脳梗塞
のうこうそく

最終編集日:2025/12/26

概要

脳梗塞は、脳の血管が動脈硬化などで細くなったり詰まったりして脳への血流が途絶え、脳の細胞に酸素や栄養が送れなくなったために、その先の脳細胞が死滅し、麻痺や言語障害などが起こる病気です。

脳梗塞は発症原因によって次の3タイプに分けられます。


●ラクナ梗塞

「ラクナ」とは小さな空洞という意味で、脳の細い血管が詰まるタイプの脳梗塞です。小さな梗塞が多く発生し、無症状のケースも多く見られます。症状を伴わない場合は「無症候性脳梗塞」や「かくれ脳梗塞」と呼ばれることがあります。脳梗塞の中でもっとも多く、高齢者に比較的多く発症します。症状はゆっくりと進行し、段階的に悪化していきます。

●アテローム血栓性脳梗塞

「アテローム」とは、動脈の内壁にたまった脂質や、コレステロール、カルシウムなどの沈着物のことで、血管内にできることで動脈硬化をきたします。この脳梗塞は、脳内の太い動脈や頸動脈が、アテロームによる血栓や血管壁からはがれた血栓によって詰まることで起こります。

●心原性脳塞栓症

心臓にできた血栓が脳内の血管まで流れてきて、太い血管を閉塞して生じる脳梗塞です。それまで問題のなかった血管が突然詰まるため、意識障害などの重篤な症状が急に出現し、死に至ることもあります。

心房細動などの不整脈や、心臓弁膜症などの心臓病の患者さんに多く発生する傾向があります。

原因

原因としては、高血圧症、心房細動などの心疾患、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病や、慢性腎障害が挙げられます。これらの病気は徐々に動脈硬化を進行させ、脳梗塞を引き起こします。

喫煙や多量の飲酒、過度な運動なども動脈硬化の原因になります。


(左)正常な脳と(右)脳梗塞
(左)正常な脳と(右)脳梗塞

症状

脳梗塞のおもな症状には次のようなものがあります。

・片側の手足や顔半分に麻痺やしびれが起きる

・ろれつが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない

・立てない、歩けない

・片側の目が見えない。物が2つに見える、視野が半分欠ける

くも膜下出血や脳出血と異なり、脳梗塞では頭痛は少ないものの伴うことがあります。さらに脳の腫れ(腫脹)が進行して症状が重篤になると、意識がなくなり昏睡状態に陥って、命がおびやかされます。

検査・診断

脳梗塞が疑われるときは、頭部CT検査、MRI検査、CTA(CT血管造影法)検査、MRA(磁気共鳴血管造影)検査、頸部頸動脈超音波検査などの画像検査で、梗塞や出血の有無(脳梗塞部から出血が起こる出血性梗塞があります)、脳梗塞のタイプ、症状の程度を確認します。早期の脳梗塞は頭部CT検査では見つからないことが多いため、頭部MRI検査が必要になります。

MRI検査は脳梗塞の診断にはもっとも重要な検査で、早期から脳梗塞を確認することができます。脳梗塞の患者さんでは、症状に気づいていなくても複数の梗塞がしばしばみられることがありますが、その中でどれが新しい梗塞かを知ることができます。

MRA検査で脳血管の状態を確認します。動脈硬化が進行して細くなった血管や、脳血管の閉塞、くも膜下出血の原因になる動脈瘤の有無なども調べます。脳梗塞の原因を知るために大事な検査であり、今後の治療や予防を行うために必要な情報も得られます。

また、SPECT(脳血流検査)や脳血管造影検査(血管内にカテーテルを挿入し、造影剤を注入して血管の狭窄や閉塞などをみる)が行われることもあります。

SPECT検査では脳の血流がどの部位でどのくらい減少しているかを知ることができます。この検査は血流を増やす手術の適応を判断するのにも行われます。

必要に応じて心電図検査、さらに心臓超音波検査などを行うこともあります。

治療

治療には薬物療法(薬による治療)と血管内手術、外科的手術があります。血管が閉塞して発症した急性期には、詰まった血栓を溶かしたり、血栓溶解薬(繊維素溶解酵素:t-PA)を用いた超急性期血栓溶解療法、血栓を除去する手術(脳血栓回収療法〈カテーテル療法〉)が行われます。これらの実施は発症からの時間に左右されるため、治療時間を逸しないためには迅速な受診が必要です。

急性期の脳の浮腫を抑えるためにはグリセロールなどを用いた抗浮腫療法が行われます。血栓をつくらせないようにするための治療には、抗血小板薬(アスピリン錠やオザグレルナトリウム注射液など)、抗凝固薬(アルガドロバンなど)が使われます。

頸動脈の狭窄が血流の減少や血栓が飛ぶ原因となっている場合には、血流を増やすために、血管内手術(頸動脈ステント留置術〈CAS〉)、外科的手術(頸動脈内膜剥離術〈CEA〉)やバイパス手術(直接的血行再建術)を行うことがあります。

薬物療法では、脳梗塞の原因となる血栓ができるのを防ぐ2種類の薬(抗血小板薬、抗凝固薬)があり、それらを使用します。多くの場合、脳の血管や頸動脈での血栓に対しては抗血小板薬(バイアスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール、チクロピジンなど)を用い、心臓での血栓に対しては抗凝固薬(DOAC、ワルファリン)がよく使われます。血栓の性状が異なるためです。


●ラクナ梗塞

抗血小板薬による治療が行われます。使われる抗血小板薬は、バイアスピリンやクロピドグレルの内服、オザグレルナトリウムの点滴などが行われます。


●アテローム血栓性脳梗塞

抗血小板薬を使った治療が行われます。ただし、症状の改善が認められない場合は、外科的手術やステントを留置する血管内治療が行われることもあります。


●心原性脳塞栓症

血栓の新たな形成を防ぐために抗凝固薬による治療が行われます。従来、急性期には点滴薬のヘパリンを、その後は内服薬のワルファリンを使った治療が行われていましたが、最近はDOACと呼ばれるダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンの4種類が認可され、治療に使われています。

セルフケア

予防

血栓予防のため、脱水に気をつけましょう。夏場、運動後などは特に注意が必要です。また、高齢者は年齢とともに脱水状態になりやすく、水分摂取も少なくなる傾向があります。夜間や入浴後は脱水になりやすいため、夜起きたときに少量の水分を補ったり、長湯は避けて入浴後には水分補給をしましょう。

また、たばこに含まれるニコチンは血圧を上昇させ、動脈硬化を進行させるといわれているため、禁煙も大切です。さらに、高血圧症や糖尿病、脂質異常症などのいわゆる生活習慣病の予防のために、食生活では塩分やカロリーのとりすぎ、食べすぎ、飲みすぎなどを避け、バランスのよい食事を心がけます。

有酸素運動(ウォーキング、水泳など)などを継続することも大切です。運動の際も忘れずに水分補給を心がけましょう。

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監修

昭和医科大学医学部脳神経外科 名誉教授

藤本司