下垂体前葉機能低下症かすいたいぜんようきのうていかしょう
最終編集日:2025/1/24
概要
脳の中枢部にある下垂体は、前葉と後葉に分かれていて、さまざまなホルモンを分泌しています。下垂体前葉機能低下症は前葉の機能が低下してホルモンの分泌が十分でなくなり、さまざまな症状が現れる病気です。しかし軽度の場合、性機能低下症や低身長以外に特有の症状はなく、全身疲労、うつ、微熱などから精神疾患や不明熱、慢性疲労などと診断されることも少なくありません。
下垂体前葉が分泌するのは、①副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、②甲状腺刺激ホルモン(TSH)、③成長ホルモン(GH)、④黄体化ホルモン(LH)、⑤卵胞刺激ホルモン(FSH)、⑥プロラクチン(PRL)の6種類です。
年齢分布では、男女とも60歳前後がもっとも頻度が高いとされています。
下垂体前葉機能低下症は厚生労働省の指定難病になっています。
原因
ほかの病気が原因となって起こるものがほとんどです。下垂体あるいは視床下部に生じた腫瘍(巨大腺腫、嚢胞)や炎症(下垂体炎、IgG4関連疾患、サルコイドーシスなど)によって結果的に下垂体前葉ホルモンの分泌低下が起こり、おもに下垂体ホルモンの影響を受ける臓器(下垂体ホルモンの標的臓器)から分泌されるホルモンの欠乏症状が現れます。
また、脳の手術や放射線治療、薬剤からひきおこされるものもあります。
原因疾患のない「特発性」と呼ばれるものでは、特定の遺伝子異常が考えられています。
症状
下垂体前葉ホルモンの分泌低下によって、標的臓器から分泌されるホルモンが欠乏(欠落)して、以下のような症状が現れます。
①ACTH欠落症状……コルチゾールというホルモンが低下して、倦怠感、疲れやすい、低血圧、低血糖、食欲不振、頭がぼんやりする、意識がなくなるなどがみられます。
②TSH欠落症状……甲状腺ホルモンの低下で、低体温、寒がり、脈が遅い、皮膚の乾燥・肌荒れ、脱毛、むくみ、集中力の低下などがみられます。
③GH欠落症状……小児期に発症すると、低身長、全身の発育不全、低血糖が現れます。成人では、これまでは治療の対象と考えられていませんでしたが、内臓脂肪増大、筋肉減少、骨粗鬆症、気力・体力の低下などをきたします。
④LH、⑤FSH(性腺刺激ホルモン)欠落症状……思春期以前に発症すると、性腺発育不全がみられ、二次性徴が出現しません。成人女性では無月経、恥毛・腋毛の脱落がみられ、成人男性では勃起不全、睾丸萎縮、恥毛・腋毛脱落などが現れます。
⑥PRL欠落症状……PRL低下による自覚症状は少ないのですが、分娩後の乳汁分泌の低下などがみられます。
検査・診断
問診によって症状から下垂体前葉機能低下症が疑われたら、血液検査で生化学検査(血糖、電解質、血液成分、腎・肝機能などを調べる)と、血中・尿中ホルモンの基礎値を測定する内分泌学的検査(各種ホルモンの値を調べて分泌状態をみる)を行います。
また、頭部MRI検査で、下垂体の形態異常、脳腫瘍、脳奇形などがないかどうかを調べます。
下垂体前葉ホルモンはその基礎値のみで判断するのはむずかしいことも多く、症状などから下垂体前葉機能低下症が否定できない場合は、機能検査として内分泌負荷検査(ホルモン分泌に影響を与える薬剤を投与して、投与前後の分泌状況をみる)を行います。
治療
原因疾患の治療を行いながら、不足しているホルモンを補充する治療が中心になります。
下垂体前葉機能低下症では、グルココルチコイド、甲状腺ホルモン、性ホルモン、GHの補充を行います。補充するホルモンによって、内服、注射、パッチ(貼り薬)など投与方法は異なります。
ホルモン薬は安全に適切な効果を得るための用法・用量が定められています。例えば①ACTHに用いられる副腎皮質ホルモン(ステロイド)は、1日の服用量を朝・昼・夕、決められた割合に分けて飲む必要があります。②TSHに用いる甲状腺ホルモン薬は朝食前に飲む必要があります。複数のホルモンが不足して、複数のホルモン薬を使用する場合には、投与の順番が決められていることもあります。
定期的な検査で効果と副作用を確認しながら治療を続けます。考えられる副作用として、以下のようなものが挙げられます。
①ACTH:副腎皮質ホルモンを補充……かぜやインフルエンザなどの感染症をくり返す、胃の痛み、血便、皮下出血、傷が治りにくい、骨粗鬆症など
②TSH:甲状腺ホルモンを補充……動悸、発汗、体重減少、不安など
③GH:成長ホルモンを補充……むくみ、関節痛、頭痛、血糖値の上昇など
④LH、⑤FSH:性ホルモンを補充……肝機能障害、前立腺肥大、血栓症、乳がんなど
なお、⑥PRLに対しては、ホルモン補充療法は行われません。
セルフケア
療養中
下垂体前葉機能低下症のホルモン補充療法は一生続けるものです。原因疾患が治癒しても、下垂体前葉の機能は通常、もとには戻りません。しかしホルモン補充療法を続ければ、多くは健康な人と同等の生活を送ることが可能です。
ホルモン補充療法は医師の指示に従った投与が大切です。また、かぜやインフルエンザなどの感染症、発熱、ストレス、外傷などによって体調に変化が現れやすく、服用方法を変更する必要が生じることもあります。副作用の出現にも留意して、治療を続けましょう。
予防
下垂体前葉機能低下症ではさまざまな症状が現れるため、何科を受診するか迷うこともあるでしょう。専門的に診てもらえるのは内分泌・代謝内科ですが、まずはもっとも強く感じられる症状を優先して科を選ぶといいでしょう(内科、小児科、皮膚科、婦人科、泌尿器科、男性外来など)。下垂体前葉機能低下症が疑われたら、内分泌・代謝内科が紹介されます。
監修
医療法人青泉会下北沢病院 糖尿病センター長
富田益臣
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