後縦靭帯骨化症
こうじゅうじんたいこっかしょう

最終編集日:2025/3/5

概要

背骨を構成する椎骨をつなぎ、安定させているのが靭帯です。椎骨の前側には前縦靭帯が、後ろ側には後縦靭帯があり、この後縦靭帯が硬く骨のようになる(骨化)のが後縦靭帯骨化症です。骨化した靭帯は年単位でゆっくりと大きくなり、しだいに脊髄を圧迫し、圧迫の程度によってさまざまな神経症状を引き起こします。

骨化は頸椎、胸椎、腰椎のどの部位にも発生します。頻度としては頸椎が最も高くなっています。

50歳代での発症が多く、男女比は2対1で男性に好発します。後縦靭帯骨化症で受診している人は約4万人といわれますが、潜在的な患者数は100万人以上と推測されています。

後縦靭帯骨化症は厚生労働省の指定難病になっています。

なお、同じような病態を表す病気に、背骨の椎弓を安定させている黄色靭帯に発症する「黄色靭帯骨化症」があります。黄色靭帯骨化症は、胸骨に多いという特徴があります。


原因

原因は明らかになっていません。

発症の要因として、遺伝的な要因、糖尿病肥満、老化、カルシウムやビタミンDなどの代謝異常、性ホルモンの異常など、さまざまなものが考えられています。家庭内での発症が多くみられることから、遺伝的な要因が強く関与するのではないかとされています。



症状

発症した部位によって、以下のような症状が現れます。進行にしたがって症状は重症化し、障害の範囲も広がります。ただ、肩こり首の痛みなどで受診したときの画像検査で偶然に発見されることも多く、大きな骨化があっても症状が出ないケースもあり、病態や進行については個人差が大きいと考えられます。


■頸椎……首や肩、肩甲骨の辺りに痛み・しびれ・こり、手指のしびれなどが現れます。徐々に症状は多様になり、範囲も広がります。細かい作業ができなくなる巧緻運動障害(箸やボタンがうまく扱えないなど)、足のしびれ・違和感や運動障害などが起こり、立つことや歩くことがむずかしくなって、排便・排尿に障害(膀胱直腸障害)がみられるようになります。


■胸椎……多くは下半身のしびれ、足の脱力から始まり、歩行障害や排便・排尿障害が現れます。胸椎は頸椎にくらべて脊柱管が狭いことから、頸椎より症状が出やすいとされています。頸椎や胸椎で、骨化した脊柱管の占拠率が60%以上になると、転倒などの外傷をきっかけに症状を発症しやすいといわれています。


■腰椎……腰椎でも後縦靭帯の骨化に伴い、足の痛み・しびれ・脱力などの症状が現れる可能性はあります。しかし、後縦靭帯骨化症のみで症状が起こることはまれで、加齢が原因の関節の変形や靭帯の肥厚などによる脊柱管狭窄症を合併している場合がほとんどです。


上記のような症状が現れた、または画像検査で後縦靭帯骨化症を指摘されたら、整形外科か脳神経外科を受診します。


検査・診断

問診に加えて、可動域検査や神経学的な検査(腱反射、筋力、皮膚感覚などを調べる)を行い、どの部分に後縦靭帯骨化が起きているかおおよその診断をつけます。その後、X線検査とCTで後縦靭帯骨化を確認し、MRIで神経への圧迫の程度を精査します。

あわせて、後縦靭帯骨化症は糖尿病との関連が強いと考えられることから、血液検査で糖尿病など他疾患の有無、炎症の有無、全身状態などをみます。



治療

症状が軽度の場合は保存療法を、重症の場合は手術を考慮します。


■保存療法

無症状の場合は、定期的に画像検査で経過観察を行います。

軽度な症状がある場合は、障害を受けている神経への圧迫をできるだけ減らし、保護する治療を行います。頸椎カラーの装着、首・肩、背中、腰、足などのストレッチや筋力増強、可動域を改善する訓練、歩行訓練、薬物療法(消炎鎮痛薬、筋弛緩薬など)が挙げられます。

痛みが改善されない場合には、神経ブロック注射を行うこともあります。


■手術

手術はおもに、脊髄の圧迫をとる「除圧術」が行われます。除圧術は、骨化した部分を摘出する方法(前方法)と、骨化した部分はそのままにして障害されている神経の圧迫をとるために脊柱管を広げる方法(後方法)の2つに分けられます。前方法では骨化した骨を摘出した後に、金属や自身の骨を移植し、固定術が併用されます。後方法でも、骨化の進行を抑えるために金属を使用し固定術を併用することもあります。病変の位置や範囲、状態、神経を障害する程度、症状、全身状態などにあわせて、術式が選択されます。


セルフケア

療養中

病状を悪化させる要因として、首を後ろに強く反らせる動作(頸椎後縦靭帯骨化症の場合)、転倒などのけがが挙げられます。後縦靭帯骨化症があると、通常ではダメージの少ない軽い力による刺激でも、脊髄を損傷する場合があるため、転倒・転落などには十分な注意が必要です。

後縦靭帯骨化症は一度治療が終わっても、数年から十年たつとほかの部位に再発する可能性があるため、定期的な検診を受けるようにしましょう。新たにしびれや痛み、違和感、尿の出が悪い、頻尿などの症状が現れた場合は、早めに主治医に相談しましょう。


Xで送る
LINEで送る
Facebookで送る
URLをコピー

監修

東馬込しば整形外科 院長

柴 伸昌