う蝕(むし歯)
うしょく・むしば

最終編集日:2023/5/17

概要

う蝕(むし歯)は、う蝕病原菌が産生する酸によって、歯が溶かされる(脱灰)病態を指します。う蝕病原菌は哺乳類の口腔内に存在する菌で、唾液や食器、食物を介してヒトの口腔内に侵入します。口腔内に侵入すると、う蝕病原菌は飲食物に含まれる糖分を取り込み、口腔内にいるほかの細菌とともに歯の表面でプラーク(歯垢)という塊を形成し、増殖しやすい環境をつくります。プラークのなかで糖分を吸収し、酸を産生するために、歯が溶けるのです。

歯は外側から、エナメル質、象牙質、歯髄(神経)からなりますが、進行度(どこまで菌の侵食が進んでいるか)によって症状や治療法が異なります。

厚生労働省の報告によると、20歳以上の9割に、う蝕の罹患歴があり、3割が未治療のう蝕を有しているということです。

近年では、歯の欠損が認知症のリスクを高めること、自分の歯や口腔機能を使って食べるのが重要であること、大きな手術に口腔内の細菌が影響を与えることなど、う蝕を始め、歯や口腔内の健康がからだ全体の健康状態を左右することが次々に明らかになっています。う蝕治療でも、できるかぎり削らず、歯髄を温存することが歯を残すことにつながるとして、新しい治療法が登場しています。

原因

う蝕病原菌(おもにS.ミュータンス菌とS.ソブリヌス菌)が原因ですが、病原菌だけでは発症しにくく、①病原菌、②食事による誘因(糖分の摂取状況、粘着性食品の摂取状況、間食の回数など)、③もともとの歯の質(歯の強さ、歯並び、唾液の分泌状態など)の3つが関係し合って、う蝕の発症や進行にかかわっていると考えられています。

症状

初期は歯のエナメル質が溶かされ始めた段階です。歯痛はなく、歯に穴が開くこともありません。白濁や薄い茶色など、歯の色が変化することがあります。エナメル質の侵食が進むと歯の一部に穴が開きます。歯痛や歯が染みるなどの症状はありません。

さらに進行して侵食が象牙質に及ぶと、歯痛、かむと痛い(咬合〈こうごう〉痛)、冷たい水が染みる(冷水痛)などが起きてきます。

侵食が歯髄に及ぶと、強い歯痛が現れます。表面の病変が小さくても内部で侵食が広がっている場合もあり、見た目と進行度合い(症状の強さ)は必ずしも一致しません。

さらに進行すると、歯神経が壊死し、痛みなどの症状は一時的に感じなくなりますが、放置しておくと歯を支えているあごの骨に病原菌が広がります。やがて病原菌が全身に広がって炎症をひきおこし、さまざまな疾患の原因となるので、早めの適切な処置が不可欠です。

う蝕

検査・診断

視診、触診、歯を軽くたたいて痛みの場所を特定するなどが行われます。部分的に写す歯科用X線や、あご全体を写すパノラマX線によって、歯根、歯槽骨、歯並びなどを精査します。同時に、歯周病、歯の欠損、補綴やインプラントなどこれまでに治療を受けた歯の状態なども把握します。う蝕歯を赤く染めるう蝕検知液を用いた診断も行われます。これらの検査で診断が困難な場合や、う蝕に隣接した面の初期う蝕の有無の評価が必要な場合には、レーザー蛍光法や光ファイバー透照診(FOTI)を用いた検査が行われることがあります。

なお、唾液の分泌量の減少が疑われるう蝕の場合、シェーグレン症候群や唾液腺の病気など、ほかの疾患が隠れている可能性があります。その場合は、専門とする診療科を紹介してもらいます。

治療

初期のう蝕はフッ化物などを定期的に歯の表面に塗布することで再石灰化を促す治療が行われます。フッ素入り歯磨き剤で毎日の歯のケアも欠かさず行い、歯質保存に努めます。

穴が開いてしまったう蝕は、病原菌がどこまで侵入しているかを調べ、侵された病巣部を取り除きます。その後、欠損部分に金属、セラミックス、プラスチック(コンポジットレジン)などの人工材料を詰めて修復します。

侵食が歯髄まで及んでいる場合は、まず歯髄を保存できるか評価します。歯髄を覆う象牙質がなくなって歯髄が外に出ている場合や、すでに歯髄が壊死している場合には、歯髄を除去する根管治療を行います。

根管治療では再発を防ぐために、病変部の細菌をできるだけ少なくする必要があります。唾液とともに細菌が入り込まないよう、ラバーダムというゴム製の膜で治療する歯を覆って根管治療を進める「無菌的治療」を行う歯科も増えています。

セルフケア

予防

う蝕の予防には、毎日のケアと食習慣の見直しが不可欠です。


●毎日のケア

食後と就寝前にブラシ、デンタルフロス、歯間ブラシを使って、歯磨きを行いましょう。1度に2~3本ずつ、歯の根元にブラシの先を当てて、小刻みに左右に動かします。歯磨き剤を適量使いますが、磨き終わった後、うがいは1回にとどめます。これは歯磨き剤に含まれる歯を強化する成分(フッ化物など)を口腔内に残すためです。なお、歯髄を除去した歯でも、う蝕が再発し、歯根周囲に病変が広がって炎症を起こすこともあります。油断せずにケアをつづける必要があります。


●食習慣の見直し

・よくかむ、軟らかい物ばかり食べない……よくかむことで唾液を口腔内に十分行き渡らせることがポイントです。また、硬い物、かみ応えのある物を食べることで、歯の表面に付いたプラークを減らし、唾液の分泌を促すことができます。

・糖分摂取を控える……糖分摂取量とむし歯の数には強い関連があることがわかっています。甘い物をとりすぎない、甘い物を食べる頻度を減らすなどを心がけましょう。キシリトールなどの代替甘味料が使われているお菓子にすることもプラスになります。キャラメルなど、歯に付きやすい甘い食べ物は控えましょう。


●定期歯科検診、歯並びの治療

う蝕になりやすい歯質か、歯並びや修復した歯などによって磨きにくい場所があるかなどを歯科医にチェックしてもらい、自分のリスクを知っておきましょう。そのうえで半年から年1回程度の、定期的な歯科検診を受けることをおすすめします。定期歯科検診は、う蝕の有無だけでなく、歯周病の予防にも有効です。また、予防処置として、う蝕を起こしやすい奥歯の溝などを埋める「シーラント」などを行うこともあります。

恐怖心からどうしても歯科を受診できないという人もいます。無痛治療など、さまざまな対応をする歯科も増えているので相談してみるとよいでしょう。


●親から子への感染を防ぐ

う蝕病原菌の感染でもっとも多いのは母親・父親など大人から子どもへの感染です。口移し、キス、同じ食器を使う、息を吹きかけて食べ物を冷ますなどは、感染のリスクがあるとされています。とくに生後19~31カ月は、う蝕病原菌が移りやすい時期といわれ、注意が必要です。

監修

新高円寺はっとり歯科医院院長

服部重信

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