは、日光の紫外線によって体内での生成が促進されるため、とくに活動量が低下して戸外に出る機会の少ない高齢者では、欠乏のリスクが高いとされています。できるだけ日光に当たる、ビタミンDを多く含む食材(魚、きのこ類など)を積極的にとるなどで、ケアに努めましょう。
また、ビタミンDだけでなく、無理なダイエットや不規則な食生活などが「潜在性ビタミン欠乏症」を招いているといわれています。何となく体調がすぐれないようなときは、食事の内容と食生活習慣を見直して、ビタミンが不足していないかを自分でチェックすることも大切です。
監修
医療法人青泉会下北沢病院 糖尿病センター長
富田益臣
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