前立腺肥大症ぜんりつせんひだいしょう
最終編集日:2022/1/11
概要
前立腺肥大症は、50歳以降の男性に多くみられる良性の疾患です。
前立腺は精液の一部をつくっている臓器で、膀胱の下の尿道を取り囲むような位置にあり、本来クルミほどの大きさです。そして加齢とともに大きくなる傾向があります。
排尿にかかわる症状は、下部尿路症状と呼ばれ、加齢とともにその頻度は増加しますが、とくに男性において、その症状に前立腺の肥大が関連している場合を「前立腺肥大症」と呼んでいます。
前立腺が肥大すると尿道や膀胱を圧迫し、尿が出にくくなったり、頻尿、残尿感などさまざまな排尿障害が生じたりします。
進行すると肥大した前立腺は鶏卵やみかんほどの大きさになることもあり、尿がまったく出なくなったり、過度な頻尿や失禁などの症状が起きたりして、日常生活に支障をきたすことがあります。さらに、膀胱や腎臓に悪影響を及ぼすこともあるため、軽症のうちに治療をすることが大切です。
原因
前立腺肥大症の危険因子としては、加齢によって男性ホルモンの分泌が減り、ホルモンバランスが崩れることがおもな原因ではないかと考えられています。
また、肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症と前立腺肥大症の関連も指摘されています。
前立腺肥大症の割合は、治療を必要としない人も含めると、50歳で約3割、60歳で約6割、70歳で約8割、80歳で約9割と、高齢になるとほとんどの人が罹患しているというデータもあります。
症状
膀胱刺激期では、肥大した前立腺が膀胱や尿道を刺激することにより、尿の回数が増えたり、尿の出方が弱くなるなどの症状が起こります。
残尿期ではさらに尿道が圧迫され細くなることで尿流の低下が発生し、尿を出すまでに時間がかかる、尿の切れが悪くなるなど残尿感が現れてきます。
尿閉期になるとより頻尿が進んだり、排尿に長い時間を要するようになったりします。また、残尿が生じたり、さらに悪化すると膀胱に尿がたまっても排尿ができなくなる尿閉という状態に陥ります。
一方で、突然強い尿意に襲われて失禁してしまうこともあります。残尿や尿路感染の併発によって膀胱に結石ができたり、腎不全をひきおこしたりする場合もあります。
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検査・診断
前立腺肥大症の検査では、WHO(世界保健機関)が定めたIPSS(国際前立腺症状スコア)と呼ばれる質問票が使われることが多く、自覚症状を点数化することで客観的な症状の把握を行います。その後、尿検査により糖尿病や膀胱炎の有無や、肛門から指を入れ前立腺を触診する直腸診で前立腺の大きさや硬さ、表面の状態などを確認します。
さらに腹部エコー検査では前立腺や膀胱の形、大きさ、残尿量を調べることで、前立腺炎や尿道狭窄症、前立腺の腫瘍や結石など、ほかの疾患との鑑別を行います。
血液検査では血液中の前立腺特異抗原(PSA)を測定することで、前立腺がんの有無や腎臓の機能などを知ることができます。ほかにも専用の器機を用いた尿流量測定で尿の出る勢いを測ることもあります。
治療
前立腺肥大症であっても、症状がみられず、合併症がない場合は治療の必要はなく、経過観察となることも多くなります。
軽症の場合は薬物治療(薬を使った治療)を行います。前立腺や尿道の緊張を緩め、尿道を広げるα1遮断薬や、男性ホルモンの働きを抑えて肥大した前立腺を小さくする抗男性ホルモン薬、前立腺の炎症を鎮める漢方薬や植物製剤などが使われます。
薬の効果がみられない、進行している場合は手術を行います。現在、開腹手術はほとんど行われなくなり、内視鏡と電気メスやレーザーを用いて肥大した前立腺を取り除く手術、狭くなった尿道にステントと呼ばれる管を入れる処置などがあり、症状や状態にあわせて選択します。
セルフケア
療養中
かぜ薬や頭痛薬、内視鏡検査などで使用される薬剤のなかには、前立腺肥大症の人にとって尿閉が生じる成分が含まれているものもあります。薬の処方や検査の際には、医師や薬剤師に必ず相談することが重要です。長時間座りつづける、寒冷所にいてからだを冷やすことなどは、下半身が血行不良となるため、症状の悪化を招きます。
過度の飲酒や、排尿を我慢しすぎることも尿閉の誘因になるので注意が必要です。
予防
前立腺や膀胱、尿道への刺激を繰り返すことは、前立腺肥大症の誘因になるといわれています。日常的にバイクや自転車に乗る人はリスクを知り、前立腺肥大症への注意が必要になります。
監修
なかむらそうクリニック院長
中村聡
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