くも膜下出血
くもまくかしゅっけつ

最終編集日:2023/3/17

概要

脳と脊髄は外側から硬膜、くも膜、軟膜という3層の膜に覆われています。くも膜下出血では、くも膜と軟膜の間の「くも膜下腔」に出血が起こります。もっとも多い脳動脈瘤の破裂によるものは、年間1万人に1~2人に発症し、女性は男性の1.5倍の発症率で、50~60代に好発します。緊急を要する病気で、死亡率は25~50%、治癒しても社会復帰できるのは3人に1人で、3人に1人に後遺症が残るとされています。また、再破裂を起こすことも多く、再破裂例での治癒率はさらに低下します。

原因

くも膜下腔は脳脊髄液に満たされ、脳動脈や脳静脈が走っています。この脳動脈に脳動脈瘤(動脈壁の一部がふくらんだもの)ができ、それが破裂することで出血が起こります。なぜ脳動脈瘤ができるのかはまだ解明されていませんが、先天的な要因や動脈硬化、高血圧症などの関与が指摘されています。くも膜下出血の約85%は脳動脈瘤の破裂によるものと考えられていますが、そのほか、奇形のある脳血管(脳動静脈奇形など)や外傷などが原因となる場合もあります。

(左)正常な脳と(右)くも膜下出血
(左)正常な脳と(右)くも膜下出血

症状

突然、それまでに感じたことのないような強烈な頭痛が起こります。「○時〇分に起きた」「〇〇をしようとしたとき痛くなった」とはっきり言えるほど、突然発症します。吐き気や嘔吐を伴い、発症時に一時的に意識を失うこともあり、けいれんを伴うこともあります。

発症の前に、前駆症状として軽い頭痛がしたり、一時的に強い頭痛が繰り返されたりすることもありますが、多くは見逃されてしまいます。また、まぶたが下がる、斜視になるなどの動眼神経麻痺が現れることもあります。

検査・診断

痛み方などの問診から、くも膜下出血が疑われたら、頭部CT、MRIで診断をつけます。脳動脈瘤をくわしく調べるために、MRアンギオグラフィ(MRA)や、造影剤を用いる3D-CTアンギオグラフィ(3D-CTA)も行われます。とくに出血が少量の場合や、発症から時間が経っている場合には、出血部位を確認しにくいことがあります。そのようなときにMRAや3D-CTAが有効です。また、腰椎穿刺を行って確定診断とすることもありますが、再破裂を誘発する可能性があり慎重を要します。

緊張性頭痛、片頭痛、硬膜下血腫、椎骨動脈解離性動脈瘤などとの鑑別診断も重要です。

治療

くも膜下出血の治療は大きく3つの段階に分けられます。

①まず、降圧・鎮静・鎮痛治療を行い、頭蓋内圧を下げて状態を安定させ、再出血を防ぎます。

②そのうえで、破裂脳動脈瘤に対する根治的治療として、開頭クリッピング術、あるいはコイル塞栓術のいずれかが、動脈瘤の場所、大きさ、形、破裂の有無、全身状態、合併症、年齢などを考慮して選択されます。


根治的治療はできるだけ早く、発症から72時間以内に行うことが望ましいとされています。


●開頭クリッピング術……全身麻酔下に開頭し、出血を起こしている動脈瘤の根元をチタンやコバルト製のクリップで挟み、血流を遮断します。動脈瘤の場所、大きさ、形にあわせてクリップが選ばれます。からだへの負担は大きいですが、根治率の高い方法です。脳の深い部位に脳動脈瘤があるとアプローチがむずかしくなります。

●コイル塞栓術……血管内治療のひとつで、カテーテルという細い管を、血管を通して脳動脈瘤まで到達させ、こぶの中にプラチナ製のコイルを詰めて血流を遮断し、こぶを小さくする方法です。太ももの付け根の動脈を挿入口とします。局所麻酔下で行われるため、からだへの負担は少なく、脳の深い部分でも到達が可能です。しかし、コイルがずれて血管の閉塞を起こしたり、治療が不十分だったりした場合、再破裂やこぶの増大を招くなどの危険性があり、開頭クリッピング術よりも根治性は低いとされています。


③くも膜下出血発症後、4日~2週間の間に、約30%に遅延性の脳血管れん縮(脳の血管が収縮して細くなる)が起こり、脳梗塞のリスクが高くなります。れん縮の予防のために腰椎ドレナージで血液を除去したり、薬物療法を行ったりします。また、水頭症も起こりやすくなるため、その兆候がみられたら、速やかに治療を行います。


●再発リスクについて

くも膜下出血は、初回の出血が治まっていても再出血のリスクが非常に高く、初回出血から24時間後、さらには1~2週間後に再出血のピークがあるとされています。再出血を起こすと、死亡率および後遺症のリスクも高くなります。くも膜下出血の治療は、再発を起こす前に動脈瘤を処理し、出血を防ぐ治療といっても過言ではありません。

セルフケア

予防

くも膜下出血のリスク因子として、喫煙、高血圧、過度の飲酒が挙げられています。とくにお酒の飲みすぎはリスクのない人の4.7倍の発症リスクがあるといわれています。禁煙に努め、塩分は1日6g未満、アルコールはビールなら中瓶1本、日本酒・ワインなら180mL、焼酎なら0.8合、ウイスキーならダブル1杯までを目安にしましょう。入浴や排便時に血圧の変動が起こりやすく、急な温度変化や便秘時の力みなどを避けるよう注意が必要です。

また、脳ドックなどで未破裂脳動脈瘤の存在を指摘された場合は、専門医の指導の下で経過観察をつづけ、出血や破裂のリスクが高くなった場合は適切な治療を受けることを考慮しましょう。

監修

昭和大学 医学部脳神経外科 名誉教授

藤本 司

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