胸郭出口症候群
きょうかくでぐちしょうこうぐん

最終編集日:2024/6/18

概要

胸郭出口は、胸郭と頸(首)部の間にある狭い部分を指します。鎖骨や第一肋骨という骨と、頸椎から第一肋骨にかけての2本の斜角筋によって形成され、入り組んだ構造になっています。胸郭出口には、頸椎から出て上肢や肩甲部に走る神経(腕神経叢〈そう〉)と、血管(鎖骨下動脈、静脈)が通っています。

「胸郭出口症候群」は、ここで神経や血管が圧迫される(圧迫型という)、あるいは神経が牽引される(牽引型という)ことで、頑固な肩こりや上肢のしびれやだるさ、冷感や筋力低下が生じます。牽引型では、なで肩の女性に好発するといわれます。圧迫型では、男女・年齢を問わず、がっちりした体格のアスリートでも発症することがわかっています。圧迫型と牽引型が合併することも多いといわれています。

原因

原因として「形態異常」と「動的因子」が挙げられます。

形態異常としては、第一肋骨の骨折後の肋骨の変形や、肋骨の奇形の一種である頸肋(けいろく)の存在などが圧迫型の原因になります。牽引型では肩甲骨が下がりやすい、なで肩体型がその代表です。

動的因子としては、スポーツや作業での上肢の繰り返しの過動作や、交通事故などが挙げられます。また、首を前に突き出してスマートフォンの操作に熱中する姿勢なども誘因となります。

胸郭出口症候群
胸郭出口症候群

症状

上肢(腕や手)や肩甲骨周辺にしびれや痛み、だるさが現れます。特に腕を上げる動作で現れやすく、電車のつり革につかまる、ドライヤーを使う、洗濯物を干す、受話器を耳にあてることなどがつらくなります。反対に、腕を下に下げる姿勢を続けると症状が出る場合もあります。頑固な肩や首のこりを訴えることが多く、頭痛を伴うこともあります。

鎖骨下動脈が圧迫されると腕は白っぽくなり、冷感や痛みを感じます。静脈の圧迫だけであれば、上肢のむくみがおもな症状となります。重症例では、握力の低下や運動障害がみられることもあります。

検査・診断

問診と鎖骨周囲の触診を行います。腕神経叢を押すと、腕に広がる痛みを感じます。胸郭出口症候群を見きわめるためのいくつかのテストがあり、代表的なものとして、ルース(Roos)テストがあります。これは、万歳の姿勢から両手先を上、両手のひらを前にしたまま、ひじをからだの真横まで下ろしてきます。このとき、ひじは90度に曲がっていて、胸は十分に張っている姿勢となります。この体勢で両手ともにグーパーの動きを3分間継続します。胸郭出口症候群であれば、上肢の痛みやしびれが出現するため、動作の継続が困難となります。牽引型では、上肢に下方にかかる力(ストレス)を加えて症状が増悪することで診断可能です。

並行して超音波(エコー)検査や造影検査、CT検査やMRI検査で、神経や血管の圧迫の程度や周辺の組織の様子を調べます。

また、頸椎椎間板ヘルニア、肘部管症候群、腕神経叢腫瘍、脊髄腫瘍などとの鑑別診断することも大切です。

治療

まず保存療法で改善を図ります。姿勢の改善、重い物を持たない、上肢や肩甲骨、首、肩のストレッチなどを行います。痛みが強い場合は、鎮痛薬や血流改善薬の内服、消炎鎮痛薬の外用薬を用いたり、神経ブロックを行ったりします。肩甲骨が下がってしまうケースでは、肩甲骨を挙上させる装具を装着することもあります。

保存療法で改善がみられない場合には、手術を考慮します。手術では締めつけられている部分の圧迫や狭窄を取り除きます。除圧のために第一肋骨切除術や斜角筋切除術が選択されますが、多くは内視鏡補助下で行われます。

セルフケア

予防

頸部、肩甲帯周囲の筋の強化と柔軟性を高める努力をしましょう。また、首や肩に負担を与える姿勢を改善します。自身の姿勢は自分ではわからないものです。整形外科で確認してもらい、改善法を指導してもらいましょう。そのほか、姿勢の悪化や関節の硬さなどにもつながるスマートフォンの長時間の使用を控える、パソコン作業では1時間に1回は休憩をとってストレッチをする、肩こりを誘発する目の疲れを改善することも有効です。

監修

東馬込しば整形外科院長

柴伸昌

この傷病に関連したQ&A

本サービスに掲載される情報は、医師および医療専門職等の監修の元、制作しております。監修者一覧および元となる情報はこちらからご参照ください。
みんなの家庭の医学 アプリイメージ
アプリでも

みんなの家庭の医学

歩数ゲームやデイリーアドバイス、無料健康相談が利用可能

QRコード

※ご所属先が本サービスを契約いただいている場合のみご利用いただけます。